あまくてほろにがいふたり_2
蘭に奢った日の翌日、彼が私の前に現れた。今日は機嫌が良さそうだ。お礼参りでもして機嫌がいいんだろうか。「今日はなんだかご機嫌だね」
と私が口を開くと、
「ま、確かに気分最高だな。だからオマエに奢る」
「奢るって」
「ケーキに決まってんだろ。オレの行きつけのケーキ屋行くぞ。ついてこい」
半信半疑でついていくと、蘭は人気のない路地裏をスイスイと進み、真っ黒な外装のお店に着いた。
ケーキ屋…? 本当に? ここが? そもそも営業してる?
看板には文字が書かれていないし、窓から中を伺うこともできない。
失礼を承知で言うなら、やばそうなブツを取り扱ってるお店のように見える……が、蘭はあっさりドアを開けて店内に入ってしまった。慌てて私も後を追う。
店内に入ると、ふわりと甘い香りが漂った。人工的な香りじゃなくて、焼きたてのケーキの香り。そして洋菓子店で良く見るショーウィンドウには、様々なお菓子がお行儀よく並んでいた。
本当にケーキ屋さんだったんだ。疑った自分を内心で恥じる。
「オマエはなんにすんの?」
「えーと…そうだなー」
左端から右端まで、じっくり眺める。色々あって迷うが、その中にガトーショコラを見つけた。
私が「これにする」と伝えると、蘭はお店の人にモンブランとガトーショコラを注文する。
支払いを済ませ、二人で店内の小さい椅子とテーブルが置かれたところに向かった。どうやら、ここで食べていくこともできるらしい。
ガトーショコラに恐る恐るフォークを入れて、一口。
「おいしい」
と思わず呟くと、
「だろ?」
と、蘭は得意げだ。そして彼もモンブランを食べ始めた。
それから黙々とフォークを口に運び、全部食べ終えた。セットの紅茶を飲んでいると、こちらをじっと見ている蘭と目が合った。
なんだろう、と思う間もなく、蘭は私に顔を近づける。そのまま、私の唇のすぐそばを舐めた。
「え、は、なに……?」
「ガトーショコラ。ついてた」
「ついてた、って……別に舐める必要なかったでしょ!!」
されたことを理解するうち、顔が熱くなる。
「いーじゃん。今回まだオマエの分もらってなかったし」
「なっ……んで一口もらうこと前提なのかなぁ!?」
蘭はニヤニヤ笑っている。これ絶対わざとだ。だって、今の、唇のキワを狙ってべろんって!
「つーかオマエがスキだらけなのが悪い。嫌ならもっとお行儀良く食えよ」
「うっ……」
美味しかったから、がっついてしまった自覚はある。だから口の周りが食べカスだらけだったんだろう。でもそれなら指でそっと取るとか、ついてることを教えてくれるとかでもいいんじゃないかなぁ。
……次、また一緒に食べる機会があるかわからないけど、その時は大人しくおしとやかに食べよう。私はそう心に誓った。
