あまくてほろにがいふたり_3
あれからそこそこの頻度で、蘭と一緒にケーキを食べるようになった。目玉が飛び出るような高級店から、雑誌に載らないような隠れた名店まで。共通しているのは、どのお店にも必ずモンブランとガトーショコラが置いてあること。そして、蘭が私の食べるガトーショコラを一口ぶんどっていくこと。「ナマエー。今日もヒマだろ?」
「ケーキ屋さん行くの?」
「そ。評判高そーだし。行こうぜ」
いいよ、と頷いて、私は蘭の後について歩く。たどり着いた先で目に入ったのは、パステルカラーの外壁と、丸っこい文字の看板。中に入ってショーケースをみると、やっぱりそこにはモンブランがあった。その隣には、ガトーショコラも。
「オマエは何にすんの? ガトーショコラ?」
「うーん……今日は蘭と同じモンブランにしよっかな」
「……へえ? どーいう風の吹き回し?」
「なんとなくだよ」
などとごまかしたけど、もちろん噓だ。ちゃんとした理由がある。
いつも蘭と違うものを選んでいるから、彼に狙われるんだろう、と私は考えた。だから、注文がまったく一緒なら、さすがに横から搔っ攫うような真似はしないはず。これなら完璧だ、そう思っていたのに――。
「じゃ、オレはガトーショコラにすっかな」
「え」
なんだと!? 想定外だ。何があっても蘭はモンブランを選ぶと思っていたのに! どうしよう、これ今から「やっぱ私もガトーショコラにする」とか言ったら怪しまれるよね……。
ていうか、変えたら変えたで「ならオレはモンブランにするかー」って言いそうな気がする。蘭は絶対言う。多分きっとそう。
あれこれ悩んでいたら、蘭はさっさと店員へ注文してしまっていた。ショーケースの中から、ガトーショコラとモンブランが外に出る。蘭は会計を済ませると、白いボックスに入ったケーキを受け取った。あ、今日は家で食べるのね。
私は蘭の家に招かれて、彼の家のソファに座らされた。お茶を淹れるというので手伝おうと思ったら、「いいから座ってろー」などと言われてしまったからである。ケーキも向こうにあるから配膳もできないし、手持ち無沙汰だ。
落ち着かなくてあたりをきょろきょろ見回していたら、蘭がケーキとティーポット、そしてカップを載せたトレイを持って現れた。
カップに澄んだ赤が注がれると、華やかな香りがふわりと立ちのぼる。
「……蘭の家に紅茶があるんだね」
「リプトンのティーバッグだけどなー」
「ポット使って丁寧に淹れてるの、蘭らしいね」
蘭は結構几帳面だもんなあ、と私は思う。ケーキ以外でも、私の好きなもの覚えているし。そしてそれについてよくいろんな情報を教えてくれるし。
紅茶とともに、買ってきたケーキを静かに食べる。不意に蘭がフォークを持つ手を止めて、私を見た。
「ところでオマエさ」
「うん?」
「オレに一口取られたくなくて、わざとモンブラン選んだろ」
私は飲んでいた紅茶が気管に入り、盛大にむせた。なんでバレてんの?
「分かり易過ぎんだよ、ナマエは。バレバレだっての」
「うわ、恥っず……」
「オマエのことならオレは何でもお見通しだからな。しょーもない噓も作戦も、すぐバレんぞー」
「そういえば、私がちょっと話したこととか、よく覚えてくれてるもんね。あれが好きとか、これ気になるーとか。もしかして私のこと好きなのー?」
あははそんなわけないかー、と言おうとしたら、蘭が急に押し黙ってしまった。あれ、なに、なんで顔が赤いの??
理由を問いただそうとしたら、話を無理やり終わらせるように、蘭は何の前触れもなくフォークを突き立てた。私が食べていたモンブランに。そのまま半分、ごっそり奪い取ってしまった。
「ちょっと、」
「さっさと食わねェ方が悪い」
「ねえなんで顔赤いの!?」
「知らね」
さっきまでの余裕が、蘭から消え失せていることくらい、私にもわかる。加えてこのあからさまな話の逸らし方。まさか、ね。
これ以上触れてほしくないようだったから、私ももう何も聞かないことにした。
聞いてしまえば、きっと答えなきゃいけなくなる。今の私には、荷が重すぎる気がした。
