等しく心にキズを負い_2

竜胆目線。


 狂極の残党がオレと兄貴を狙っている、とタレコミがあった。オレらだけならともかく、ナマエも狙っていると聞かされちゃ、さすがに放っておけない。
 だから、兄貴と二人で全員ぶちのめすことにした。
「兄貴ー、あと一人どこー?」
「あっち行ったぞ。挟み撃ちな、竜胆向こうから回り込め」
「りょーかい」
 逃げた一人を追い詰めるべく、オレは走り出す。その瞬間、着メロが鳴り響いた。このメロディは、ナマエからのメールだ。今すぐ開いて返信したい気持ちを抑え、携帯をマナーモードに切り替えた。
 残りの一人を意識がなくなるまで痛めつけ、オレはそこでようやく携帯を開く。受信メールボックスには、ナマエからのメールが一番上に来ていた。件名は「なにしてる?」で、本文は「久しぶりに会いたいな」。オレはすぐさま返信画面を開いて「悪ぃ、ずっと返信できなくて」と打つ。少し悩んで、それを全部消すと「今から会わねぇ?」とだけ打ちなおして送った。
「オレは帰るけど、竜胆はどうすんの?」
「ナマエとデートしてくる」
「……オマエ今何時だと思ってんの? もう日付変わんのに?」
「でも、あいつに会いたい」
「あっそ。愛想尽かされねェよーになー」
「わーってるっての。兄貴こそ寝ずに帰れよー」
 兄貴はでかいあくびをしながらフラフラ歩いて帰ってった。相当眠ぃんだな。

 それからしばらくナマエとメールのやりとりをして、今いる場所を伝えた。数十分後に、ナマエはオレの所へ来てくれた。寝てたかもしれねェのに、きちんと身なりを整えて。お互い久々に会えたから、オレもあいつもずっと笑ってた。しょうもない話をしながら夜道を歩いて、あいつの住むアパートに泊まって。
 満たされた気持ちで朝を迎えたら、兄貴の鬼電で叩き起こされて。
「……もしもし?」
「オマエどこいんの?」
「ナマエん家。なんかあったの?」
「なんかあったの? じゃねぇよ。今日、天竺の集会だろ」
「……あ」
「忘れてたな?」
 そういや今日だった。横浜でイキッてる暴走族チームをシメにいくとかなんとか。すっかり忘れてた。
「五分で来い。遅れたらオレまでどやされんだからなー」
「今行く」
 オレは布団を蹴飛ばして、身支度もそこそこにナマエの家を後にした。書置きでもメールでも残しとけばよかったのに、そこまで頭が回んなかった。
 そうして諸々の厄介ごとが片付くのに、一ヶ月かかった。その間、ナマエとデートはおろか、メールの一通すら返せていない。携帯を開くたび、ナマエからのメールと着信が少しずつ増えていく。
 メールはオレのことを心配してくれてる内容ばっかだし、着信もきっとそういう不安からだろう。
 ……返さなきゃ、とは思っていた。でもそれだけ。兄貴から「行くぞ」と声が飛んできて、また携帯をポケットへ突っ込む。
 ようやく時間ができたかと思えば、取り巻きの奴等から声をかけられて。断っても「少しだけでいいから」と言われて気乗りしないまま朝を迎えて。知らねぇホテルで眠りこけてたときはさすがに焦った。
 気が付けば、ナマエからのメールも着信も、ぱったりと止んでしまっていた。慌ててメールを送っても、何も反応がない。それなら、と電話をかけてみても、繋がらない。時間をおいてかけ直してみても、結果は同じだった。じゃあ、ナマエの家に行ってみるか?
 ……もし知らねェ男と一緒にいたら。そう考えた瞬間、全身がさあっと冷えていく。
 いつものオレなら、都合なんて考えずに突っ込んでいくのに。ナマエに「もう竜胆はいらない」と言われたら。それだけで恐怖に駆られる。
 愛想尽かされねェよーになー、という兄貴の言葉が頭をよぎる。彼女をほったらかす男なんて、飽きられて当然だ。
 会いたい。でも、足は動かない。缶ビールを一本空けて、また一本。酔えば忘れられると思った。
 ……忘れられるわけがなかった。兄貴はそんなオレを一瞥すると、小さくため息をついて部屋を出ていった。行き先を聞く気にもなれず、オレは次の酒に手を出す。今度はもっと度数の強い酒を。

「竜胆。ナマエ見つけたぞー」
 兄貴が帰ってくるなりそんなことを言うから、オレは反射的に顔を上げる。兄貴の隣には、間違いなくナマエがいた。今を逃したら今度こそ逃げてしまいそうな気がして、オレは素早く飛び掛かった。
 その温かさに、涙が出る。こらえていたものがあふれて、あいつの名前すらうまく呼べない。
 ナマエは兄貴と二言三言やりとりを交わす。そしてオレを見て、
「……本命の女の子とは別れたの?」
 と聞いてきた。
「はぁ!? 本命はオマエだよ!!」
「……でもメールを送ってきてた女の子が本命なんじゃないの?」
「は? 誰のことだよ」
 さっきから何のことだ。オレが怪訝そうな顔をしていると、ナマエが写真を見せてきた。寝てるオレの隣に、下着姿の女が写っている。
「うーわ。竜胆オマエ……」
「知らねぇ、知らねぇってこんなヤツ!」
「冗談だけどさ。オマエがナマエ一筋なのはオレがよく知ってっからな。それにしたってスキだらけじゃね?」
「う……」
 心当たりがない、と言ったらウソになる。オレに付きまとってこびてた女。ホテルで目を覚ました時、そいつと同じ甘ったるい香りがした。携帯にロックもかけてなかった。全部、オレが油断してたからだ。
 オレはナマエに一つ一つ理由を話す。メールを返せなかったこと、電話にも出なかったこと。真夜中にいきなり「会いたい」とメールしたこと。
 全部話したら、ナマエはぽつりと呟いた。
「お互いちゃんと伝えればよかったね。理由とか思いとかさ」
 離れたくなくて、腕に力をこめる。背中を撫でられる感覚。
 その手が振り払われないことに気付いた瞬間、全身から力が抜けた。次に目を開けるまでの記憶は、ほとんど残ってない。
 ……起きた後、オレがこっそり書いてた思いの丈をつづったリリックが兄貴にバレてたことを知って青ざめた。そしてナマエの前でそれを読み上げ始めたから、違う意味でナマエに顔見せらんなくなった。
 まさかナマエも似たようなことをしてたとは思わなかった。オレら似た者同士なのかもな。

perv

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