まばゆいほどの想いはきんいろ

 人生で初めてラブレターをもらった。移動教室から戻ってきたら、机の中に入っていたのだ。
 差出人は書かれていない。中の便箋には、
「ナマエさんへ 今日の放課後、体育館裏で待っています」
 とだけ。心臓がドキドキするのを抑えながら、私は放課後を待って指定された場所へ向かった。
 そこにいたのは蘭だった。正確にはもう一人いる。ボコられて地面に突っ伏している男の子が。おそらく彼が私にラブレターをくれたんだろう。
「なーに楽しそーなことしてんだよ。オレも混ぜろよ」
 蘭の言葉を無視して、ボコられた男の子の側に向かう。すると、腕をガッと掴まれた。
「無視かー? よくねェなー」
「からかいに来たんなら帰って」
「つれねぇ奴」
「そりゃあね……」
「ずっと言ってんじゃん。付き合うならオレにしとけって」
「嘘はよくないよ」
「オマエに嘘つく必要ねェだろ」
「それ以前に私と関わる必要ないでしょ」
 蘭は私のことを好いていない。2か月前、私が書いた手紙を手に取って、開けもせずに真っ二つに引き裂くところを、自分の目で見てしまったから。
 読んでくれるかな、と物陰から見守っていた私もまあまあ気持ち悪いのは認める。それにしたって、読まずに破るなんて相当だ。
 だから私は、蘭と関わりたくない。まだ好きだから、思い出すと辛い。
 何を言われても信用しない。口でなんと言おうと、ラブレターを破り捨てるなんてよっぽど嫌っていないと出来ない芸当だ。
「……これ以上辛い気持ちになりたくないし」
「なんでだよ」
「だって一回フラれてるもん」
「誰に」
「蘭にフラれたよ。手紙すら読んでもらえなかったし」
「……手紙?」
「下駄箱に入れたよ。その場で破り捨ててたの見ちゃった」
 掴まれていた力が緩んだ。蘭は呆けた顔をしている。それから、顔がみるみるうちに歪む。
 まるで自分が最悪の選択をしてしまった時のような、そんな表情。
 ……あれ。おかしいな。
 私はずっと蘭にフラれたと思っていたのに、そんな顔するってことは。
 まさか、期待しても、いいのか……と、思っていたら、再び腕を掴まれた。
 連れてこられたのは、誰もいない教室。流石にみんなもう帰ったみたいだ。
 蘭は自分の机から紙を引っ張り出す。
「書け」
「……何を?」
「ラブレター。オレに宛てた手紙。書くまでオマエのこと帰してやんねーから」
 いくらなんでも覚えてない、とは言い出せない空気だ。私は言われるがまま紙を受け取り、バッグの中にあるペンケースからシャーペンを取り出さざるを得なかった。
 ――そうして今、私は人生で二度目となるラブレターを書いている。正確には書かされている。
「オレになんて伝えようとしたか教えろよー」
 と、目の前の男がうるさいからだ。私が何度断っても書けと詰め寄ってくるので、諦めて従うほかなかった。
「……ありきたりな言葉だよ?」
「告白なんてそんなもんだろ」
 ニヤニヤ笑う蘭は、警棒の先端で机を叩いて私を急かす。
 便箋を前に、私はあの時書いた文章を記憶の片隅から必死に捻り出していた。まず最初に「蘭へ」と書き出し、シャーペンで紙面をコツコツ叩きながら少しずつ文字を記す。
「いきなりごめんね。どうしても……」
「読み上げないでよ!!」
「別にいーだろ。そのまま書け」
 オレのことは気にすんな、と言われてもいちいち音読されたら気が散るに決まってる。
 でも全部書かないと多分解放してもらえない。とにかくラブレターを書き上げることに専念しよう。
 私は気を取り直してシャーペンを走らせる。
「気持ちを伝えたくて手紙を書きました。勘の鋭い蘭のことだから、多分バレてたと思うけど、ずっと好きでした」
横で読み上げられているのもあって、恥ずかしさが募る。教室に誰もいなくて本当に良かった。私は深呼吸して続きを書く。
「付き合えるとは思っていない。でも、ちゃんと気持ちを伝えておきたかった。蘭はモテるし、私のことはその他大勢の一人としか思ってなかっただろうし……」
 そこで蘭の声が止まる。私は気にせず、続きを書き続ける。
【でも私は蘭の気持ちが知りたい。おこがましいけど、返事をください。
今日の放課後、旧校舎の屋上で待っています。】
 確かこんな文を書いたな、と思いながらシャーペンを手放して顔をあげる。
 そこにいたはずの男は、忽然と姿を消していた。
「……書けって言っといてなんでいなくなるのよ」
 どこ行ったんだ、と席を立ち上がる。私の勘が正しければ、多分あそこにいるだろう。

 予想は当たった。蘭は旧校舎の屋上にいた。
 鍵が錆びて壊れた扉は、立ち入り禁止の札が下げられているだけで、自由に出入りできてしまう。
 私は札を避けて、フェンスに寄りかかる蘭に近づく。そのまま蘭の真似をして、そこに寄りかかった。軋んだ金属の音が響いた。
 でも、何も言わない。
「……ねえ」
「んだよ」
「返事は?」
 私に返事をしたくて、ここまで来たはずなんだから。何か言って欲しい。
 でないとずっと黙りこくっちゃって気まずいから。そんな思いを込めて蘭を見据えていると、ようやく彼は口を開いた。
「……オレさ、オマエのことなんてなんとも思ってなかったワケ」
 2か月前のラブレターも差出人書いてなかったし、よくある悪戯だと思ってた、と彼は続ける。そう言えば名前書いてなかったな、あの時の手紙。
「でもさ、オマエが知らねェヤツに呼び出されてんの見て、滅茶苦茶イラついた。で、気づいたら追ってたしそいつボコしてた」
「……うん」
「そん時思い知ったわ。オレ、ナマエのこと好きだって」
 私はフェンスから体を離して、蘭に向き直る。
「蘭の顔、真っ赤だね」
「は……。夕焼けのせいだろ」
 即座に背中を向けられた。
 頬と耳が真っ赤になってるのを、夕焼けのせいにするには赤すぎるんじゃないかなあ。

タイトルはまばたき様からお借りしました。


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