まばゆいほどの想いはきんいろ_2

蘭目線。

 授業をさぼって、フラッとあいつのクラスに行った。そうしたらもぬけの殻だった。誰もいない教室に入り込んで、ナマエの机に近寄る。そうしたら、見慣れない封筒が一通、目立つように突っ込まれていた。
 封はされていなかったから、開けて読んだ。
「ミョウジさんへ 今日の放課後、体育館裏で待っています」
 とだけ書かれた便箋が一枚。差出人のないその手紙を見て、2か月前のように破って捨ててやろうかと思った。
 でもそのまま放っといた。ナマエに告白しよう、なんて考えるヤツの面を拝んでみたかったからだ。

 放課後。そっと体育館裏へ向かうと、既に一人の男がそわそわしながら待っている。あいつだな、と確信があった。見るからに普通な、そこら辺にいる通行人Aだ。ナマエのどこに惹かれたか知らねェ。が、そいつとナマエが楽しそうに話す様子を想像して胸糞悪くなった。
 わざとらしく足音を立てて、そいつの前に姿を見せる。音に気付いてパッと顔を上げたが、すぐにそいつの顔は困惑に歪んでいった。
「……あの、なにか用事、ですか?」
 オレは何も答えない。答える義理もない。その代わり、手が出ていた。そいつが地面に倒れこんだところで、誰かの足音が聞こえて振り返る。ナマエだった。机に突っ込まれていた手紙を見て、ここまで来たらしい。
 期待に満ちていた表情は、オレを見て即座に消えた。なんだその顔。オレのどこが不満なんだよ。オレが話しかけてやっても、ナマエはオレを無視する。反射的に、あいつの腕を掴んでいた。
「無視かー? よくねェなー」
「からかいに来たんなら帰って」
「つれねぇ奴」
「そりゃあね……」
「ずっと言ってんじゃん。付き合うならオレにしとけって」
「嘘はよくないよ」
「オマエに嘘つく必要ねェだろ」
「それ以前に私と関わる必要ないでしょ」
 関わる必要があるかどうかはオレが決めることだろ、と言おうとしたら、ナマエがさらに言葉を続ける。
「……これ以上辛い気持ちになりたくないし」
 顔を伏せるナマエを見て、なんでだよ、とオレは聞き返す。それに対して返ってきたのは「一回フラれてる」という言葉だった。心臓が嫌な音を立て始める。
 短く「誰に」と問うと、オレにフラれた、と言う。ナマエの腕を掴む力が緩む。
 ……あの手紙、あいつが書いたのか。
 差出人のない手紙。オレが開けもせず破った手紙。オレはもう一度ナマエの腕を掴んだ。
 破ってしまったなら、もう一度書かせればいい。誰もいなくなった教室に連れ込んで、書け、と命じた。
「書くまでオマエのこと帰してやんねーから」
 とどめを刺すようにそう言うと、ナマエは諦めたようにシャーペンを持つ。
 思い出しては書き、少しずつ文字が紙に並び、やがて文章になる。わざと読み上げてやると、ナマエはいやがった。でも気にせず読み上げていたら、途中で声が止まった。
【蘭へ
 いきなりごめんね。どうしても気持ちを伝えたくて手紙を書きました。
 勘の鋭い蘭のことだから、多分バレてたと思うけど、ずっと好きでした。
 付き合えるとは思っていない。でも、ちゃんと気持ちを伝えておきたかった。
 蘭はモテるし、私のことはその他大勢の一人としか思ってなかっただろうし。
 でも私は蘭の気持ちが知りたい。おこがましいけど、返事をください。
 今日の放課後、旧校舎の屋上で待っています。】
 あいつのまっすぐな気持ちを聞いてしまって、あの場で二人きりになっているのが急に恥ずかしくなった。カリスマが照れるとかありえねェし、見られたら末代までの恥だから、オレは逃げた。旧校舎の屋上に。
 ……返事は、きっちり返してやるつもりでいた。

 オレは埃っぽくなった立ち入り禁止の札をまたいで、掃除のされていない屋上に踏み入る。フェンスも錆だらけだ。寄りかかると、キィ、と悲しげな音を立てた。
 フェンスの向こうへ視線をやると、でかい夕日が沈んでいくところだった。まぶしくて視線を戻そうとしたら、再びフェンスが軋む。見なくても、ナマエが隣にいるとわかった。顔も合わせられず、何か軽口をたたくわけでもなく、気まずい沈黙が流れる。
「……ねえ」
「んだよ」
「返事は?」
 わかってるっての。ここまで来たんだから言わなきゃダセェよな。ひとつ深呼吸をして、口を開いた。
「……オレさ、オマエのことなんてなんとも思ってなかったワケ」
 隣で、ナマエの視線が痛いほど刺さる。
「でもさ、オマエが知らねェヤツに呼び出されてんの見て、滅茶苦茶イラついた。で、気づいたら追ってたしそいつボコしてた」
 隣であいつが小さく肯定する声が聞こえた。それ以上何も言わなさそうだったから、オレは口を開いた。
「そん時思い知ったわ。オレ、ナマエのこと好きだって」
 フェンスが軋んで、揺れる音がした。視界の端に、ナマエが映る。オレの真正面に移動したようだ。
「蘭の顔、真っ赤だね」
 バレていた。それ以上見られたくなくて、ナマエに背を向ける。
「は……。夕焼けのせいだろ」
 そうつぶやくのが、精一杯だった。

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