おんなのこは魔法使い
「オマエみてーな女を好きになるやついる訳ねーだろ」オレ以外な、と心の中で付け足す。ナマエのしょぼくれる顔が見たいからだ。いつもならあいつは「そうだよねー……」と力無く頷く……筈なのだが。
「言ったな?」
「は?」
瞳をぎらつかせながら、ナマエは顔を上げた。。
「今にみてなよ。私が磨けば光る原石だってこと思い知らせてやる!」
「前もそんなこと言ってたけど、変わってねえじゃん」
「う……今回は本気だからね!」
「どーだか」
前は「もっと化粧の腕を磨く」とか言ってた割に一週間で諦めた。その前は「今以上にオシャレな女になる」とか言って、三日で投げ出していた。
ま、言うだけならタダだしすぐ匙投げていつものあいつに戻るだろ。そう思っていたオレが甘かった。
初めのうちこそ、些細な変化だけだった。野暮ったい前髪を整え、化粧の仕方が変わった。次第に、かけていたメガネを外すようになった。少しずつ自信がついたのか、丸まり気味だった姿勢が少しずつ良くなっていった。
真っ黒く重たかった髪も、明るい色に染めてゆるく巻くようになった。着崩すことのなかった制服も、スカートが短くなり、持ち物の色が明るくなっていった。
3ヶ月も経てば、ナマエはオレが知ってるあいつではなくなりつつあった。うつむきがちで、自信のなさをごまかすようにヘラヘラ笑っていたナマエ。それが今はどうだ。どんな時でも前を向いて、よく笑うようになった。
「……変わったな、オマエ」
「でしょ? 好きな人が『笑った顔がかわいい』って言ってくれてさ。じゃあもっと頑張ってみよって思って」
ナマエは嬉しそうに答えた。オレの顔から余裕が消えたことも知らないで。
オレだけが、あいつの良さを知っていればよかったのに。
その翌日、ナマエを見かけた。あれだけ外見を磨き上げていたのに、また元の地味な姿に戻っている。
それとなく理由を聞いてみた。
「あー……うん。もう意味ないからやめた。好きな人にフラれちゃったし」
フラれた? つまりあいつの告白を断ったやつがいる?
ささやかな怒りと共に、黒い喜びが湧き上がってくる。いらない、というのならオレがもらっていくまでだ。
「は。そいつ見る目ねェのな。オマエはどんなカッコしてようが可愛いのにさ」
オレの口から出た言葉に、ナマエは数秒遅れて目を白黒させる。
「な、それ、どういう……」
「オレはオマエの可愛さに気づいてたけど?」
「え、ま、まって、うそでしょ」
パニクって逃げ出そうとするナマエの腕をしっかり掴む。
もう逃さねェよ? まずは今まで離れてたぶん、オレの隣にいてもらわねェとなぁ。
だからガンガンアプローチをかけることにした。なのに、だ。
「デートに行こうって? やだよ」
にべもなく断られるのもこれで何度目だろうか。
「何がそんなにイヤなんだよ」
「いきなり誘われるのが嫌。デートするんならきちんと準備してからじゃないと」
「オマエはどんなカッコしてても可愛いって、オレ言ったよなぁ?」
「言ったね」
「だから今のその黒ずくめもオレは嫌いじゃねーけど?」
「蘭が良くても私は嫌だよ。あなたに変な噂が立ったらどうすんの」
「……ふーん。じゃオレに釣り合うよーな見た目になりゃ、オレとデートする気になるんだな?」
「まぁ、うん。そう、なるかな。でも」
「言質とーり♡」
「えっ!? ちょっとどこ行くの!?」
オレは、あいつの手をガッと掴んで歩き出す。
きちんと準備してぇなら、オレが存分にさせてやるよ。今からな。オレはナマエの手をがっちり握ったまま、目的地――オレお気に入りのアパレルショップだに向かった。
ナマエはここに足を踏み入れたことがないんだろう。自分が場違いだと思っているのか、目を白黒させている。かわいーとこあんじゃん。
有無を言わさずあいつを試着室に押し込み、オレは何着か服を見繕ってそれも押し付けた。
「全部着てオレに見せろよー」
カーテンを閉める前に、そう言うのも忘れない。
あいつは律義にオレの言葉を守り、袖を通す度にカーテンを開けた。どことなく自信の持てない顔で「どうかな……」と聞くのでオレは黙って頷く。
オレが選んだ服なんだから、全部似合うに決まってんだろ。
何回か着替えさせたところで、オレは品物を全部手に取る。
「あ、戻してくるの?じゃ私も手伝うよ」
「違ェよ。買うの」
「……ん? 今なんて?」
「買うの。これ全部。で、オマエにやる。デートするんならきちんと準備してから、なんだろ? 次のデートはこん中から選んで着てこいよなー」
「……ま、待って。値段は!?」
そんなもん今気にしてどーすんだ。オマエが払うワケでもねェのに。
オレはナマエを無視してさっさと会計に向かう。レジ担当の店員にカードを渡してやると、店員は仰々しく受け取った。それを機械で読み込ませ、決済が完了した。
手際よく畳まれた服が、ハイブランドのショッパーに詰め込まれていく。
止めようとしたナマエは、なす術もなくその様子を見ていた。その姿は呆然、と言う他なかった。
「これでオレとデートする気になったろ?」
「まあ……うん。でも、こんなにたくさんもらえないよ……」
「オマエの為に選んだ服だぜ? 黙って貰っとけー」
ぐい、とショッパーを押し付けると、あいつは恐る恐る持ち手を握る。それでいい。
変に遠慮されても無理矢理押し付けるが。
「じゃ、明日11時なー。場所はメールするわ」
「えっ明日!?」
「ちゃんと選んだ服着てこいよなー。楽しみにしてっから♡」
オレはさっと背を向けて足早に立ち去る。もしかしたら今日は寝付けないかもしれねェな、と思いながら。
タイトルは惑星様よりお借りしました。
