おんなのこは魔法使い_2

 昔から、幼なじみの蘭には散々からかわれていた。ちょっとかわいいヘアゴムを使えば即座にもぎ取られたし、背伸びして色付きリップを使えば似合わないといじられた。
 その結果として、私は見た目に気を遣わない女と化した。それでも相変わらず蘭は私の隣にいて、私のことをからかってきた。他にもっと可愛い女の子や、離してて楽しい相手はたくさんいるだろうに。どうして私から離れないのか、不思議でしょうがなかった。
 そんな私にも、転機が訪れた。本当に些細なことなんだけど、私のことをかわいいと言ってくれる人がいたのだ。
「ミョウジさんはさ、好きなものの話をしてる時すごく生き生きとしてるよね。その顔かわいくていいな」
 彼は照れずに、そんなことをサラッと言ってのけた。それが私にとってはとてつもない衝撃で。
 彼の隣にいられるようになりたい、と思った。
 だからこそあの日、蘭にあんなことを言われて、思わず言い返してしまったのだ。
「オマエみてーな女を好きになるやついる訳ねーだろ」
 いつもなら、そうだよねーとヘラヘラ笑ってやり過ごすような言葉。でも今の私には聞き捨てならない言葉だった。
 私のことをかわいいって言ってくれる人がいる。きっと好きになってくれる人だっている、と。
「今に見てなよ。私が磨けば光る原石だってこと思い知らせてやる!」
 蘭は冷めた目で私を見ている。無理もない。割と飽きっぽく、無気力な私を知っているから、今回もまた投げ出すと思ってるんだろうな。
 でも、あの時かけてもらった魔法みたいな言葉は、そう簡単に解けそうもない。それこそ、自分に魔法をかけて変身できるんじゃないかってくらいに。
 まずは小さなところから変えることにした。今まで何度かイメチェンしてみようと試みたことはあったが、何から手を付けたらいいのか分からなくて挫折したり諦めたりしていた。
 ぼさぼさだった髪を整え、眼科でコンタクトレンズを使うための処方箋をもらい、少しずつ見た目を変えていった。
 コスメのショップカウンターで自分に何が似合うのか一つずつ確かめた。着てみたかった洋服を思い切って買った。
 学校で身に着ける物の色を次第に明るく、華やかにしていった。
 
「……変わったな、オマエ」
 私の見た目が変わっていくのに比例して、蘭は面白くなさそうな顔をすることが増えた。私がもさい見た目じゃなくなったからなんだろう。
「でしょ? 好きな人が『笑った顔がかわいい』って言ってくれてさ。じゃあもっと頑張ってみよって思って」
 にこにこしながらそう答える。蘭は苦虫を嚙み潰したような顔のままだ。私だってやればできるんだよ、とは口にしないでおこう。
 それより早く彼と話したいな。今の私を、もっとほめてもらいたいから。

 彼を見つけたのは、昼休みの中庭。声をかけようと私が一歩踏み出した瞬間、隣に誰かがいたのを見つけて足が止まった。
 なぜなら、彼の隣に女の子がいたから。
 二人は、一つの有線イヤホンを片耳ずつ分け合って、肩が触れ合うほど近い距離で音楽を聴いている。
 少しだけ首を傾げて、笑い合う二人。ピンと張られたイヤホンのコードが、彼らを物理的にも心理的にも強く繋いでいるように見えた。その親密な雰囲気は、どう見てもただの友達なんかじゃなかった。
 私に向けられたあの言葉は、彼にとってはただの社交辞令だったんだ。誰にでも使える優しい言葉を、私は真に受けて、意味のない努力をして。バカみたいだ。
 その日の夜、私は黒髪もどしを使って髪を黒く染め直した。そして、制服を着崩すことなく登校した。学校指定のブラウスとリボンタイに、地味なスクールバッグ。髪は寝癖をごまかすように、後ろで一つ結び。コンタクトもつけず、今まで使っていたメガネをかけた。いつもの私ができあがる。これでよかったんだ。
 小さく目立たないように過ごしていたら、向かいの席に蘭がどかっと腰かけて来た。
「挫折してんじゃん」
「あー……うん。もう意味ないからやめた。好きな人にフラれちゃったし」
 理由を隠す必要もないので、私は淡々と答えた。蘭は少し黙ったのち、
「は。そいつ見る目ねェのな。オマエはどんなカッコしてようが可愛いのにさ」
 などと言い出す。今なんて? しどろもどろになりながら聞き返すと、
「オレはオマエの可愛さに気づいてたけど?」
 蘭は淀みなく答えた。頭が追い付かない。
「え、ま、まって、うそでしょ」
 パニックになった私がとった行動は、その場から逃げ出すことだった。けれど、それはかなわなかった。腕をしっかり掴まれて動けなかったから。
「まずはオレのこと無視してた分、デートで埋め合わせしてもらわねェとなー。覚悟しとけよー?」
 何が何だかわからない。でも、目の前で不敵に笑う男が噓をついているわけじゃなさそうだ。
 ……ん? デート?
「デートってことはさ、私服で行くの?」
「放課後デートでもなきゃそうだろ」
「え、じゃあいやだ。デートは無理」
 コスメと美容院にお小遣い使いすぎて、可愛い洋服まで手が回らなかったから。デートに行くための服がない! でも蘭にそんなこと言えるわけがない。言ったら間違いなくバカにされるもの。
 来月のお小遣いが入るまで、しばらく断り続けようかな……。



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