その日、俺達はいつも通り学校に通って授業を受け、帰路についた。
最近はずっとゴタゴタしていて、本当に忙しかったというか、目が回るくらいの進展だったと思う。
草薙が頑張って俺達の痕跡を消してくれているのが申し訳ないので、俺ももう少ししっかりしたPCを買った。結構大きな買い物だったんじゃないかな。
何だか奇妙な感じだが、それなりに平和だった日々の中で、今日の夜草薙から緊急の収集が掛かった。

「何かあったのかもしれないな」
「行こう」
『ええ〜〜嫌な予感〜〜』

お掃除ロボットのロボッピに「行ってくるね」と一言声をかけ、俺と遊作はアイを連れて草薙の元へ向かった。
草薙は早々に店仕舞いをして画面に齧り付いていた。

「草薙さん、何かあったのか?」
「ああ夜鷹、遊作!これを見てくれないか」

草薙が見せてくれた画面には、暗号で綴られたメールが映し出されていた。
差出人名は『ghostgirl』…ゴーストガールだ。

「ハッカーたちが使うハッキングフォーラムにメッセージが届けられた」
「アンタ、アイツと知り合いだったのか?」
「いや。遊作とリボルバーのデュエルの時、夜鷹と一緒にアイツを誘導した事がある。その時使ったソースコードに手を加えてプログラムを生成し、俺が気付くよう仕向けたようだ」
「なるほど…」
「ゴーストガール、草薙さんの事褒めてたぜ。良い腕してるってさ」
「そりゃ有り難い事だ。…で、あっちの要求はPlaymakerとのデュエル。自分が勝ったらPlaymakerの持つAIを貰う、と」
『ええ〜〜〜!!!???冗談じゃねえよ!!!』

だよなあ。
アイを賭けたデュエル、それも相手はハノイじゃない。

「どうする?受けるのか」
『受けないよな遊作!?』
「いや、受ける」

だよな。アイの悲鳴が耳元で聞こえてちょっとうるさい。
『なんでぇ!?』と吼えるアイの口(どこか知らんけど)を手で押さえる。

「ここには交換条件が記されている。俺が勝ったら、SOLテクノロジーのデータバンクの抜け穴を教える、と」
『でまかせだって〜!!』
「いや…データの一部が送られてきたが本物の可能性が高い。ハッカーとして彼女は間違いなく一流だ」
「草薙さん、ゴーストガールに返信してくれ。そのデュエルを受けると」
「分かった。夜鷹、遊作について行って念のため一通りのスキャンと中継を頼む」
「あいよ。なら、俺は先に行ってるよ」
「頼んだ」

俺は遊作より先にログイン用の部屋に入る。
草薙に軽く手を振って扉を閉める。

「デッキ、セット!IN TO THE VRAINS!!」



LINKVRAINSの様子は予想通り荒れ放題だった。
そりゃあこの前あれだけ暴れたのだから、復旧中だろうなあ。人っ子一人いないし。
これは罠の心配はなさそうだけれど、彼女ほどの腕の持ち主なら何を仕掛けてくるか分かったもんじゃない。
目視のスキャンを掛け、次に一帯のスキャンを掛けると、2人程スキャンに引っかかった。誰だ?

「あ、あーーーーっっ!!!!山本先輩!山本先輩!!Laughingpixyですよ!!!」
「本名で呼ぶな!!!!!!」
(カエルにハトのアバター…って事は、アイツらメディアか)

目が合ってしまったし、こっち来るし。
ハトがマイクを持ったカエルを掴んで飛んでくるってなんかシュールで可愛いな。
こっちに飛んでくる山本先輩をむぎゅ、とキャッチした。面白い感触するな。

「Laughingpixyさん、ちょっとインタビューいい!?いいかな!?」
「いや、俺はこれから用事があるって言うか仕事があるって言うか…」
「そういえばどうしてLINKVRAINSに??」
「それは、…!」

その時、LINKVRAINSの上空、丁度俺のすぐ傍から気配がした。
直ぐに予想通り空に穴が開き、Dボードに乗ったゴーストガールがログインする。
それを追うようにPlaymakerもDボードに乗ってログインし、揃ってデータストームの上に着地した。

「Playmaker、スキャンは済んでいる!ここら一帯には誰もいない、好きなだけ暴れても問題ないぞ!」
《わかった。お前は引き続き観測と中継を頼む!》
「あいよ任せな!アイも頑張れよ〜」
『ふえええpixyチャン〜』
《情けない声を出すな》

彼らが場所を変える。
それを追うべく俺もDボードに乗り、やや離れた位置から彼らを追跡した。…今日は随分と風が強いな。
やがて二人がとあるビルに降りたのを確認して、俺も付近の彼らの様子が見えるビルに移る。

《交換条件に偽りはないな?》
《ええ、データはちゃんと用意してるわ。SOLテクノロジーのデータバンクに届く抜け穴よ。きっとそこには10年前の事件のデータもあるわ》
《…どうして俺とデュエルする。なぜ自分で行かないんだ》
《そのAIが手に入れば、SOLテクノロジー社に高く売れるしね?…正直言うと、ホントはこの間のデュエルを見て、貴方に興味を持っちゃったの。勿論電脳トレジャーハンターとしてだけど》

(なぁ〜るほど。ゴーストガールってのは生粋の電脳トレジャーハンターだな)

ハッキングなどを介して得た情報を売買する。そこに存在する根幹は旺盛な好奇心だ。
リスクを冒してでも、自分の興味を満たしたい。相手を知りたい。
利益ももちろんあるが、それ以上に自分を満たす事に関して彼女は非常に誠実で貪欲だ。信じていいだろう。

《そういえば、この会話はLaughingpixyも聞いてるんでしょ?》 
『ゲッバレてる…』

ゴルァ、アイ。
Playmakerは表情一つ動かさない。

《だとしたらどうするんだ》
《私ね、彼にもすごく興味があるの。…今回はそのAIを賭けているからお預けだけれど、いつか貴方ともデュエルしたいわ》

明確に俺に言葉が投げかけられたその時、ピクリとも動かなかったPlaymakerの表情が顰められる。
それにゴーストガールが満足げに笑んだ。
本当にあの子は、いつもはポーカーフェイスなのにこういう時は直ぐに顔に出るな。

《Playmakerがそこまで執着する貴方の事、私すごーく興味あるの。デュエルで苦痛を与える力、ハノイが貴方を狙う理由、ハノイが絡んだ時に貴方の身に起こる不可解な現象の数々…》
《アイツにそれを聞きたいなら俺に勝ってからにするんだな、ゴーストガール》
《フフ、楽しみね》

聞かれても俺にも分からないんだけどな。
お互いの間に火花を散らしながらゴーストガールとPlaymakerは再びDボードに飛び乗ってデータストームに乗り、遂にスピードデュエルが始まった。
いつの間にか賭けるもの増えたけど。これはちょっと勝ってもらわないと困ってしまうな。

「そろそろ追跡するかぁ…」
「俺らも追跡すんぞ!!」
「消えたボーナス取り戻しますよ山本先輩ィ!!」
「ッうお!?アンタらまだいたのか!」

いつの間にか俺の後ろにさっきのハトとカエル(山本先輩)がくっついていた。
「本名で呼ぶな!!!!」と山本先輩がまたハトに吼えている。様式美かな?
何かハトの話を聞く限りボーナスが云々と悲しい裏話があるようだが、俺としてはこのデータをメディアに持ち帰ってもらうわけにはいかない。

(だとしたらこのまま俺にくっついてもらっていた方がいいか…?)

「Laughingpixyに張り付いてあの二人のデュエル撮って、独占スクープだ!!」
「はいっス山本先輩!!」
「だから本名で呼ぶなっつってんだろ!!」

…俺が言わなくてもくっついてくれるらしい。
それなら楽だな、と俺は草薙に映像データを送りながら彼らのデュエルの観戦に洒落込む事にした。




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