「くぁああ〜〜〜……」
草薙が大きな欠伸を零した。どうも最近寝不足らしい。
ハーブソーセージを焼きながら横目でそれを見遣る。あ、これは自分の分だ。
「草薙さん寝不足?」
「ン?ああ、忙しいんだよ…毎晩ネットの巡回で。色々アップされてるPlaymakerとLaughingpixyの動画を消して回ってるのさ」
「えっ!?消し漏らしあったの!?熱っっち!」
「落ち着け!」
驚いた拍子に跳ねた油が手についた。遊作が颯爽と氷水を持ってくる。早いな。
いや有り難く受け取っといて、俺とて毎日巡回はして消していたつもりだったんだが。
「俺も消してたんだけどなあ」
「夜鷹は使い捨てのスマホで削除してたんだろ?特定の端末じゃ表示されない動画もあるからな」
「あ〜そっか…盲点だったな…」
「俺も手伝うよ」
「俺も。何ならお夜食作るから」
「マジ?じゃあ頼もうかね!」
その日の夜、草薙と一緒にネット巡回する事になった。
希望された夜食はラーメンだった。絶対追い飯する気だ。デブるぜ。
で、その日の夜まあ何とかネット巡回をこなし、草薙の夜食も作り、なんかどっかのテレビ局で作られて危うく放映されるところだった俺達の特番も消したところで平和に終わった。
平和な日々って本当に久しぶりな気がするな。
「草薙さん途中から寝てたよな」
「まあ普段から俺らの尻拭いしてくれてるんだし。これからは俺達もこまめにやっていこっか」
「ああ、そうだな」
彼には頭が下がる限りだ。
毎日あんな量の動画削除をしてくれていたのかと思うと申し訳ない気持ちになる。
そこで俺の脳裏に引っかかったのは、先程俺が削除したPlaymakerとLaughingpixyの特番動画データだった。
(……あの特番、チラッと内容一通り流し見したけど…明らかにTV局のものじゃない動画が混じっていた。リボルバーとPlaymakerのデュエルの様子…それを知っていて動画データを所持していたのは俺と、あのゴーストガールって電脳トレジャーハンターだけだ)
だがあの特番にはそのデータがまとめられていた。
つまりあのゴーストガールは、TV局にPlaymakerとリボルバーのデュエルの動画データを売ったという事だ。
…近いうちにあちらから接触してくる可能性もあるかもしれないな。
「はぁ…」
「?どうした。疲れたのか」
「ん〜ちょっとね…疲れたっていうか人気者を相棒に持つと大変だなって言うか…」
「嫌味か?」
厄介事があっちからくるもんなあ。
今をときめくカリスマデュエリスト(非公認)Playmakerは引く手あまただ。
皆やっぱりミステリアスなヒーローに惹かれるんだろう。確かにPlaymakerはかっこいい、わかる。俺が一番近くで長い間見て来たからな。
例え民度が低くても兄ちゃんが酷いコメント片っ端から消してやるからな。
「言っておくが話題ならお前だって多いんだぞ」
「俺??何もしてないだろ」
「ん」
遊作に端末で見せられたのは掲示板だった。
そこにはでかでかと『Laughingpixyたんについて語るスレ174』とタイトルが掲げられていた。もうこの時点でこのページ閉じたい。なんだ「たん」って。174ってどんだけあるんだよ。
遊作の顔はやや死んでいる。見たのか、これ。
自分の表情が死んでいくのを感じながらページをスクロールしていく。
「なんやこれ……………………民度ってレベルの話じゃねえぞ………………」
画像や映像データが無いから失念していた掲示板という存在。
もうそれはそれは想像を絶するあれやこれやが書き込まれていた。
Laughingpixyの正体に関する真面目な考察、Playmakerとの関係性の考察から単なる変態共による俺のアバターへの性的興奮などが延々と軒を連ねていた。
そしてスレのリンク先を覗けば俺だけではなくPlaymakerスレもあった。内容は御察しである。
本人が見るかもしれないっていうのにこいつらは正気なんだろうか。いや、抑々公共の場でこういう事を書き込んでいる辺りきっと正気ではないに違いない。
あくまでアバターの事を言われているからまだダメージは軽かった。いや心は重傷だけれども。
「……アバター、変えようかなあ…筋肉隆々のGO鬼塚みたいなやつに…」
「それは俺が精神的にきついからやめてくれ」
「別に他人から誹謗中傷されようがこき下ろされようが心底どうでもいいけどさ…性的な目で見られてるってのはまた別の話じゃん…生理的嫌悪ってあるじゃん…」
これからそういう目がある事を脳裏に留めなければいけないのか。最悪だろ。
もう何だこれ、脇の下から横腹と尻にかけてのラインに興奮するとかどないせえっちゅうんじゃ。
「考えてもみろ。俺達ですら此処までされてるんだ、ブルーエンジェルなんて更に酷いに違いない」
「あっ…」
遊作からの何とも言えないフォローに少し俺の心が楽になった。財前葵、すまん。
そうだよな。男の俺達がここまで変態共の眼に晒されてるって事は俺達より長い間アイドルデュエリストとして頑張ってたブルーエンジェルなんて数倍酷いよな。
うん。そう考えたらまだ頑張れる気がする。
「元気出た」
「良かった」
全然良くないけど。
真剣にアバターを弄る事を検討しながら、俺達は遅い時間の帰路についた。
アイが『遅い〜〜!!!!』って拗ねてるかもしれないな。
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