ダークライがこの教会で暮らすようになって幾日。今までからは信じられない程、穏やかで幸せな日々を過ごせていた。
最初はここでどう過ごしたらいいか分からずオタオタとしていたが、今では何も無ければ影に入って過ごし、手伝えることがあれば率先して手伝うようになった。
シスター達もダークライのお手伝いはありがたいのか時折ご褒美とばかりに菓子を分けてくれる。手伝いの繋がりで同じくいつも手伝いをしているメタグロスと仲良くなった。
そうしている内に徐々に馴染めてきて、周りを観察する余裕が生まれた。


まず、マサキのこと。
彼はとにかく好かれる男だ。町の人間からも、ポケモン達からも。
この教会があるソノオから、彼を頼っていつも人がやってくる。老人から子供まで、様々だ。
ハクタイへ行く道の通り道でもあるからか、時折ハクタイからも人が来る。
彼はどうも世話を焼くのが好きなようで、頼られるといつも浮かべている微笑みに喜色が混ざっている。
ああ、だがどうも女性は少しだけ苦手なようだ。自身の容姿が与える影響に少しばかり困っているらしい。
そしてマサキは見かけによらずとても強い。以前は森の中で喧嘩しているカイロスとヘラクロスをその身一つで沈めて叱り飛ばしていた。いつも笑っているから怒らない人間だと思っていた分、とても驚いた覚えがある。
ゾロアークは面白そうに『アイツは意外と怒るぜ。何でも「相手がいい子であればある程、一度叱れば二度としない」らしい』と言っていた。ちゃんと考えて叱っているらしい。
ここに住むポケモン一匹一匹をよく見て、丁寧に接している。彼自身他者と触れ合うことが好きなのだろう。
だが、だが平然とドラピオンやマニューラ等々凶暴なポケモン相手にも向かって行かないで欲しい。一度彼が襲われそうになった時、偶然彼の影に入っていたおかげ寸での所で彼を守れた。
しかし一度や二度ではなかった(曰く『日常茶飯事』)ので、ダークライの役割は自然とマサキのボディガードに落ち着いた。
皆「ダークライが守ってくれているなら安心だ」と心の底から安堵していた。どれだけ彼はその点信用を置かれていなかったのだろう、気が気でない。


次に、ゾロアークだ。
彼はマサキが言っていた「一番の古株」であるというのは本当らしく、この教会やソノオを知り尽くしていた。
まずわからない事があれば彼に聞けば確実な答えが得られるが、何というか素直に聞きに行くのが憚られる。彼はそれにニンマリと笑ってまるで弄ぶように答えてくるからだ。
全く典型的な、というか大衆の考える中で最もテンプレートなタイプの「悪」だと思う。
神出鬼没で探そうと思って見つけられる存在ではない。彼の特性「イリュージョン」で、彼は誰にでも化ける事が出来る。
時にシスターに、時にポケモンに、そして時にマサキの補佐の神父の男として彼は隣にいる。どうも他者を化かして遊ぶのが大好きなようだが、マサキにだけはいつも直ぐにバレてしまっていた。
どうやったらすぐに見抜けるのかと聞けば、「慣れですね」と言っていた。つまりダークライには難しいだろう。
そして、ゾロアークというポケモンはそもそも滅多にお目にかかれない珍しいポケモンとの事だが、この個体は更に色違いらしい。どのような経緯を経てマサキと出会ったのだろうか。
きっと今のように楽しそうに人と触れ合うなど、難しかったのだろう。

次にアブソル。
第一印象として、彼は極めて頭がいい切れ者だった。
マサキが人当たりのいい誰にでも親切な性格であるのに対して、逆にソノオに暮らす者以外をこのアブソルは一切信用していない。
ダークライも最初は警戒されていたが、一度や二度ではない回数マサキを守った功績から信用を頂いたらしい。
些か警戒心が強すぎるとは思うが、このポケモンの宿命とも言っていい環境とマサキのトラブル体質を見れば丁度いいバランスではあると思う。
彼は災害を予知できる力で何度かソノオを助けて来たらしく、ソノオに暮らす人やポケモンから甚く信頼されていた。この力が原因で迫害される事がアブソルという種族の宿命である事を考えれば、マサキと出会えたことは彼にとってとても幸運だったことだろう。
そして生真面目な性格である彼と奔放なゾロアークはどうも馬が合わないらしい。お互いに信頼している事は普段の様子で分かるが。
真面目でクールなアブソルはどうも♀のポケモン達には魅力的に映るようで、よく♀のポケモン達に囲まれている。だが鈍い様子で、ここで暮らしているオノノクスの気持ちに全く気付いていない。マサキが珍しく「じれったいですね…」と苦い顔をしていたのを思い出した。
ダークライに対しては漸く真面目な者が来てくれたと思っているのか、時折愚痴(主にゾロアークへの)を零して来る。しかし彼の愚痴には全面的に同意してしまう辺り、このアブソルとは仲良くなれそうな予感がした。


洗濯の手伝いや業務の手伝いを終え、手持無沙汰になったダークライは外を散策していた。
ソノオの花畑は気に入っている。今は薄いピンクや黄色、オレンジの花が咲き乱れているが、季節によってさまざまな花が咲くのだという。
この花達の甘い香りがとても好きで、この中で昼寝するのはほんの少し憧れだったりする。
何処か誰にも邪魔されないような場所は無いだろうかと探していると、花畑の中に一つ、硬質な影を見つけた。

『ム……』

接近して確認すると、メタグロス…の上に寝転がっているマサキとメレシーだった。
二体と一人、夢の世界に旅立っている。よく日の当たる場所だ、昼寝には最適だろう。
スボミーやミツハニーやチェリンボ達が彼らの周りに集まって光合成をしていた。ダークライもその付近に陣取り、花で遊び始める。


メタグロス。
彼(彼女?)はとても温厚だ。皆怒っているところなど殆ど見たことがないという。
彼の念力がこの教会の力仕事の大部分を担っていると言ってもいい。縁の下の力持ち、男手の少ないこの教会では貴重だ。
言葉通りの鉄仮面であるため表情からは全く感情を読み取れないが、マサキを乗せて無防備に昼寝をしている様子はとても幸せなのだというのは分かる。真面目なのはわかるが、同時に甘えただ。そこは真面目同士のアブソルとは違うのだろう。
見てくれは実に立派なメタグロスだが、様子や周りの反応を見るにまだ幼いようだ。進化してそう日が経ってないのだろうかとも思ったが、一度彼とゾロアークとの手合わせを見たことがある身としては大岩を豆腐のように粉砕したあのコメットパンチは見事としか言いようがなかった。
あれはきっと、万一にも怒らせてはならないタイプだろう。

そしてメレシー。
この子はダークライを除けば最も新参で、そして最も幼いのだという。
何でもタマゴの時からここで育ったのだとか。だがマサキたちが発見した時にはタマゴには罅が入ってしまっており、其れで捨てられていたのだという。
懸命な世話で無事生まれ、一番最初に目に入ったのであろうマサキをどうも母親だと思っているらしい。
共にいない日などないのではないかと思う程、メレシーはマサキにずっとくっついて甘え倒している。
マサキに宝石の部分を磨いてもらうのが大好きなのか、夜になると自ら手ぬぐいをもって擦り寄っていくのをよく見かけた。
今でもマサキの腹の上に陣取って爆睡している。


遊んでいた花をミツハニーたちにバトンタッチし、ダークライは速やかに移動した。
寝ている者の傍にいるのは、幾ら解決しているとはいえ落ち着かない。
教会の中に移動すると、多くのゴーストタイプのポケモンが楽しそうにうろついていた。
その中で彼らの中心になっているポケモン。

ゲンガーだ。
彼とも何度か関わった、主に厨房でのゲンガーの悪戯阻止で。
教会から洗濯物がなくなったりお菓子が消えたりしたらそれはゲンガーの仕業だ。
元々ゴース時代から彼はこの教会に住み着き悪戯をしていたらしいが、マサキが現行犯でつかまえ、紆余曲折を経てマサキのボールを勝手に持ち出しマサキの手持ち入りを果たしたというある意味彼にしかできない懐の入り方をした。
ゾロアークと悪友でゾロアークは頻繁に彼の姿を借りている。というのも、ゾロアークの覚える技はゲンガーと共通点があり、素早さが高い者同士というのもあってバトルの際にゾロアークの特性がうまく活かせるのだという。
……このゲンガーは本当にゲンガーなのだろうか。だんだん不安になって来た。


教会の中をどんどん進んでいくと裏口に出た。裏口から出ると小川があり、そこでは水ポケモン達が多く生息している。
ビーダルやブイゼル達といった水ポケモンの中に一際美しいポケモン―――ミロカロスがいる。
彼女を囲むように座っていたのはウルガモス、オノノクス、そしてバンギラスだ。

ウルガモス。
(表立った)マサキLOVE勢といえば彼女が筆頭であろう。ボールから出る度マサキの頭に留まって温めようとするが、その度マサキの首がいかれそうになっている。
メラルバ時代から共にいるらしいが、メラルバからウルガモスへ進化させる事の出来る人間は、トレーナーですらほんの一握りだという。故にウルガモスの使い手というのは総じて強い、というのがイッシュ地方での通説だ。
それなのにマサキはトレーナーではないのだから驚きだ。
彼女の特性「ほのおのからだ」は重宝されており、タマゴの孵化が早まるのだという。何より大変温かいらしいのだが、たまに低温火傷するというのだから苦笑いだ。

オノノクス。
メタグロスの念力などを除いて恐らく純粋に最も怪力なのは彼女だ。
マサキと共に暮らすポケモン達は腕っぷしに大層な保証がついているが、バンギラス、ウルガモス、そしてこのオノノクスはバトルに最も適している。
彼女は明確にトレーナーに「捨てられた」ポケモンだ。自分を虐げ捨てたトレーナーをいつかコテンパンにしてやるのだと意気込んでいる彼女は今や立派な第一線級である。そのトレーナーも馬鹿な選択をしたものだ。
正義感が強く弱い者を守ろうとする明確な意思があるようで、ウルガモスと共に保護されたポケモンの赤ちゃんなどを率先して世話するのだという。
そんな彼女だが、実は彼女はアブソルに憧れているのだという。アブソルに近寄れば見事な乙女へと変貌する。誰から見ても分かるというのにとうのアブソルが気付いていないのだから頭を抱えたい。
マサキがやきもきする気持ちが分かった。ダークライは彼女を応援すると決めた。

バンギラス。
ラスボスだ。彼に勝てる奴がいたら是非見てみたい。
此処まで練度の高いバンギラスをダークライは見たことがない。マサキは彼をヨーギラスの時から育てていたというのだから驚きだ。どんな育て方をしたらこんなに強くなるのだ。
しかし彼も人間に虐げられて弱り切っていたのをマサキに保護されたのだという。当初は臆病だったらしいが、今ではこんなに立派なバンギラスになった。
マサキに「かっこいいですよ」と言ってもらえると嬉しそうにしている。凶暴なバンギラスをここまで懐かせているのはすさまじい教育の賜物だ。
そんな彼は今共にいる♀のミロカロスと結構いい感じなのである。
見ているだけで甘酸っぱくなるほどに彼らは互いを好き合っていて、もう婚姻秒読みだ。あの神出鬼没なゾロアークが時折様子を見に行くのだからどれだけ注目度が高いかもうお分かりだろう。
「いつか彼らの為に最高の結婚式をセッティングしましょうね」とマサキからこの間サプライズの呼びかけがあった。ゾロアークやアブソルもどこかそわそわしているのだから、皆彼らを祝福しているのだろう。


(アア。ココハ、本当ニ、暖カイ場所ダ)

幸福だ。彼らの傍で、こんなに穏やかで静かな時を過ごせることが。
友と呼び、呼ばれ、認められることが。
そんな彼らの幸せを己の事のように、共に祝えることが、どうしようもなく幸福だ。
ダークライが今まで決して味わえなかったもの。今この瞬間がとても愛おしい。
ぜんぶ、全部マサキがくれた。彼の穏やかな寝顔を思い出す。

此処は皆の家だ。この力がこの地を、彼らを守るものとなれるなら、ダークライはどれだけの畏怖と侮蔑を浴びようがなんともない。
それが彼らを守るものへ繋がるなら。
ああ、でもきっと彼らはダークライがそんなものに晒される事をきっと良く思わないのだろう。
それが簡単に思い浮かんで、それを信じる事が出来る。それがどれだけ幸せか。


ああ、今日も良い日だ。