今日はソノオを出て、ナギサシティに来ている。
真咲の仕事は専ら教会の運営ではあるが、結婚式の際に立会人を務める「司祭」の仕事も行っている。
人間の結婚式は勿論のことだが、以前真咲が行った「ポケモンの結婚式」がSNSで大反響となり、連日依頼が殺到している。他地方からの依頼も非常に多い為、真咲はこうして各地を飛び回るのだ。
今回の依頼はナギサシティで暮らすブリーダーからの依頼で、ギャロップとエレキブルの結婚式をお願いしてきたのだ。

『ナギサも発展したな。前はこんなソーラーパネルとかなかっただろう』
「以前依頼で来たのは半年ほど前でしたっけ。前は大停電があって電気が使えず苦労した覚えがあります」

真咲の隣でナギサの変貌ぶりに感心するのは人に化けているゾロアークだ。
青黒い髪に金色の瞳は真咲の容姿によく似ており、傍から見れば兄弟のように映らなくもない。ただ真咲より随分と野性的な面が強調されている辺り、ゾロアークらしい。
今は真咲の影の中に潜んでいるダークライも彼の変身能力の応用性の高さに悔しいが感心した。

「メレシーもナギサは二度目ですね」
《フュン!》
『メレシーも人混み慣れしたもんだな。前は目を回してたってのに。ダークライは目を回しちまうなよ』
『侮ルナ』

それにしても、道行く人々の視線が真咲達に突き刺さっている。
ただでさえメレシーというまず此のシンオウの地では全く見られないポケモンを連れている上に、神父が身に着けるカソックは物珍しいだろうに真咲の見目が極めて良い。
真咲を元にしているゾロアークの見目も良くないはずがない。道行く人皆頬を染めて彼らを凝視している。
今まではあまり比較対象がいなかった為真咲の容貌はただ漠然と優れている程度にしか思っていなかったが、こうして都会に出れば一目瞭然だ。中性的だと思っていたがそういえば身長は185pととても高いし、身体も細身ではあるが引き締まっている。
なにより顔立ちが神秘的なほどに美しい。周りが霞むレベルだ。
これは。

(わかるだろ流石に、ボディガードがいる理由が)
(…アア、コレハ、流石ニ理解デキル)

ゾロアークの心なしか疲れた表情に、彼がどれだけ苦労してきたのかが見て取れた。
…彼が人に化けている理由が今では良くわかる。最も身近な形で傍で守る方法が、ゾロアークにとってはこれだったのだ。
真咲が女性に対して若干の苦手意識があることがまだ救いか。

「さあ、お仕事しますよゾロアー…おや?どうしました?疲れてしまいましたか」
『いーや。さ、チャカチャカ仕事してさっさと終わらせるぞ。俺はナギサでしたい事があるんでね』
「では真面目に手伝っていただきましょうか」
『はいはい』
《フュ〜ン!》



一日掛けて何とか仕事を終え、真咲はポケモンセンターに宿泊した。
なんとポケモンセンター、トレーナーカードを持っていれば宿泊施設を無料で利用できるのだ。真咲はトレーナーでもないのにちゃっかり持っていた。
夜は外食し、朝は真咲のホットサンドを食べて(ここで真咲が料理が苦手だということをダークライは知る)、本来ならばソノオに戻る予定であった。
だがゾロアークの「したい事」に付き合う為、一行はナギサに残り、今。

「…ゾロアーク、まさかとは思いますが」
『おう、合ってるぞ』

真咲の前に聳えるのはトレーナーたちの関門、ポケモンジムだ。
ナギサシティにもポケモンジムがあるのは当然知っているが、トレーナーでもない真咲はジム戦などしたことがない。

『別に相手によっては俺を選抜しなくてもいい。要はアレだ、ストレス発散に付き合ってくれ』
「貴方はそういう子ですよね…はあ…私はナギサジムの情報なんて何も持ってませんしノウハウもない。ノープランは流石に厳しいのでは?」
『相手だって俺達へはノープランに等しい、土俵は同じだ』
「どこから来るんですかその自信は」
《フュ〜〜!》
『おう、メレシーも気になるってよ。ジム』
「うっ…」

メレシーを持ち出され途端に真咲の勢いがなくなった。
結局のところ、彼は家族のおねだりに弱いのだ。ボールの中のポケモン達のおねだりの後押しもあったのか、根負けする形でジム戦に挑む事になった。
選出メンバーも特に決めないままジムの中に入ると、ジム特有のピリピリとした雰囲気がある―――はずだったのだが。

『む。何だ、様子が変だな』
「そうですね。やけに閑散としているような…」

ジムで挑戦者の受付をしている男性が、頭を抱えている様子が見えた。
奥の方を覗けば巨大な仕掛けが点在し、恐らくあれらを操作してジムリーダーの元まで向かうのだろうと推測できるがそれらが稼働している様子も見受けられない。
なにかあったのだろうかと二人顔を見合わせ首を傾げていると、男性が真咲達に気付いたのか途端に申し訳なさそうな顔をしながら駆け寄ってくる。

「おうすまん、もしかしてチャレンジャーか!?」
「チャレ…ええ、まあ。一応、ジム戦をお願いしに来ましたが…何かトラブルでも?」
「すまねえ!またジムリーダーがいなくなっちまってなあ〜!ジムトレーナーが探しに出てるから今ジムの中誰もいねえんだ!」
「ああ…道理で、やけに静かだと…」

また、ということはこのジムではジムリーダー不在が日常茶飯事というわけらしい。
それでいいのか、ポケモンジム。真咲の苦笑いを別の意味に取ったのか、男性は重ねて「すまん!」と何度も謝ってくる。

「頭をお上げください。別に何が何でも挑戦したいというわけではないのです。寧ろ大変な時にお邪魔してしまい申し訳ございません」
「え、そうなのか?」
『まあ、いないなら仕方がない。またナギサに用があったらついでに来るか』
「まだあきらめてないんですか貴方…」

やけに引き際がいいと思ったら、とジト目でゾロアークを見遣った真咲の背後から扉の開閉音がする。
誰か入って来たのだろうか、挑戦者だろうかと視線を遣った瞬間目に飛び込んできたのは見事な赤いアフロ。

「おーいデンジー!様子見に来てやったぞ〜!」
「あっオーバさん!すんません、ジムリーダーがまた…」
「あ!?まーたいなくなりやがったのかアイツ!」

赤いアフロに黄色いポロシャツ。どうもジムリーダーの知り合いらしい。
男性の態度的に、ジムリーダーに近い立場なのだろうか。どうも放浪癖があるらしいジムリーダーに苦労している様子が見て取れる。
まあジムリーダーが不在ならもう用はないだろうと立ち去ろうとした真咲に、男が気付いたようで。

「お、挑戦者か?悪ぃな、アイツこういうのが多くてよ。俺からも言っとくわ」
「いえ、私の事は大丈夫です。別に絶対に挑戦したいというわけでもないですし。ただ、他のトレーナーの方は困るでしょうね」
「え、挑戦しに来たわけじゃないのか?トレーナーだろ?」
「いえ別に。私はトレーナーではないです。カードは持っていますが。ここへは、この子達が来たいと希望していたので」

そう言ってボールラックを指先で弾くと、彼は珍しいものを見たように目を丸くした。

「つーことは別にジム巡りもしてなければリーグを目指している訳でもないってことか?」
「ええ。寧ろジム戦は初めてで」
「………おいおい、初めてのジム戦デビューでココ、ってのはいくら何でも無謀だろうよ。アンタなよっちい見た目して大した度胸だなあ」
「そんなにすごいジムリーダーさんなのですか」
「あ!?アンタ、ナギサシティのデンジを知らねえのか!?知らねえでここに!?」
「?はい」
「…………………こりゃ、大物が来たな…」

男性とアフロ頭の男は顔を見合わせていた。
アフロ頭―――オーバという男は、何でもここのジムリーダーの古い友人なのだそうだ。

「ここのジムリーダー、デンジは電気タイプの使い手だ。だが何よりナギサジムの特色は、立地!これに尽きる」
「何か特別な場所なのですか」
「………えっとな。このナギサシティは、ポケモンリーグに最も近い場所にあるジムなんだ。各地でバッジを集めた猛者達が、最後のバッジをもぎ取る為にここにやってくる。このナギサジムはリーグの門番的役割もあんのさ」
「成程、そういうことですか。とても重要な立ち位置なのはわかりました。では猶更ジムリーダーが不在がちなのはまずいのでは?」
「痛ぇとこ突いてくんなぁ…つーかマジで何も知らねえんだな…」
「ええ。普段はバトルとは無縁の生活をしていますから」
「無縁って…そんなんで挑戦しようとする度胸がすげえよなあ」
「まあ。私はともかく、この子達は強いですから」

その言葉が何かの琴線に触れたのか、オーバの目つきが変わった。
一瞬で変わった空気に呑まれそうになるのを、直ぐに持ち直す。ゾロアークも笑みを引っ込めた。
このオーバという男、どうも何かが違うようだ。周りの人間と。

「ンー…まあ要は、アンタのポケモンはジム云々じゃなくバトルがしたい、ってだけなんだな?」
「平たく言ってしまえばそうですね」
「なるほど!んじゃ、俺が相手してやる!」
『ん?』
「え」
「!?ちょっオーバさん!?いいんスか!?」
「大丈夫だろ非公式だしよ!ジムリーダーじゃないから万が一勝ってもバッジはあげられないが」
「……との事ですが大丈夫ですか」
『問題ねえよ。バトルなら』

男性の態度といいオーバの言う「非公式」といい、彼はまさかプロなのだろうか?
これはそこそこ大ごとになってしまったと真咲は反省したが、ゾロアークはとてもとても楽しそうに目を細めている。
オーバは「万が一勝っても」と言っていた。彼は己の腕に大層な自信があると見える。このリーグの玄関口とも言われているナギサジムのリーダーの古い友人だ、鎬を削り合っている仲だとしてもおかしくない。
もしかしたら、このジムリーダーよりも「面白い玩具」かもしれないのだ。ゾロアークからしたら楽しくて仕方がないだろう。

「そういやアンタら、名前は?」
「ああ申し遅れました、マサキと申します。えーとこちらが…えーと…ゾロと申します」
(お前適当か)
(仕方ないでしょう咄嗟に思いつかなかったんですから!))
「ん?バトルをするのはどっちだ?マサキか?」
「ええ、私です」

水面下でテレパシーで漫才を繰り広げながら自己紹介を終えた。
ずっと入り口から入ってすぐの所で立ち往生していたので一度奥へと運んでもらった。
いいのだろうか、ここは一応ナギサジムのリーダーの管轄では。そういうと「いいっていいって!いねえあいつが悪いんだからよ!」とオーバは言ってのけた。いいのだろうか。
そんなうだうだに乗じてちゃっかりゾロアークをモンスターボールへと仕舞う。
彼にはもしかしたら出てもらうことになるかもしれない。…いや、彼が望めば勝手に出てくるだろう。
対応するのはこちらなのですけれどね、と真咲は苦笑いした。
お互いにフィールドに立つ。傍から見たらトレーナーに見えてしまうのだろうか。

「方式はシングル、使用ポケモンは3体だ。勝ち抜きと入れ替えどっちがいい」
「ご自由に」
「んじゃ勝ち抜きな!このナギサジムリーダー・デンジにノープランで挑みに来た大物の実力、見せてもらおうかね!」
「その件については反省しておりますのでご容赦を」
「堅ぇなあ!」

オーバがモンスターボール片手にからからと笑う。
さて、どのポケモンを出して来るか。こちらの初手は決まっている。

「おっちゃん、審判頼むわ!」
「任せてくださいよ!オッホン!…それでは、オーバ対マサキ!バトル、――――開始!!」



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