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二日目、今日はヒーロー基礎学がある。
まず午前中は授業。
プレゼント・マイクによる英語の授業があったが…
(めっちゃ普通やん……)
なんというか、流石そこは高校というか。基礎教育はちゃんとするらしい。
プレゼント・マイクの英語がすごく発音がいいな…という部分しか突出した部分がないくらいだ。ラジオ英語教室を聞いている気分だ。
何がいいかといえば、そのプレゼント・マイクの個性による馬鹿でかい声量が眠気を吹っ飛ばしてくれるというくらいか。
《ヘイそこのリスナー!!!この問題の答えは!!?》
ボーっとしてたら当てられた。
***
昼は大食堂へ行く。
クックヒーロー・ランチラッシュによる一流料理を安価で食べられる。
雑踏を潜り抜け、天ぷら定食を頼んでなんとか席をゲットする。
一息ついてお茶を啜っていると、手前の席に誰かの気配を感じた。
「ここ、座ってもいいかしら?」
声をかけて来たのは、ぱっと見カエルのような印象をうける少女だった。
「……確か、同じクラスの」
「ケロ、蛙吹梅雨よ」
「蛙吹さん。どうぞ」
断る理由もなかったので席を勧めると、蛙吹はそこに座った。
蛙吹はパスタとサラダ、デザートのゼリーを頼んだようだ。
沈黙。特に零仔から切り出す話題はない。
ただ黙々とてんぷらを食べ進め、箸を進める。
…視線を、感じる。
「………」
気にしないようにはしていたが、ついに堪えかねて視線をあげた。
蛙吹がこちらをガン見していた。
「…えっと、蛙吹さん。私の顔に、何かついてる?」
「ごめんなさい、不躾に見ちゃって。何でもないの。あと、私の事は梅雨ちゃんと呼んで」
「えっ」
「お友達には、梅雨ちゃんって呼んでもらいたいの」
お友達。
お友達って、言ったの?
「…………」
「気に障ったかしら?嫌だった?」
「……はじめて、……言われた」
誰かにこう呼んでほしいと言われたのも、誰かに友達だと呼ばれたのも。
友達。
ずっと、一切縁のない言葉だと思っていた。
「栂野ちゃんは、私とお友達になるのは、嫌かしら?」
「………わから、ない。……友達、いたこと、ないから」
敬遠されるのが当然で、畏怖されるのが当たり前。
氷の女王として振舞っているのが日常。
だから、ここでも、氷の女王然と振舞っていて、それでもなおこうして話しかけてくる人は今までいなかった。
蛙吹はケロ、と笑った。
可愛い笑顔だった。
「じゃあ、私を初めてのお友達にしてくれるかしら?栂野ちゃん」
「……あ、……、うん。……梅雨、ちゃん?」
「ケロ、嬉しいわ。雄英で初めてお友達が出来たの、私とっても嬉しいの。良ければ名前で呼んでもいいかしら?零仔ちゃん」
「…!う、うん」
本当は怖い。
この個性がコントロールできるようになるまで、誰にも近づかない方が、いいのに。
彼女の好意を振り払うことができず、それどころか、嬉しかったのだ。対等に接してくれて、尚且つ好意を持ってくれることに。
「私ね、今この瞬間まで、零仔ちゃんの事すごく冷たくて近寄りがたい子だって思っていたの。気を悪くしちゃったらごめんなさい、私思った事はケロッと云っちゃう性格なの」
「……冷たくて近寄りがたいのは本当よ。愛想、ないもの」
「でも、ただ不器用で怖がりなのね。こうしてちょっとお喋りしただけで、零仔ちゃんに感じてた薄くて冷たい壁が、もう感じないもの」
蛙吹は、正直に言ってくれる。
事実そうなのだ。ただ怖い、怖くて仕方がない。
…誰かと、仲良くしたいという気持ちがないわけではなくて、ただ無理だと諦めていた。
「私、もう既にこんなに零仔ちゃんが好きだもの。そんな零仔ちゃんが、冷たくて愛想がないわけないわ」
「……褒め上手だね、梅雨ちゃん」
「ケロ、本当のことを言っているのよ」
まだぎこちないけれど、言葉をしっかり返せるようにはなった。
蛙吹はそれに嬉しそうに笑った。
なんて可愛い女の子なんだろう。蛙吹梅雨。
初めてのお友達。
「その天ぷら、ひとくち貰ってもいいかしら?気になるの」
「じゃあ、そのパスタも一口ちょうだい」
「いいわ、交換ね」
初めての友達は、なんだか、こそばゆい。
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