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「先生ぇ…?てめェがボスじゃねえのかよ…!白けんな」
先生と呼ばれたその液晶の向こう側の虚ろに、腹の奥が酷く覚束無くなる感覚を覚えながらこめかみをひくつかせる。
死柄木は踵を返すと荼毘の所まで歩み寄って行った。
「どうすんだ」
「…零仔を先に先生の所に連れて行く。黒霧、コンプレス。そいつをまた眠らせてしまっておけ」
荼毘から零仔を受け取り、抱き直しながら命令する。
コンプレスは爆豪の話の聞かなさに溜息をついていた。
「聞いて欲しけりゃ土下座して死ね!」
(クソ!最大火力でぶっ放してえが…ワープ野郎が邪魔過ぎる…それにアイツはどうする!?どうやったらアイツを取り返せる!?考えろ…!)
虚勢を張るが、正直手は殆どない。
実力も場数もあちらが上、それに数だって多い。しかもこちらは人質を取られている。
だがそれでも何か手が、手がある筈だ。
その時だった。
爆豪の背後にあった出入り口がノックされた。
軽く二回、全員が出入り口を見遣る。
外から声がした。
「どーもォ、ピザーラ神野店です――――」
次の瞬間、周囲の壁が凄まじい破壊音と共に吹っ飛ばされた。
瓦礫と土煙と共に、見慣れた黄色と青のスーツが見えて爆豪は目を見開く。
「ッ何だあ!!?」
「黒霧!ゲート…」
「先手必縛、『ウルシ鎖牢』!!」
続いて入って来た影が、その腕から伸ばした樹木で全員を拘束する。
「木ィ!?んなモン…!」
「逸んなよ」
木を個性で燃やそうとする荼毘の首を目にも止まらぬ一撃が捉えた。
荼毘の全身の力が抜ける。意識を持っていかれた。
今のは――――
「流石若手実力派だシンリンカムイ!!そして目にも止まらぬ古豪グラントリノ!!もう逃げられんぞ敵連合…何故って!?」
土煙が晴れていく。
おぼろげだった姿がやがてはっきりとしていき、漸く全貌が姿を現した。
そのすべてが爆豪の目に映った時、爆豪は柄にもなく―――安堵を覚えた。
無意識だった。爆豪にとっての安心の象徴、―――身体がすべてを覚えている。
彼は。
「我々が、来た!」
オールマイトだ。
「…ピザーラ神野店は俺達だけじゃない」
そしてヒーロー・エッジショットが個性で扉の隙間をすり抜け侵入し、内鍵を開けた。
扉が開いた途端機動部隊が突入してくる。
「外はあのエンデヴァーをはじめ手練れのヒーローと警察が包囲している。怖かっただろうに…よく耐えた!ごめんな…もう大丈夫だ少年!」
「こっ…怖くねえよヨユーだクソッ!!…っ、それより、」
「…ああ」
オールマイトや他のヒーロー達、機動部隊の視線の先。
死柄木はシンリンカムイによって拘束されている。
その死柄木の腕の中にいる零仔を捉えた。彼女の様子にオールマイトは眉を顰める。
「せっかく色々こねくり回してたのに…何そっちから来てくれてんだよラスボス……仕方がない……ッ黒霧!!持ってこれるだけ持ってこい!!」
(脳無だな!!)
黒霧がワープの動作に入るが、その途中で動きが止まる。
困惑したような黒霧の様子、そして何も起こらぬまま静寂が一瞬。
「すみません死柄木弔…所定の位置にある筈の脳無が…ない……!!」
「!?」
オールマイトはニヤリと笑む。
「やはり君はまだまだ青二才だ、死柄木!」
「あ?」
「敵連合よ、君らは舐め過ぎた。少年の魂を。少女の強さを。警察のたゆまぬ捜査を。そして――――我々の怒りを!!」
『それ』を向けられていない爆豪でもわかる。
ピリピリと肌を撫ぜ、もしかしたら敵がもつ底の知れぬ悪意よりも、もっと恐ろしいもの。
誰もが持つものであるはずのそれは、抱いた者がその場で圧倒的に格上であるからか、心臓を押し潰さんとする殺気にすら感じられる。
「おいたが過ぎたな。ここで終わりだ、死柄木弔!!」
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