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全て言い終える前に、動いたのは拘束を外された爆豪だった。
一瞬で歩み寄ってきていた死柄木へ突進し、爆破を喰らわせた。

「黙って聞いてりゃダラッダラよォ…!馬鹿は要約できねーから話が長ぇ!要は「嫌がらせしてぇから仲間になってください」だろ!?無駄だよ」

ニィイ、とヒーロー志望とはとても思えぬ笑みを浮かべて、爆豪はそれでも述べるのだ。
嘗ての自分の原点を。
今もなお曲がらぬすべての始まりを。

「俺は、『オールマイト』が勝つ姿に憧れた。誰が何言ってこようが、そこァもう曲がらねえ!しかもソイツが既に仲間だと思ってんなら、残念だったなァ」

荼毘の腕の中で尚高熱に魘されている零仔を一瞬だけ見遣る。
確かに、爆豪は彼女の事を何も知らなかった。全く違う世界で生きて来た事も、ずっと悩んで誰よりも己の個性と向かい合い苦悩して来たであろうことも。
正直、爆豪にとって衝撃ではあれど、知った事ではなかったのだ。
確かに彼女は苦悩したかもしれない。そしてこれからも苦悩していくのだろう。でもその苦悩以上に、彼女の心の中には。

「ソイツが敵に堕ちようが、クソ共の同類に成り下がろうが、ソイツは誰も攻撃できねえし誰も殺せねえ。気が折れようが心が死のうがソイツの性根は腹立つくれぇにビビリだからな」

彼女の戦いを直接見たのはUSJでだけだった。
だがそれだけでも、彼女の『根』が自己犠牲精神の強く正義感の強い人間であるとわかった。
そこから体育祭、保須などの件を聞いていけば嫌でもわかる。彼女は根はヒーローなのだ。
爆豪が憧れたヒーローの形ではないけれど、それは確かに彼女をヒーローたらしめる何かなのだと。

爆豪は決して言わない。だが内心認めている。
彼女が敵になろうと、誰も傷つけられないし誰も殺せない。
それは、彼女が『優しい』事を知っているからだ。
彼女が彼女である限り、彼女の優しさが死なぬ限り、彼女は敵には成りえないし誰も殺す事は出来ない。
誰かが傷つく前にその脅威の前に躍り出て代わりに自分が傷つくような少女が、誰かを傷つけるような器用な真似ができるものか。

それに彼女には、『彼』がいる。


先生達は、決して世間には流されない。
生徒を正しく評価し、そして爆豪と零仔を信じている。

メディア嫌いの相澤がメディアに頭を下げ、静かにだがはっきりと通る声で彼らの強さを述べる姿に、爆豪は笑みを隠しきれなかった。

「言っとくが俺ァまだ戦闘許可解けてねえぞ」

爆豪に手のマスクを吹っ飛ばされた死柄木は身動ぎ一つしないまま、床に転がった手を見ている。
黒霧の脳裏に、USJで同じく手のマスクを吹っ飛ばされた時、情緒不安定になっていた彼の様子が蘇る。
まずい、と黒霧はすぐに死柄木に駆け寄ろうとした。

「いけません死柄木弔!落ち着いて……、!」

止めに入ろうとした黒霧が足を止めた。
錯乱していると思っていた死柄木が驚くほど冷静に、視線で黒霧を制した。

「手を出すなよ……お前ら、こいつは…大切なコマだ」

落ち着いた様子でマスクを拾い上げ再び装着する。
以前とは明らかに違う様子に黒霧も少々呆気に取られていた様子だった。

「君と『も』分かり合えると思っていたんだけどな…」
「……ねぇわ」

決裂だ。
話は通じず、そしてお互いは分かり合えなかった。
これ以上は時間の無駄だ。
ヒーロー達は動き出している、時間がない。


「――――先生。力を貸せ」


死柄木の呼びかけに、彼の背後のテレビの砂嵐が歪み、人の影を取る。
その影はにぃ、と笑んだ。笑んだ、のだろうか。
ただわかるのは、その液晶の向こう側から、底の見えない程の虚ろが口を開けている事だけだ。


『………良い 判断だよ。死柄木弔』


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