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――――すすり泣く声がする。

何も絞り出すものさえも無くし、それでももう空っぽのはずの心が訴える喪失感に成す術もないままに泣き縋る、声が。
この声を、知っている。

誰が泣いている?そんな事は、どうでもいい。

そうだ、自分は『知っている』。


(わたしが、ずっと、そうだった)




―――――これで終わりだ。

アジトを襲撃し、今まさに敵連合を追い詰めんとする平和の象徴は、その終焉を謳った。
誰もがその怒りに腹の底を怯ませる中。

「終わりだと…?ふざけるな…始まったばかりだ…!」

死柄木の脳裏に、焦躁がよぎる。
同時に沸いたのは確かに怒りだった。

「正義だの…平和だの…あやふやなモンでフタされたこの掃き溜めをぶっ壊す…その為に『フタ』を取り除く。……仲間も集まり始めた。ふざけるな…ここからなんだよ…」

正義だの、平和だの『くだらない』。
今はそう吐き捨ててやる。
踏み躙って嗤って、そんなものに縋りついている事も気づかないままのうのうと生きている人間達の目の前で、それをゴミのように捨ててやる。
正義も平和もくだらない。嫌いだ。そんなちっぽけなものに一体何の価値がある?

誰もが望むものだ。誰もが欲しくて手に入れたいものだ。戦いを望み戦いに生きる者とてそれらとは切っても切り離せないところにいる。

だからこそ、それは呆気なく『簡単に切り捨てられる』。

死柄木は正義が嫌いだ。平和が嫌いだ。
―――己とてそれを欲したただ一人の人間であったのにも拘らず、それを望む事さえ世界は許さなかったからだ。
平和に生きる事さえ許されなかった。誰も助けてくれなかった。『いつかヒーローが助けてくれるだろう』と誰もが見捨てた。

好きで生まれたわけじゃない。好きで生きている訳じゃない。
ただ、勝手にこの世界に産み落とされて。成す術もなく息をする。それすらも許されないならば、己以外のすべてを憎む以外に生きていくすべなんて、幼かった死柄木は知らなかったのだ。

そして、それは。
あの時死柄木に「殺して」と乞いながらもこうして今腕の中で、必死に息をしている少女も同じだった。

ああ、こいつと俺はおんなじだと、思った。あの時は。


―――死柄木には全てを憎めた。
憎んで、憎んで、絶望も後悔も一通りした。
こんな世界に何で生まれたんだとか、何で自分は生きているんだろうとか、幼い頃何度も考えた。
憎めることは幸いだ。何もない人間にはそれが生きる活力、命の灯を燃やす薪となるからだ。


でも。


死柄木は黒霧を呼んだ。
だが、呼び終える前に黒霧はエッジショットの手で意識を奪われる。
ワープの手も封じられた。全て詰んだ。
―――チェックメイト、とは。こういうのを言うのだろう。

(ここからだ。ここからだ、その筈なんだ。俺は……)

「―――死柄木。おまえさんのボスはどこにいる?」

グラントリノが静かに問うた。
答えない。その沈黙が酷く心臓に痛かった。

その時、死柄木の腕の中の存在が動いた。

「ぅ……」
「…!」
「少女…!」

頑なに死柄木の腕が繋ぎ止めているからか、シンリンカムイの力でも死柄木から零仔を引きはがす事は非常に困難だった。
騒がしかったせいか、零仔は何度か身動ぎしようとして、動けない事に気づいて動く事をやめた。
閉じられていた目が、緩やかに開かれる。
荼毘から目覚めるたびに半狂乱になっていたと聞いた。その彼女の目の中に、今は狂気は宿っていない。

零仔は視線を彷徨わせることもなく、その菫色を死柄木に向けた。
目が醒めたばかりで、熱に浮かされたままの彼女では周囲の判断がつかないのだろう。
マスク越しに合った視線に、零仔の眼が緩やかに細められた。
そして、潤いを感じられない掠れ切った小さな声が、吐息と共に静かにその場にぽつりと水を打った。



「ないてる、の」



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