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爆豪と零仔の奪還は、果たして成功した。
無事に駅前まで走り抜けた爆豪達、そして同じく救出に来ていた八百万と轟も脱出に成功した。
そして、零仔は直ぐに病院へと運び込まれた。
先生、彼女は、助かるんですよね?
その希望をありったけ込めた子供達の、願いにも祈りにも似たそれは。
「――――――厳しいよ」
医師の険しい表情と苦渋に耐えるような声色が、その難しい現実を物語っていた。
これは夢と希望と、願いで片付くような少年漫画じゃない。命は――――易とも容易くその灯を曇らせて、消えていく。
そう。例えば、突然に。
大切な誰かの命を奪い去っていくのだ。
***
相澤が病院に駆け付けた頃には、手術が終了していた。
医師が相澤の姿を認識する。
ある程度顔なじみであるその会釈してくる顔が疲弊しきっているのに、相澤は直ぐに気づいた。
「栂野は…!」
「一命は取り留めました。ある程度の応急処置がしてある事が幸いし…こういう言い方はしたくはないですが、敵に感謝せざるを得ません。少しでも処置が軽ければ彼女は間違いなく死んでいました」
本当に最低限の応急処置のみが為されていた。
生かさず、殺さず。あちらで回復することがないように、かといって死んでしまうこともないように。
「…それと、」
医師が更に重たい口を開こうとしていた。
本題はそちらなのだろう。
「…麻酔をかける前、彼女の意識が一時的に戻った事があります。ですが、酷く精神的に不安定なようで…半狂乱、と言った様子で、酷く私達に怯えていました」
麻酔をかけようと押さえつけたら、痛ましい声で「やめて」「いや」と泣き叫んでいた。
助けを乞う訳ではなく、ただひたすら
願うことしか知らない子供のように。
「合宿で負ったであろう傷以外に目立った外傷はありません。ですが、敵連合に…精神的拷問、若しくはそれに類似した行為を受けた可能性があります」
「…拷問、」
「傷が残っていないと言うだけで肉体的拷問を受けた可能性もない訳ではありませんが、奴らに『何か』をされたのは確実でしょう」
合宿中、彼女はどこか不安定だった。
それでも、何とか立てていた。立てていたように見えたのだ。
相澤が恐れていたことが、現実になった。とうとう彼女は崩れてしまった。
意識がまた、戻っても。
(あいつは、ここに戻れるのか?)
「…相澤先生、ですか?」
ふと背後から知らない声で名を呼ばれた。
覚えがないため振り返ると、黒いスーツに身を包んだ背の高く若い男性が立っていた。やはり覚えがない。
記憶に検索をかけていると、医師がハッとしたように、
「憶田先生!」
「先生、零仔ちゃんは…!」
「手術はとりあえずは成功です。ですが、……」
その先の何かを察したのか、憶田、と呼ばれた男性はきつく眉間に皺を寄せた。
「…貴方は?」
「…申し遅れました、私は憶田精神病院で医師をしております、憶田と申します。零仔ちゃんの担当医です」
「精神病院?…栂野が通院を?」
零仔が精神病院に通っている事など相澤は知らなかった。
通っているようにすら見えなかったし、精神的に何かを抱えているとは感じていてもそこまで大事ではないと思っていた。
「…貴方には、伝えておきましょう。警察からも許可は降りております。貴方は…いえ、貴方達には、零仔ちゃんの本当の事を知っていただきたいのです」
警察。そんな沙汰であると、それ程までに大事であると?
―――――――あの少女に、一体、
(何が、あった?)
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