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腹の底がひりつくような嫌悪感に襲われる。
喉の奥にへどろが溜まっているようだ。
吐き出したいくらいに気持ち悪い、気分が悪い、それはいいかえればすべて恐怖に直結した。
だが、その時。
男はふと動きを止めた。何かに感づいたように。
「…………やはり…来てるな…」
次の瞬間、男を中心に真上から嵐が落ちて来た。
暴風が吹き荒れる。いや、衝撃波だ。
真上から――――その嵐を両手で受け止めた男が、その手を軋ませる。
金色の嵐。夕焼けに交じっても尚かすまぬその輝きは。
「全て返してもらうぞ!!!オール・フォー・ワン!!!」
「また僕を殺すか、オールマイト」
全ての原点。
誰もが憧れ誰もが目指し誰もが焦がれた、最強のヒーローだ。
そのあまりの衝撃波、そして突然の時代に爆豪の踏ん張りがきかず地面に倒れ込んだ。
腕の中の零仔を庇っている余裕がないくらいに。
「バーからここまで5q余り…僕が脳無を『送り』優に30秒は経過しての到着……衰えたねオールマイト」
「貴様こそ、何だその工業地帯のようなマスクは!?大分無理してるんじゃあないか!?」
あのオールマイトの攻撃を素手で弾いた。
それだけで、あの『オール・フォー・ワン』が如何に規格外なのかを爆豪はその記憶に焼き付ける。
「5年前と同じ過ちは犯さん、オール・フォー・ワン」
オールマイトは軽く足を払うと、次の瞬間衝撃波を伴いながら突進した。
「爆豪少年と栂野少女を取り戻す!そして貴様は今度こそ刑務所にブチ込む!貴様の操る敵連合諸共!!!」
「それは……やることが多くて、大変だな。『お互いに』」
空気が一変した、と思った。
次の瞬間オールマイトが消えた。
一瞬、無音。次の瞬間には壮絶な破壊音が遠くまで響き渡って、その場に巨大なクレーターが出来ていた。
「オールマイトォ!!!!」
爆豪の叫びに応えるように、土煙の中からオール・フォー・ワンが姿を現す。
「心配しなくてもあの程度じゃ死なないよ。だから…ここは逃げろ、弔。その子達を連れて。黒霧、皆を逃がすんだ」
オール・フォー・ワンから伸びた枝のようなものが気絶して倒れている黒霧に突き立てられる。
それはグチグチと音を立てて黒霧の中身を弄るように―――個性を、『強制的に発動させた』。
「さあ行け」
「先生は…」
遠くで爆発音がしたと思えば、跳んできたオールマイトが再び突っ込んでくる。
「逃がさん!!」
「常に考えろ弔。君はまだまだ成長できるんだ」
オールマイトとオール・フォー・ワンの殴り合いで、周囲が破壊されていく。
それを成す術もなく呆然と座り込んでいた死柄木に、敵連合達は声をかけた。
「行こう死柄木!あのパイプ仮面がオールマイトを食い止めてくれてる間に!」
「コマもってよ」
敵連合達は一斉に爆豪と零仔へ狙いを定めた。
相手は6人。こちらは動けるのが爆豪だけ故実質6対1だ。しかも爆豪は零仔を抱えて満足に動けない。
次々と襲い掛かってくる敵連合達を必死にいなす。
緊急事態だ。何が何でも連れて行くつもりなのだ。
「爆豪少年!!」
「させないさ。その為に僕がいる」
爆豪を助けようとしたオールマイトも、オール・フォー・ワンの前に満足に行動も出来ない。
どうする?
(クソッ…!最悪コイツだけでも…!!)
その時だ。
背後から突如爆発音がした。
冷気を感じる。馴染みのある冷気に思わず振り返った。
空へ、空へ登っていくそれに、目を留めて。
それは――――――
「来い!!!!!!!」
(アイツら、)
切島、飯田、緑谷。
まさかあいつら、ずっとあそこにいたのかよとか。なんでクソデクもいんだよ、とか。
そんな考えが、全部一瞬で頭の中を駆け巡って。
腕の中の零仔を決して手放さないように強く抱いた。
込めるのは最大火力。それを連続させなければ二人分の体重は飛ばせない。
手の平の汗腺の痛みなどどうでもいい。
渾身の爆破で爆豪は飛んだ。
掌がビリビリと痛んだ。だが、それでも。
「…バカかよ」
伸ばされたその手を、今度こそ掴めたのだ。
(死んでくれんじゃねーぞロン毛…!)
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