1





面会謝絶。
集中治療室にいた零仔が数日後個室に移せる程度にまで回復した。
ならばと、皆で見舞いに行こうとしたA組の歩みを止めたのは、その四文字だった。

まだ彼女は目を醒まさない。
死んだようにベッドに横たわり、点滴やチューブに繋がれ、心電図の音だけが彼女の生命を証明する。
例え、目覚めなくても彼女は今精神的に不安定だから。彼女の精神病院での担当医である憶田から、そう言われた。



「………」

相澤は零仔の病室にいた。
その前には、今尚眠り続ける教え子の姿がある。
憶田から、警察から。全て聞いた。
雄英の職員も、警察から全てを聞いた。彼女の過去を。――――個性というものが子供に与える影響の話として、最も顕著なサンプルであったからだ。
あるものは息を震わし、あるものは痛ましそうに瞑目し、あるものは資料を握り締めていた。
あれ程の事がありながら、彼女が敵に堕ちなかった事が奇跡だと。

「……お前、まだ、ガキだろ」

親の庇護を受け、親に愛情を注がれて育つのが子供としての「義務」であるというのに。
親が子供を慈しむのならば、教師である相澤はその上で子供達を教育し、そして大人として叱らなければいけない立場だ。だが。

その親に愛された事もない子供など、ましてや周りから冷遇されてきた子供など。

彼女はこの15年間をどう耐え抜いてきた?

親に与えられなかったものを埋めるように、現在の養父養母が愛情を注いできた事は憶田の話で分かっていた。
A組の一部の生徒達の、「彼女の祖母がとても優しい人だった」といった話からもそれは伺える。確かに彼女は、新しい家族から愛されている。
それは確かに、彼女を支え続けて来た大切なものだった事だろう。
だが、裏を返せば。彼女に残されたものは「たったそれだけ」だったのだ。
血の繋がらない家族、ただそれだけ。
個性を恐れて誰も近づかない。彼女も誰にも近寄らない。ずっとその距離感で自分の心を守っていたのを、この雄英に入った事でいい意味でも悪い意味でもそれが無くなった。無くなってしまった。

今まで、個性を「恐れられて」来たのが、突然「認められる」ようになった。

個性と向き合い続ける生活は今まで個性から目を逸らし続けて来た彼女にとって多大なストレスだったのだろう。
乗り越えなければならないという強迫観念、ろくに精神も回復していないまま、試練を前にし続けて――――今回、それを敵に付け込まれた。

――――ヒーローになりたいという意思ではなく、自分の個性を乗り越えたいが為に雄英の門を叩いた彼女は、学校に戻って来れるのか?

「お前はヒーローの素質があるよ。合宿で出現した脳無を、俺達や他の奴らが襲われないように気を引き付けてたんだろ。そんな自己犠牲的な精神もってんなら、十分だ。でもな、お前はそれ以上にまだ「子供」なんだぞ」

誰にも庇護されなかったから、助けの求め方も知らない。
助けを求めたとして、もっと被害が出るから。
『自分だけでいい』『自分が何とかしないと』という幼い頃の経験で構築された意識が、あの合宿で彼女を雁字搦めにしていたのだ。
大人を頼る事を知らないまま、大人の一歩手前まで彼女は来てしまった。

あの時のメンバーでは、あの脳無はきっと仕留められなかった。事実零仔は本当に最小限に脳無による被害を押さえた。
自分という犠牲を払って。彼女は正しかったけれど、それでも――――大人を頼るのが子供の「義務」であるというのに。

(お前は賢いから、俺らが頼りにならないって考えてるんじゃなくて。頼れるからこそ、他の所に行って欲しいと考えてたんだろ)

馬鹿だ。
本当に、この娘は馬鹿だ。


「早く目を醒ませ。あいつらがずっとお前に会いたがっている」


そして、目覚めた零仔を、大人として叱らなければならない。

大人の頼り方の教授と一緒に。




(栂野。もうお前は、『氷の女王』じゃあない)



.