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「面会謝絶って…!」
「何でですか!?」

芦戸と上鳴の吼えを相澤は受け止めた。
他の面々も、口には出さないものの二人と同じ意見だろう。

「今の栂野は精神的に極めて不安定な所がある。今お前らに会えば、更に不安定になる恐れがある」
「不安定、って……どうして……」

言っていいのか?
教師である自分の口から、教え子の事を話しても。
表面上には出ない相澤の葛藤を、背後からやって来た足音が代弁した。

「相澤先生。私から」
「………憶田先生」

毎日病院にやってきている憶田だった。
A組の面々は知らないのか、誰だこいつといった表情を浮かべる。

「ああ、君達は初めてだね。初めまして、私は憶田。個性は『記憶操作』……栂野零仔ちゃんの担当医をしているんだ」
「担当医だったのですね…」
「でも、ここの病院での担当医ではないんだ」

どういうことだ?という面々の中、飯田が思い至った様子だった。

「もしや、保須病院で栂野くんの診察に来ていた別の病院での担当医とは、憶田先生だったのですか!?」
「ああ、そうだ。君も保須病院で零仔ちゃんと一緒に入院していたね。飯田天哉くん。零仔ちゃんからよく話は聞いていたよ、とても真面目で頼りになる学級委員長君だとね」
「っ、彼女は元々、どこか悪かったのですか?持病など…」
「うん。今日は、その話をしにね」

憶田は柔らかく笑んで見せた。
その笑みは負の感情を相手に一切感じさせない程に温かく優しいもので、彼の人柄を感じさせるものだった。

「さて、ここで話をするのも何だ。許可は取ってあるから、ここの会議室を使わせてもらおうか」
「会議室、ですか?」
「うん、今からとても大事な話をするからね。零仔ちゃんについて、彼女の個性について。それを聞けば、今回彼女との面会が許可されない理由が分かるだろう。まあ、私はその面会謝絶にあまり賛成はしていないのだけれど」

理由は分からなくもないがね。
そう言って背中を向けて歩き出す憶田に、A組の面々は着いて行った。



***



「皆いるね?大丈夫だね?」
「憶田先生。私は廊下におりますので」
「ええ、お願いします。この話を関係者以外に聞かれてはなりませんので」

物々しい雰囲気の中、相澤は軽く会釈し会議室を出て行った。
A組の面々の胸中に不安がよぎる。
それ程までに機密性の高い案件なのだろうか、と。

「さて、と。これから話す事は、決して他言無用だ。誰にも言わないで欲しい。今回君達や学校の先生方にこの話をするのも、警察から許可が下りての事だからね」
「けっ警察!?」
「まあ、一部この話を知っている子もいるけれど…」
「……………」

轟が顔を上げた。
憶田は轟に気づき、ニコリと微笑んで見せた。

「ああ、君が轟焦凍くんか。警察から話は聞いたよ。君に関しては、まず私は君に謝らなければいけないね」
「?栂野と轟?轟、何か知ってたのか!?」
「いや、俺も詳しい事は知らねえ。でも、大まかになら聞いた」

彼女の過去の話を。
しかし轟が知っている事といっても、近所の人も知っている程度の薄い内容だ。
彼女には母親がおらず、父親から虐待を受けていた。そして、父親は彼女の目の前で自殺した。
正直、あまり信憑性はないと思っていた。

「教えてもらえるんですか。……あいつの、本当の事を」
「そのつもりだとも。そして、この話を聞いても…君達は、どうか彼女を受け入れてあげて欲しい。これが私の、心からの頼みだ」

面々の表情が緊張で強張った。
それにどこか悲しそうな表情を浮かべて、それも一瞬で切り替わると、憶田は再び口を開いた。



「これは、15年前の話だ」


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