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暫くして面会謝絶は解除された。
本来ならもう少し様子を見る予定だったらしいのだが、憶田は零仔と轟の様子を少しだけ見ただけで大体何があったかは把握したらしく(それも個性がなせる業なのか?)、担当医に進言して早まらせたようだ。
確かに先延ばし先延ばしにするよりは、熱の冷めぬ内に問題を解決しておいた方がいいだろう。

面会を熱望していたA組面々は面会許可が下りると同時に、病室に雪崩れ込んできた。
一足先に病室に来ていた轟がその様子に軽く面食らっていた。お前も驚いてどうする。


「栂野〜!!大丈夫!?怪我は!!?もういいの!?」
「大丈夫か!!?もう動き回れんのか!?」
「退院はいつになりそうなの!?退院祝いどこがいいか一緒に考えよ!!」
「あれ!?轟早いな!?先に来てたのか!」
「みんな静かに!!!!病院だぞ!!」
「飯田が一番うるせえ」

―――――あまりに、いつもと同じだった。
身構えていたのだ。例え先に皆の様子を憶田から聞いていたとしても、こうして面と向かって会えば、もしかしたら、と。
零仔が怯えていたよりもずっと、皆は強かった。

「だから先生も言ってたろ。皆会いたがってるって」

轟の言葉に怯えが解けて、安堵が染み入るように全身に広がっていく。
それに合わせるように目尻がまた熱くなった。皆がぎょっとして、ベッド周りに駆け寄って来る。それにまた涙が溢れてきて止まりそうにない。

「え、え!?栂野どうした!?まだどっか痛ぇのか!?」
「大声が傷に響いたんじゃ…」
「飯田がでかい声出すから…」
「ええ!?す、すまない!」
「ち、違うの」

しゃくりあげながらなんとか飯田の冤罪を解いた。飯田は悪くない。
耳郎が背中をさすってくれていた。
ただそれだけの事が酷く嬉しかった。その優しさが痛いくらいにあたたかかった。

「みんな、わたしに、……いつもみたいに、優しくしてくれて、……っ、わたし、こわかった」
「栂野さん…」
「本当のことをしったらみんなと、前みたいに、雄英に、いられないんじゃないかって…!」

人殺しなんかと一緒にいたくない。その言葉をあまりに当たり前に享受してきたから。
皆は優しいことを知っているから、無理して一緒にいてほしくはなかった。
本当の事を知られたくなかったから、今まで誰かと一緒にいる事が怖かった。ずっと誰かが怖かった。誰もが怖かった。
自分が何よりも怖かった。

「栂野、アタシね!また栂野と一緒に買い物したりお喋りしたい!雄英で色んな事もっと一緒に勉強したい!」
「芦戸さん…」
「だからね、……だからね、アタシ……また、栂野と、雄英に通いたい……」

芦戸の目にみるみる涙が溜まっていく。それが零れるのにそう時間はかからなかった。
皆は分かっている。彼女にとって個性を育む学び舎は、ずっと自分の首を絞め続ける場所である事を。

「…私もですわ、栂野さん!皆さんも芦戸さんと同じ気持ちですの!例え栂野さんの過去が何であっても、関係ありませんわ!」
「クラスメイトの悩みを一緒に背負ってやれねえようならヒーロー失格だろ?俺ら」
「そうだぜ!…無かった事にしたり、見捨てる事なんて誰にでもできるけどよ!そんなクズになりたくねえんだ!漢らしくねえ!!」

皆は、優しい。ただそれだけではなくて、強い。
だから、自分だって泣いてばかりじゃなくて。

(みんなに、追いつきたい)

強くならなければ。その為に、乗り越えたいから。

「零仔ちゃん」

親友が呼びかけてくる。
蛙吹は酷く穏やかな顔だったが、その目に水底に届く光のような柔らかく強いそれを湛えていて。

「…零仔ちゃんは、自分をずっと苛み続けて来たんでしょう。責めて来て、周りの人達は誰もがそれを正しいとしてきたのかもしれないわ。…でもね」

燐のように、父の家族のように。
お前が生まれたからみんな死んだのだと皆揃って指を指した。
それが正しいものだと飲み込んできたけれど。

「そんな生き方、辛すぎるわ。零仔ちゃんの個性が人を殺すものだなんて、そんなはずない。だって私はUSJで確かに零仔ちゃんに命を救われたもの」
「梅雨ちゃん、」
「私は、私達は何があっても零仔ちゃんの味方よ。皆零仔ちゃんがとっても強くて優しいヒーローだって知ってるもの」

何も知らない大人たちが何を言おうと。
流される世論がどれだけ糾弾しようと。
これは理屈じゃない。結果論じゃない。もっと深いものの話だ。

「…零仔ちゃん。貴方は、どうしたいの?」
「……私、は…」

選ぶことができる。
誰も強制はしてこない。望みは一つだ、それでも皆零仔の気持ちを尊重する。
自分の気持ちなんて、―――もう既に決まっている。


「……私は、…みんなと、卒業したい…」
「…!」
「許されるなら。…みんなと、一緒に、ヒーローになる事を、許されるなら…皆と、最高のヒーローになりたい…!!」


罪滅ぼしのつもりなのかもしれない。命を奪ってしまったこの個性で誰かの命を救おうだなんて、厚かましいかもしれない。
それでも。この個性で、奪うのではなく守ることができるというなら。
両親に許してほしいとは決して思わないけれど、この罪を背負って『生きる』事だけは、譲れない。


「わたしは、生きたい……!!」


いつか自分が死ぬ時が来て、その時地獄に落ちるのだとして。
その地獄の底で、両親に自分の人生を誇れるような生き方をしたい。貴方達から奪ってしまった分の人生を、貴方達の分まで華々しく生きて潔く散りたい。
ずっと死の影と恐怖に怯えて下を向いて無為に息をするだけの人生なんて、それこそ彼らに顔向けができない。
例え許されなかったとしても、その罰なら地獄でいくらでも受けるから。


―――――お父さん。私、夢が出来たの。


この美しい彼らと、共に追いかけるとても綺麗で気高い夢だ。
共に競い合い高め合う、とても厳しいものだけれど。彼らと共に駆け抜ける青春と一緒に夢を追う事の何と尊い事か。
誇れる生き方を。下を向いて生きるなんて、真っ平だ。死ねと言われても知った事か。もう零仔には強く優しいヒーロー達がいるから。

それ以上に、何よりも強くて優しい、零仔だけのヒーローがいてくれるから、きっとこれからも生きて行けるはずだ。



(お父さん。…貴方が、私をずっと憎んでいたのだとしても、私、貴方の事どうしても嫌いになれなかったの)

恐怖の象徴として刻みつけられてはいても、嫌悪には決して成りえなかった。
いっそ憎めたらどれだけ楽だったろうと思った。いや、きっと楽だったのだろう。憎しみとは蜜だ。
でも、憎んでいたらきっと今には至れなかった。全ては彼らに出逢う為だった。

この素晴らしい仲間と。



(ありがとう、お父さん、お母さん。私を産んでくれて)



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