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零仔の意識がない間もリカバリーガールがやって来て身体を治してくれていたからか、身体の傷は完治していた。
医師が言うには、奇跡的に後遺症などはないそうだ。よくあの傷で後遺症が無かったものだと寧ろ脳無に感謝する日が来るとは思わなかった。
ただ、大量の傷はその殆どが深い傷だったのとチェーンソーやドリルで抉られたものだった所為か、ほぼ全ての傷の痕が残ってしまった。
昔からあった胸の大きな傷だけだったのが、肩や脇腹に見るに堪えない傷が点在するようになった。
(……女の子の身体で、これは、ないよなあ…)
これらの傷を負った経緯を考えれば名誉の勲章ではある。
だが、流石にこの傷に覆われていると言って差しつかえない身体は女子としてとても魅力的とは言えない。
女を捨てているというレベルだ。
(…いや。…別に、いいじゃない。女として生きれなくても、今の状況は寧ろ恵まれすぎてるくらいなのよ。これ以上何を望むの?)
これ以上望んだら罰が当たりそうだ。
…ああ、でも。今までは胸の傷はタンクトップで隠せていたけれど、これからこれらの傷はどう隠そうか。とてもタンクトップでは隠せない。
ギリギリ半袖では見えない範囲だが、もうノースリーブは着られないだろう。
(…お気に入りのワンピース、…もう着られないかな……)
女子勢の綺麗な肌を思い出して羨ましくなる。
こんな身体じゃ、可愛い服も似合わないだろうか。
「………………やめよう」
無いものねだりなんて、したって辛くなるだけだ。
それに別に、この身体を誰が見るわけでもない。祖母はきっと悲しむだろうけれど。
恐らく嫁に行けないであろう娘をどうか許してほしい。
***
「全寮制、ですか!?」
退院一日前となったある日、相澤と祖母達が見舞いに来た。
軽(くはな)い説教と小言を貰った後、相澤から話されたのは雄英高校全寮制化についてだった。
なんでも、生徒の身の安全を考えての苦渋の決断らしい。だが。
(……いや、やめよう。これは、おばあちゃんとおじいちゃんの前で話す事じゃあないわ)
「親御さんに粗方説明は終えている。A組生徒には皆話した」
「……全寮制にするのは、確かに賛成です。…でも、……」
全寮制になったら、祖父母はどうなる?
誰が守る?もし二人に何かあったらどうする?
表情が曇った理由を、相澤も祖父母も察した。そんな彼女に言葉をかけたのは、
「いいだろう零仔。寮に入りなさい」
「あなた…」
祖父だった。
いつものように黙っているだけだと思っていたので零仔も思わず面食らった。
「おじいちゃん、でも…!」
「先生達プロヒーローがおるならお前は今よりずっと安全だ。そもそもワシから一本も取れんお前がワシ達の心配なんぞしとる場合か」
「う゛……」
「それにな。もうお前は大丈夫だろう?」
その意味に気づいて、息を詰めた。
もう零仔の味方は祖父母だけじゃない。零仔にはA組の皆がいる。轟がいる。
「零仔、…これだけはお願い。もうこれからは絶対に、一人で無茶をしない事。貴方を応援する事は変わらないけれど、それは決して貴方の心配をしないという事ではないの」
「……うん」
「今回のような事、またあったら……」
「……」
「おばあちゃんショック死しちゃうわ……」
「これはシャレにならんぞ零仔」
「以後気を付けます…!!!」
マジでシャレにならねえ。
今回の事は本当に二人に心配を掛けさせた事重々承知だ。もう無いようにしなければならない。
「娘さんを脅威から守りながら、今度はその脅威から市民を守れるヒーローに育て上げるのが我々雄英の義務です。娘さんは責任を持って預からせていただきます」
「…今回の事は、色々と心ない事を言われておりますが…貴方達が子供達を守ろうと様々な対策をしてくださっている事は知っております。どうか娘を、お願いいたします…!」
相澤が祖父母に頭を下げる。祖父母も深々と相澤に頭を下げた。
祖父母の庇護下から自立する。まるで巣立ちする小鳥の気分だ。
(…いつまでも、おじいちゃんとおばあちゃんに甘えてなんかいられない)
ずっと守られてきた分、今度こそ二人を守れるくらいに強くなる。
それこそが、零仔の理想のヒーローだった。
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