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今日は朝礼があったが、謹慎を喰らった緑谷と爆豪は欠席。
根津校長の死ぬ程どうでもいい話が9割、メチャメチャ重要事項が1割の面積を占めていた長時間のお話も終わった。
生活指導のハウンドドッグのキレすぎて人語を忘れてしまいブラドキングの通訳を介して緑谷と爆豪の謹慎に触れた生徒の学校規則の見直しについての絵面の濃すぎる話も終わった。
それよりもずっと気になっている事がある。
朝礼が終わると直ぐにHRが始まった。
てっきり触れられると思っていた話題は相澤から切り出される事は無かったので、無謀にも芦戸が相澤の話中に蛙吹と内緒話をした事をきっかけに漸く触れられることになった。
根津の話にあったのは、『ヒーローインターン』という聞き覚えのないものだった。
平たく言えば校外でのヒーロー活動で、以前あった職場体験の本格版との事。それでは体育祭での頑張りは一体何だったのかという話になるが、校外活動は体育祭で得た指名をコネクションとして使うものらしい。
しかも授業の一環ではなく生徒の任意で行う活動であり、寧ろ体育祭で使命を貰えなかった者は活動自体厳しいのだとか。
(仮免を取得できたことでより本格的かつ長期的に活動に加担できるけれど…そもそも一年生での仮免取得ってあまり聞かないし、敵の動きも活発化している今私達の参加はあまりいい顔をされなさそうね)
相澤の話を聞きながらそんな事を考えている内にHRが終わり、一限目の授業の英語が始まっていた。プレゼント・マイクの馬鹿でかい大声量のお陰で意識が引き戻された。
暫く予習が出来て無くて思った以上に授業の進みが早く驚いたが、何とか授業にはついて行けた。しかし切島や砂糖が愕然とした表情をしていたところを見ると皆予習が追い付いていなかったのだろう。
これは学校が終わったら予習地獄だな…と溜息をついた。
《ヘイそこの馬鹿でかい溜め息のリスナー!!ここの長文を訳しな!》
当てられた。畜生。
***
「…で、ここはこうなるからこういう文法になるの」
「はえぇ〜なっるほど……」
「駄目だ…今日の復習に手一杯で全然予習に手がつかない…」
夜、女子達は蛙吹の部屋に集まって勉強会を開いていた。恐らく男子達も今復習と予習に追われているだろう。
零仔は今日のノルマを終え予習も一段落し、芦戸や麗日に今日の英語の説明をしていた。
芦戸は顔が死んでいるし、八百万に教えてもらっている耳郎もやや疲れが見えてきている。
「零仔ちゃん、皆もちょっと休憩しましょう。詰め込み過ぎも良くないわ。これ、ホットミルク淹れたから」
「ありがと、梅雨ちゃん」
「ちょっと今日は無理〜〜もう頭に入らん!明日頑張る!」
葉隠の根拠のない意気込みに芦戸がそーだそーだ!とこの数時間の中で一番元気な声を上げた。
ヒーローを育成する機関であっても教育にも一切の手を抜かないのが雄英だ。当然教育の水準も高い。本当によくここまで喰らいついてきている。
これからは勉強も難しくなるだろうし、訓練の方も厳しくなる。いつ振り落とされそうになるか分からないのだから、一時も気を抜いてはいられない。
自主練のメニュー量を増やしてもいいがそれだと勉強の時間が減ってしまう。かといって訓練を疎かにしては瞬く間に皆との差がつく。
何か効率的な方法はないものか。
「…ーい。おーい、栂野!」
「…………え?あ、ごめんなさい。何?」
「だいじょーぶ?勉強ぶっ続けで疲れたんじゃない?」
「栂野さん、最近お忙しかったのですから休める時に休まないと」
そーだよ、と葉隠が便乗して肯定する。
確かに合宿、神野の事件、仮免と怒涛の日々で碌に休めてはいなかった。
それでも精算出来たことは幾つかあるし、折り合いが着いたものも多かったからそこまで疲れ果てている訳でもない。
「…それにさ、合宿の後から栂野と轟、ちょっとぎこちなかったように見えたから心配してたんだ」
「えっ」
「あ、何となくね?喧嘩とかそういう風には見えなかったけど、何となくお互いに距離感測りあぐねてるのかなーって」
「でも今朝の様子見てなんか安心した。前みたいに楽しそうでさ、何とか落ち着いたんだなって」
「なんかお互いの空気感めっちゃ柔らかくなってるしねー」
「何かあったん?」
心配されてたんだな…と思った次の瞬間には進展を聞かれていた。何だこの流れるような陽動。
しんみりした空気は一気に消えた。
具体的には芦戸や葉隠がキラキラしてこっちを見てくるし、八百万や耳郎、麗日に蛙吹まで注目している。
死ぬほど居心地が悪い。逃げたい。
「何か…とは…?」
「昨日の夜零仔ちゃんお部屋にいなかったし轟ちゃんの所に行ってたんでしょ?帰ってきたの大分遅かったじゃない」
「何ィ!?」
「梅雨ちゃん!!?」
外堀を埋められていく。まずい。
そこまで観察されてるなんて思わなかったが、蛙吹の観察力や洞察力をなめてはいけなかった。彼女はそういうのに実に長けている。
そして真っ向から轟のところに行っていたのを否定すればよかったのにここで慌ててしまったから墓穴を掘った。馬鹿。
「夜遅くに轟の部屋に行って何も無かったとかそんなはずないでしょ!?吐け!なにがあった!」
「吐くまで帰さんぞ」
「どうして尋問にすり替わってるんですかね」
せめて八百万に助けを求める為に視線を遣って直ぐに逸らした。目をキラキラさせていた。駄目だ。
勉強道具が広げられていたテーブルは瞬時に片づけられ代わりにジュースとお菓子を広げられてすっかり女子会に様変わりしてしまっている。
諦めるしかないのか…と観念しそうになった時、「そういえば」と麗日が声を上げた。
「憶田先生の話聞いた時、轟君と栂野さんずっと前から知り合いだったんだなーって思ったんだけど、でも二人ともあの時めっちゃギスギスしてたよね…」
「そんなにギスギスしてたっけ…」
「してたしてた!初めての実技の時に殴る蹴るの大乱闘して轟は栂野の顔面を蹴るわ栂野は個性で轟煽るわで見てるこっちが死ぬほど冷や冷やしたんだよ…」
「私は物理的に冷や冷やしたけどね!」
「USJの時だってギスギスしてたし…」
「体育祭から急に仲良くなったわよね。あの時は殴り合って和解したのかと思ったけど」
「そんな少年漫画みたいな…」
「とまあこんな風にね、私達もいろいろ気になってたの!だから教えて栂野〜!」
「え、ええ……」
逃げられそうもない。