8




目を覚ますと、そこは保健室だった。

頭を打ってあの後気を失ってしまったらしい。
頭には包帯がまかれていた。

(あんだけ啖呵切っといて気絶かよ…!なっさけない…!!)

普通に死にたい。
自己嫌悪に陥っていると、ベッド周りのカーテンが開いた。

「あっ気が付いたのね零仔ちゃん」
「栂野さん起きた!よかった!」

蛙吹と、葉隠。
あと後ろに結構いる。これ揃ってないか?

「ああ、大丈夫…軽く打っただけだから…」
「あれが…軽い…??」

まあ、軽くはない。なんせ容赦ない攻撃だったからだ。
だが後頭部ではないだけ多分マシだった。

「リカバリーガールから、治癒はしたけどこれからは無理は禁物よって」
「わかった」
「それにしても轟君容赦ないね…女の子の顔に容赦なく攻撃するとか…」

そもそも女として見てなかったんだろう、彼は。
彼にとって、零仔越しに見ていた『誰か』こそが、全てで。それ以外は有象無象以外の何物でもないんだろうから。
有象無象でしかないけれど、なまじ力があるからこそ沈めにかかった。まあその程度くらいには見てくれていたのかな。
ボーっと考え込んでいた零仔を、後ろの麗日が心配そうにのぞき込んできた。

「栂野さん大丈夫?まだ頭痛い?」
「えっ、あ……いや、もう大丈夫。心配は要らない」
「そう?なら安心!」
「お、もう大丈夫だって?」
「よかった。あの攻撃結構しっかり入ってたもんな」
「すげーやり合いだったよな!映画みたいだったぜ!」
「割と肉体派だったんだな!アツい奴じゃねーか!!」
「ちょっと、次々言われて零仔ちゃんが混乱してるわ」

蛙吹がフォローに入ってくれて何とか整理がつく。
一度にこんなに話しかけられたのは初めてで、頭の中がぐるぐる回っていた。
こんな大勢の中心にいる事も初めてだった。誰かとこんなに距離が近いのも。こんな風に笑って話しかけられるのも。
初めてだらけで、どうすればいいのかわからない。
混乱しているのが見て取れたのだろう、皆大人しくなったが、その眼は好奇心と好意に満ちていた。

「私芦戸美奈!栂野ちゃんの戦い振り見てて熱くなっちゃった!」
「俺!砂藤!一戦目に続いて二戦目もあんなの見せられられたら俺らも力入っちまったぜ!」
「俺ぁ切島鋭児郎!お前見かけによらず熱い個性持ってんな!」
「俺上鳴電気!今度どっか飯いこうぜ!」
「こら上鳴くんベッドの側面は腰かける場所じゃない!やめるんだ!」
「ほんとブレねーな飯田」

―――ああ。
学校って、本当は、こういう所なんだ。
こうやって誰かと、お互いを知り合って、知ろうと努力していくところなんだ。

ああ。

ここに、あの氷の女王の城はない。

自由なんだ。




「――――私、栂野零仔」



***



「っ……」

重い氷がぶつかり合って崩れる音がする。
何度も、何度も。
この胸の内の憤りに似た衝動をぶつけるように。

(アイツは何なんだ?)

今日の屋内戦闘でぶつかり合った、栂野零仔。
個性はあちらが上位互換だ。それはいい。
あの少女の、こちらを暴くような目を思い出すたびに酷く暴れ出したくなる。
恐ろしい程に凍えたヒヤシンスの目が、今でも何故か鮮明に思い出せる。

あの、どこか、悲しそうな目が、



『焦凍』



(かあさんを、おもいだす)