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「ふ、ッ!」
壁を蹴って回し蹴りを入れるものの、轟の氷の盾で防がれる。続いて轟の氷結の追加効果付きの拳がやってくるが、腕で防いでその隙に氷の盾を足場にすることで体勢を立て直した。
一進一退、お互いは確実にテープを巻き付ける機会を狙っている。
(それにしても…)
先程から零仔には引っかかる事があった。
轟きの個性は凍らせることも燃やす事も可能な個性だ。
ならば疑問は一つ。
(なぜ左の炎を使わない?)
零仔に氷は効かない、これは分かっているはずだ。
確かに工夫次第ではどうとでもなるが、それはこちらも同じ。個性ではこちらの方が上位互換なのだから、あちらが工夫をしようとこちらも工夫をすればすぐに突破できる。
寧ろ炎の対処の方が難しいのだから、炎を使えば零仔を出し抜けるのは容易な筈。
轟は頑なに炎を使おうとしていない。
(舐められている?いや、それもある。でもそれ以上に…)
いや、やめよう。
それは今関係の無いことだ。
彼が承知の上でハンデを負っているのなら願ったり叶ったり、無理に引き出させてこちらが不利になるような事はしない。
(私には、関係の無いことだわ)
加減されて勝っても気に入らないが、零仔の本当の目的はそれじゃない。
(でも、それよりも……)
「余所事かよ、余裕だな」
「ッつ!」
一瞬、死角からの攻撃に反応できなかった。
頭部を攻撃され、その勢いで床に押し倒される。氷結での拘束は無意味と判断したのか、馬乗り状態で拘束された。
頭への衝撃が重く、振りほどく事ができない。
「ぅ、ぐ……」
「余計なこと考えられる程度には余裕だったのか」
氷のように冷たい声が上から浴びせかけられる。
―――その声が、『あのひと』を思い出させる。
氷のように冷たい眼と、冷たい声、冷たい言葉を。
轟の目を知っている。
轟の目に零仔なんて映っていない。零仔を通して誰か遠くの人物を見ている。
ただ遠くを、遠くを、遠くを見て、ただ憎み続けるような、目をしてる。
胸の傷が、ずぐりと痛んだ気がした。
(痛い)
あの目を思い出す。
ああ、痛い。
あの日を思い出す。
痛い。でも、轟もどこか、虚ろな目をしている。
孤独な目を。
「あなたこそどこ見てんのよ」
「……?」
「私越しに、『誰を見てる』って言ってんのよ」
目が見開かれる。
それは激情に突き動かされた何かに似ていた。
「誰を見てるのかは知らない…でも私を、見てないのは、確かだってのは…分かる……」
「何言って……」
「目の前の敵も認識できない奴に負けるつもりなんて、ないわ」
《終了ーーーっ!!!!!!!》
インカムからオールマイトの声が聞こえる。
まだ時間には早い。ということは。
『ごめん栂野さん〜!』
『悪い栂野!障子にやられた!』
ああ。負けちゃったのか。
どうしよう、こんなに啖呵切っといて、ちょっと情けないかな。
無線越しに葉隠と尾白が案じてくる声が聞こえるけど。
(ああ、頭、打ったせいかな……)
意識が、暗転した。
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