7



「ふ、ッ!」

壁を蹴って回し蹴りを入れるものの、轟の氷の盾で防がれる。続いて轟の氷結の追加効果付きの拳がやってくるが、腕で防いでその隙に氷の盾を足場にすることで体勢を立て直した。
一進一退、お互いは確実にテープを巻き付ける機会を狙っている。

(それにしても…)

先程から零仔には引っかかる事があった。
轟きの個性は凍らせることも燃やす事も可能な個性だ。
ならば疑問は一つ。

(なぜ左の炎を使わない?)

零仔に氷は効かない、これは分かっているはずだ。
確かに工夫次第ではどうとでもなるが、それはこちらも同じ。個性ではこちらの方が上位互換なのだから、あちらが工夫をしようとこちらも工夫をすればすぐに突破できる。
寧ろ炎の対処の方が難しいのだから、炎を使えば零仔を出し抜けるのは容易な筈。
轟は頑なに炎を使おうとしていない。

(舐められている?いや、それもある。でもそれ以上に…)

いや、やめよう。
それは今関係の無いことだ。
彼が承知の上でハンデを負っているのなら願ったり叶ったり、無理に引き出させてこちらが不利になるような事はしない。

(私には、関係の無いことだわ)

加減されて勝っても気に入らないが、零仔の本当の目的はそれじゃない。

(でも、それよりも……)

「余所事かよ、余裕だな」
「ッつ!」

一瞬、死角からの攻撃に反応できなかった。
頭部を攻撃され、その勢いで床に押し倒される。氷結での拘束は無意味と判断したのか、馬乗り状態で拘束された。
頭への衝撃が重く、振りほどく事ができない。

「ぅ、ぐ……」
「余計なこと考えられる程度には余裕だったのか」

氷のように冷たい声が上から浴びせかけられる。

―――その声が、『あのひと』を思い出させる。
氷のように冷たい眼と、冷たい声、冷たい言葉を。

轟の目を知っている。
轟の目に零仔なんて映っていない。零仔を通して誰か遠くの人物を見ている。
ただ遠くを、遠くを、遠くを見て、ただ憎み続けるような、目をしてる。

胸の傷が、ずぐりと痛んだ気がした。

(痛い)

あの目を思い出す。


ああ、痛い。

あの日を思い出す。
痛い。でも、轟もどこか、虚ろな目をしている。

孤独な目を。


「あなたこそどこ見てんのよ」
「……?」

「私越しに、『誰を見てる』って言ってんのよ」

目が見開かれる。
それは激情に突き動かされた何かに似ていた。

「誰を見てるのかは知らない…でも私を、見てないのは、確かだってのは…分かる……」
「何言って……」
「目の前の敵も認識できない奴に負けるつもりなんて、ないわ」



《終了ーーーっ!!!!!!!》

インカムからオールマイトの声が聞こえる。
まだ時間には早い。ということは。

『ごめん栂野さん〜!』
『悪い栂野!障子にやられた!』

ああ。負けちゃったのか。
どうしよう、こんなに啖呵切っといて、ちょっと情けないかな。
無線越しに葉隠と尾白が案じてくる声が聞こえるけど。

(ああ、頭、打ったせいかな……)


意識が、暗転した。


.