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今零仔は現在外にいる。
これからヒーロー基礎学。
それも、救助訓練。ヒーローに最も求められる基礎にして最大のスキルだ。
救助訓練の為に専用の運動場に向かうため、現在バスを出してもらっている。
コスチュームは着用自由らしいので、今回もちゃんと着用している。
何だか峰田がガン見してくるけど。
「……えっと、峰田君?何?」
「いや…こう、あえてダボダボの体操服を羽織る事で、太もものエロさが際立つなって…ゲッホォォ!!!!」
峰田の堂々過ぎるセクハラ発言を遮った勇者は耳郎だった。峰田?ああ、面白い奴だったよ。
「大丈夫?なんもされてない?」
「え、あ、ああ…うん…」
峰田、既にお前の人望は地に落ちてないか?
そういうキャラ嫌いじゃないけど。
そして飯田、バスの席順云々に関して誘導力、すでにフルスロットル。飯田に誘導されて最後にバスに乗り込んだ。
だが残念だった飯田、このバス、特定の座席ないんだ。路線バスタイプだった。
落ち込むなって飯田。
寧ろそれよりもだな。
(なんで私の前の席が爆豪くんで隣の席が轟くんというある意味最悪の組み合わせなのかを知りたい)
圧が。圧がすごい。
もう既に早くついてくれという気持ちでいっぱいだ。
蛙吹がちらりとこっちを向いたがすごくその視線の意味が「耐えろ」を多大に含めていてもう既に死にたい。
チラリと轟を見遣った。
「…………」
ね、寝ている…だと…?
いや、助かった。うん。そのまま寝てて。
こっちも寝そう。
と思ったら突如爆豪がキレて立ち上がった。
目が覚めた。
「爆豪ちゃんはキレてばっかだから人気出なさそ」
「んだとコラ出すわ!!!」
「ホラ」
「この付き合いの浅さで既にクソを下水で煮込んだような性格と認識されるってすげえよ」
「てめえのボキャブラリーは何だコラ殺すぞ!!」
とても…キレてます…
これはもう最早芸といってもいいキレ芸。早死にすんぞ。
あんまりにもバスの中が騒がしいものだ、そろそろ相澤がキレかねない。
そう思っている内にずっと静かだった隣がもぞもぞと動いた。
「うるせえ……」
轟が起きた。
本当に寝ていたわけではなさそうだが、気分を害する程度の喧しさだったらしい。
意識が少し浮上したことで隣に零仔がいた事を認識したらしく、暫し目を見開いた。
「…何」
「…別に」
以上。
空気が険悪ではない分余計に痛い。
彼といると、中学の時と同じ感覚になる。気分は良くない。
彼の空気がそうさせているのかもしれない。
常に感じる薄い壁。関わるなという気配。感じるたびに、思い出す。
お前は何のために雄英に来た?
(個性を、コントロールする為)
そうだ。お友達ごっこを続けてぬるま湯に浸り続ける気か?
(…違う)
個性も制御できず、いつまでも自分に怯えている自分のままじゃ、いつか甘えに甘えたツケが回って制御できなかった自分がお友達を殺してしまうかも。
『あの二人のように。』
だから。あんまり関わらない方がいいんじゃない?
(違う)
自分への対処法なんて、中学時代までの周囲の方がずっと正しかった。
そう、自分は危険物。腫物。
(…独りじゃなきゃ、いけないの)
皆みたいに憧れでヒーローを目指すんじゃない。
そんな眩しい所には行けない。
ここは陽だまりのようだ。
だから。
「……おい」
上から声をかけられる。バスは停止していた。
隣にいたはずの轟が通路側に立ってこちらを見下ろしている。
「着いたぞ。行かねえのか」
その凍えるように冷たい目が、張り巡らされた薄い壁こそが、自分の本来いるべき居場所を教えてくれる。
その眼差しはまるで日陰のようだった。
「………ええ、今行く」
(彼はきっと、今私と同じところにいる)
薄暗くて深い、光の届かない場所。
自分は今自分から浅い場所に出ていて、轟はずっと深い場所に蹲っている。
お互い、お互いの事はほとんど知らない。
知ろうとも思わない。だが、その目が何よりも雄弁に物語る。まるで兄妹のように。
陽だまりに依存してはいけない。
本来いるべき場所は、轟のいるような影。
未練なく出て行けるようにしないと。
(あとが、辛いもんね)
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