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次に目を覚ました時はまた保健室だった。
リカバリーガールにはいくつかのお小言を貰った。状況が状況なだけにあまり厳しくは言われなかった。
明日は臨時休校になるらしい。

腕は粉砕骨折だったが、リカバリーガールが治してくれたそうだ。
今ではすっかり完治したが、如何せん体がだるい。
リカバリーガールの個性は治癒だが、それは肉体の治癒力を活性化させる事で、つまり相当の体力を使うらしい。現在は全快したものの、結果ご覧の通りという訳だ。

クラスのLINEを見ると、皆零仔に安否を問うてくる通知が大量に入っていた。
目が覚めたという返信を送り、ひと段落する。
と思ったら、即座に別の通知が入って来た。
LINEではなくメールだ。これを送ってくるのは二人しかいない。

(おばあちゃんだ…)

雄英からの報告を受け取ったのだろう。
凄まじい長文で心配するような内容を送って来た。腕を壊された事も聞いたんだろう。
雄英だから、怪我だって珍しくないと入学前に説得した。祖母は反対こそしなかったものの、いつだって心配そうな顔をしていた。

(結局私、おじいちゃんとおばあちゃんに心配かけてばっかりだなあ…)

心配かけまいと強くなるために雄英に入ったのに。これじゃあ逆だ。
強くならなくちゃ、いけないのに。
あそこでオールマイトが来て安心してしまった。『もう大丈夫だ』と安堵してしまった自分がいた。
こんな様で、どうやって祖母と祖父を守ろうというのか。

「なっさけない……名ばかりの推薦じゃない………」

自分だけ成長が出来ていない。
守られてばかりじゃいられないのに。

個性の成長も見受けられない。
未だに制御が不安定な個性だ、今のところ大きな失敗はないけれど、いつかもしかしたら、という恐怖が抜けない。

ちゃんと足をつけていたことがない。
いつだって宙ぶらりんで、その場凌ぎで何とかしてきた。何とかなってきてしまっていた。
そのツケが、今ここで来ている。
地に足つけて物事を解決しなきゃいけないというのに。

(わたし、どうしたらいいんだろう)

答えは出なかった。



***


家に帰ると、今日は休みだったのか、玄関まで姉が駆けつけて来た。

「焦凍!学校から連絡来たよ、大丈夫だった!?」
「何ともねえ。俺んとこ来た敵は大したことなかった」
「よかった…今日の事があったから、明日は臨時休校だって」
「分かった」

昔から家の事は姉がやってくれていた。
姉は小学校の教師をしている。なんで教師になろうと思ったのか昔聞いた事があるが、姉は苦い顔をして何も言わなかった。

とりあえずシャワーを浴びようと着替えを持って風呂場に行こうとした矢先、あっ!という姉の声に驚かされた。

「何」
「いや、そういえば今日スーパーで懐かしい人に会ってね〜。ちょっと話し込んじゃったの。焦凍はまだ小さかったから覚えて無いかな?」

小さい頃、と言っても轟の記憶の中では忌々しいものが殆どだった。
大方覚えてないだろうが、姉の話が続きそうなので相槌を打つ。

「昔この辺でお店やってたおばあさんなんだけど、久しぶりに会ったのよ〜娘さんが雄英に行ってるらしいの」
「娘?…ばあさんの娘って、もう大人だろ。教師って事か?」
「いや?生徒よ。あのおばあさん子供いなかったから、養子として引き取ったって聞いたわ。その子供、今年ヒーロー科に焦凍と同じ推薦で入ったって」
「………え?」
「その子、焦凍とも仲良かったんだけど…『事件』あってからすぐに引っ越しちゃったしね。まあ仕方がない事なんだけど」

推薦?
そんなの、片手で数えられる人数しかいない。
B組には二人いると誰かが話していた。
A組には、轟を含め3人。八百万と、あと。

「…そいつの、名前、って」
「名前?もう、零仔ちゃんよ。おばあさんの苗字が栂野だから、栂野零仔ちゃん。さっき確認したけど連絡網に名前あったんだから、同じクラスでしょ?」


『目の前の敵も認識できない奴に負けるつもりなんて、ないわ』


あの凍えるような、冷たい目を思い出す。
母を思い出すような悲しい色。薄い壁を張り巡らせて、何者も拒んでいる。

彼女もあの様子では覚えていないのだろう。
だが。
彼女が轟を見る目は、悲しそうだった。

「同じクラスなら聞いてみたらどう?覚えてるー?って」
「……ああ、機会があったらな」
「それ聞かないやつじゃない」

今は聞けるような状態じゃない。

でもいつか、余裕が出来たら聞いてみるかと。心の片隅に留めておくことにした。

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