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「栂野さんッッッ!!!!!!」

緑谷が脳無に飛び掛かるも、その手もあっさり止められる。
両手の塞がった脳無に好機と、脳無の体温を一気に下げていく。凍り付いていく脳無、しかしやはりびくともしない。

「ぅ、ぁ、ぁあぁああああああ……ッッ!!!!!!」

めきめき、とまるで小枝を握るかのように脳無は零仔の腕を破壊していく。
まるで腕の中で爆竹が破裂していくかのような衝撃に目の奥がちかちかして、許容範囲を容易く超える痛みに頭が真っ白になる。
でも。

死柄木は、蛙吹に再び触れようとしている。
手のマスクから覗く顔は笑っていた。
それにあまりに腹が立って。こちらもまだ破壊されていない手を、伸ばした。

「どこ、みてんのよ」
「…は、」
「その子に、ふれないでっつってんでしょ」

腕を破壊されても、尚その怒りは止まない。
死柄木はゾクリとした。
折れた腕は目も当てられない、現在進行形で壊されていく腕に目もくれず、その今にも折れそうなもう片方の腕を此方に伸ばす、その少女に。
その眼の深い青の奥に滲む感情の波旬に、興奮さえ覚えた。

「ああ……いいな、おまえ」
「…?」
「その救われない奴の目。俺にそっくりだ」

蛙吹に向けられていた手を、今度はこちらへと向けてくる。
だが、その手が触れても何も起こらない。相澤は個性を使っていない。
薬指が一本触れていなかった。指が全部触れたら発動する個性なのだろうかと、こんな状況でも分析してしまう自分がいた。

「きれいだなぁ、おまえ」
「…何、言って、」
「ヒーロー共にゃ、勿体ない」

この男の言葉に、腕の痛みさえ忘れそうになる。
蛙吹がこちらに舌を伸ばそうとしてくる。
ああ、駄目。また標的にされてしまう。お願い、今は駄目。


その時、入口の方から爆発音がした。
生徒たちのどよめく声がする。


「もう大丈夫」


ああ、あの声は。


「私が 来た」


「オールマイトーーー!!!!!!!!!」


オールマイトが、来てくれた。
この事実だけで酷く安心する。
死柄木はすぐさま入り口を見てその姿を確認して、にたりと笑った。

「あー……コンティニューだ」


***


「嫌な予感がしてね…校長のお話を振り切りやって来たよ。来る途中で飯田少年とすれ違って…何が起きているかあらまし聞いた」

オールマイトは倒れている13号と相澤、怯えた目の子供達を見渡し、ギリ、と口を引き締める。
笑えない。全く持って笑えない話だ。

「もう大丈夫。…私が、来た!!!」
「はは、待ったよヒーロー。社会の、ごみめ」
「ぅぐ、…」

脳無の腕の力がまた強まる。正直もう痛みどころじゃなくて、肩から先の感覚がない。
意識が飛びそうだ。
その直後身体が浮いた気がして、お腹から伝わる緩い衝撃と共に、目を開けた瞬間視界が変わっていた。
目の前に、オールマイトがいる。

「栂野少女…!!なんてことだ…!!」

左肩先から最早原形をとどめていなかった。正に滅茶苦茶だ。
ぼたぼたと血が滴り続け、息も安定していない。失血の危険性があった。

「……オール、マイ、ト………」
「もう大丈夫だ栂野少女!よく頑張った…!」
「……あ、あ………」

焦点が安定していない。辛うじてオールマイトを認識できているといった状態だった。

「……おねがい………」
「あまり喋るな少女…!」

オールマイトがこれ以上の無理をやめろと言っている。
だが。これだけは。

「みんなを、たすけて、あげて……おねがい………」

絞り出したような、それでも強く腹に力のこもった、激励に近い声色だった。
腕を滅茶苦茶にされ、敵に対して恐怖心もあるだろうに。それでも尚、焦点のあっていないおぼろげな目で今尚敵を睨みつけている。

(なんという精神力だ少女…!ここで口から出るのが皆の心配とは…)

あの体勢から見るに、蛙吹を庇ったのだろう。
そして腕を壊され続けても尚、死柄木に殴りかかろうとした。
恐ろしい精神力と行動力。

「皆入口へ。相澤君を頼んだ、意識がない!早く!!栂野少女も重体だ!!」
「オールマイト、だめです!!あの脳ミソ敵!!ワン…っ僕の腕が折れないくらいの力だけど、ビクともしなかった!!アイツ…」

ワン…何…?
いま緑谷は何を言いかけたんだろう。

(意識が、……)

オールマイトの登場で、安堵してしまった。
ギリギリで張りつめていた糸が切れてしまった。

「零仔ちゃん…!」
「梅雨、ちゃ………ごめ…………やす、む、ね……………」


ああ、なんか最近、気を失ってばかりだな。
強くならないと、いけないのに。
大人の強さに甘えてちゃいけないのに、すぐにでも強くなって個性を制御できるようにならないといけないのに。

悔しいなあ。


『きれいだなぁ、おまえ』


死柄木のあの恍惚とした声が、呪いのように頭の中に残っている。
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