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『予選通過は上位42名!!残念ながら落ちちゃった人も安心なさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!そして今からいよいよ本選よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!!!』
取材陣なぞ心底どうでもいい。
息も整って体力も多少は戻った。肉弾戦には回復力も必要だ。
さて、続いてミッドナイトの背後にある液晶に映った文字は『騎馬戦』だ。
参加者は2〜4人のチームを自由に組んで騎馬を作る。
先程の結果に従い各自にP(ポイント)が振り当てられ、つまり組み合わせによって騎馬のPが変わってくるという事だ。
与えられるポイントは下の順位から5ずつ。4位の零仔はかなりの高得点になるだろう。
『いい!?ここからが重要よ!1位に与えられるPは…1000万!!!!!!』
全員が緑谷に注目する。
憐れ緑谷。頑張ってくれよな。
さて、騎馬を組むのに与えられた時間は15分。
誰と組むかと考えていた矢先だ。
「ねえ、4位の子って君だよね」
「…?ええ、そうだけ―――――ー」
身体が動かない。
思考が、少し靄がかっている。
目の前にいるのは……誰だ?ヒーロー科の人にこんな人居なかった。
ならば、普通科か?
意識はそこで途切れた。
***
喧騒が聞こえる。
騒がしい。ああ、今。
背中に誰かを乗せている?ああそうか、騎馬戦始まって……
(…は?)
「ちょっと待て!!!!!!!!!」
「…!!」
一気に思考が鮮明になった。
そうしたら体も一気に自由になった。
いつの間にか背中に乗っているであろう彼を見遣る。
「……良くもやってくれたわね」
「………驚いた。自力でといたのかよ、俺の個性。よっぽど頑固なんだな」
周りはいつの間にか大戦場。
騎馬を襲い襲われの大合唱。全く狂っている。
だが。彼の個性で恐らく操られていたんだろうが、今はこうして洗脳は解けた。関係ない。
「話しかけて答えたら発動する洗脳ってところね。貴方名前は?」
「…心操人使」
「わかった。じゃあ今から協力しましょう。私を操った事は上位に上がったらチャラにしたげるわ」
「やりにく…」
「その個性なら上手くやれるはずよ。やるわよ」
「はいはい」
こっから巻き返す。
もうある程度Pは取れているが関係ない。
「あそこの鉄哲チーム狙うぞ。行け馬」
「腹立つわねアンタ!!!!」
***
『TIME UP!!!!!!!!!早速上位4チーム見てみよか!!!!!!』
疲れた。
なんて人使いの荒い奴なんだ。
『一位轟チーム!!二位爆豪チーム!!三位鉄て…アレェ!?オイ!!!心操チーム!!?そして四位!!!緑谷チーム!!!!』
「ご苦労様」
「ほんっっっっとによ」
「アレッ!?騎馬戦…えっ!?終わって…」
「尾白君………」
操られてたこと、やっぱ気づいてないのね。
「まあいいわ。とりあえずお疲れ様心操君。いい個性ね」
「へえ?いい個性ね。よく敵向きって言われるけど。使い方に寄っちゃ犯罪にも使える」
「そうなの。でも貴方はどうなの」
「は?」
「犯罪に使いたいの?その個性」
「んなわけねえだろ」
「じゃあヒーロー向きでしょ」
あまりにも、零仔が真剣な声でいうものだから。心操は目を見開いた。
ふざけたような言い方の中に確かにあった、どこか小さなやるせなさ。知っている。だってずっと味わってきたから。
個性でとやかく言われるのは、腹が立つ。彼だって零仔と同じだった。
「自分の能力を自分で貶めてんじゃないわよ。誇りなさいよ。敵を操るヒーローなんてダークでカッコいいだろってね」
「…なんだそれ」
「何よ、カッコいいでしょ。私ならそんなヒーローいたらファンになってたけど」
「ニッチだな」
「そう?それに、自分で敵みたいって認めるのはいけない事じゃない。それでもヒーローになりたかったから雄英に入ったんでしょう。じゃあ諦めずに突っ走りなさいよ」
「…ライバルを叱咤してどうすんだよ」
「…それもそうか。でも、これでもヒーロー科だから悩んでたら元気づけんのもヒーローでしょ」
心操は、なんとも言えない顔をしていた。
でも、そこに憤りもなければ悩みもない。諦めもない。
どんなに嗤われたって諦めの目を向けられたって、ただ自分自身だけでも諦めずに前を向き続ける。
そうだ。
「…うん。そういう目した人、私好きよ」
「……告白かよ」
「事実だし。じゃあもう行くわ、三位とってくれてありがと。私を操ったことは約束通りチャラにしてあげるわ、『ヒーロー』」
さて、昼食休憩だ。
早く行かなければ時間がなくなってしまう。
…同じ普通科の奴から聞いていた。
彼女は中学時代からずっとお高くとまってて、『氷の女王』だなんて呼ばれながら、まるで学校を自分の城のようなものだとして君臨していたと。
見ただろ、あの誰にも興味のなさそうな目。中にある蔑みの色を。
そんな風に散々言われてたから、気になって。試しに声をかけて、操った。
だけど、まさか洗脳が解かれるなんて思ってもみなくて。
蓋を開ければ、ただあまりに正直に生きている少女だった。
確かに最初は興味なさげだが、その目線はくるくると動き回って落ち着きがない。
そして、真っ直ぐに目を見て話してくる。目の中には嘘と偽りもない。
あまりに真っ直ぐに自分を突き通すものだから、誰の色も見えなくて、孤独なくらいに悲しい色をして。
去っていった零仔の背中を見て、ボソリと。
「………そりゃお前だろ、『ヒーロー』」
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