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二回戦、飯田と零仔の戦いだ。
修復された会場に入る。まだ少し、空気は冷えている。
彼らが戦い合った名残だ。
「…凄まじい試合だったな、轟君と、緑谷君は」
「…そう、だね」
きっと忘れられない。
轟を救った、あのヒーローの舞台を。
「だからこそ。良い戦いにしよう」
「……ええ。お互いベストを」
「ああ!」
『フゥーさっきの戦いの後に見ると胃の休まる組み合わせか!?サクサクいくぜ、飯田天哉対栂野零仔!』
その瞬間、肌を舐める空気の冷たささえ忘れる。
相手の呼吸を読む。そしてこちらも、息を吸う。
『STAAAAAAAAAART!!!!!!!!!!!!』
互いに長期戦は出来ない。
そして長期戦にもつれ込めば何もできなくなるのは飯田。故に仕掛けてきたのも飯田だった。
こちらは彼を拘束する術を持たない。
彼の戦術はその足の速さを活かして一瞬で場外へと連れ出す事だろう。捕まれば詰みだ。
故に彼がすることは。
凄まじい威力と勢いの蹴りが繰り出される。
あの勢い、恐らくは。
「レシプロバースト…!!」
飯田の脚の排気口からのジェット噴射をを最大出力で噴出するレシプロバースト。
ノックアウトを決めに来ている。
寸前で何とか躱す。
だが。
「まだだッ!!!」
「がっ…!」
恐ろしく精密な方向転換で間髪入れずの二撃目を避けきれず、背に喰らう。
恐ろしく重い一撃に、身体の中が振動すらした。
『イイのが入ったなノックアウトか!?容赦ねえな飯田!!』
「くっすまない栂野くん!女性なのに!!」
首根っこを掴まれ、そのまま場外へとまっしぐらだ。
だが。
「!」
急に飯田の脚の感覚がなくなった。
プスン、という音にすぐさま足を確認する。
ジェットが機能するのをやめた。
「なっ…!」
「っ、ごめんなさい。いい蹴りを喰らった時に、そこの温度上げて、オーバーヒートを起こさせてもらったの……そし、て!!」
勢いを失ったことで動揺した隙を振り解き、体勢を立て直す。
飯田が体勢を立て直す前に跳躍し身体をよく捻り、
「お返しするわ」
よくしなりのきいた空中回し蹴りが、飯田の頭部にクリーンヒットした。
『ウッワいい蹴り!!流石本選までほぼ素面で来れただけあるわシヴィー!!!』
「ぐっ……うご、か……!なんだ…!?」
「一時的にマヒする神経の所を攻撃したから、数分は貴方、動けないはずよ。…レシプロ警戒してたんだけど、やっぱり避けられない。出鱈目な速さね」
『飯田、行動不能ーーー!!!!!勝者栂野準決へと駒を進めたぜーー!!スゲーーー!!!』
初めて、本選で一撃を入れられた。
飯田は強かった。きっと入学したての頃なら、すぐさまノックアウトさせられて場外コースだっただろう。
あの準備期間しっかりと鍛えてきたからこそ、彼の攻撃に耐えられた。
「……、いっつ…………ほんと、良い蹴り……」
「………君こそ、最後の蹴りは、中々の健脚でなければできないものだ。見事だった…」
「…リカバリーガールに見てもらった方がいい。もしかしたらどこか痛めてるかもしれない」
「ああ、そうしよう……」
ダメージは双方半端なものではなかった。
零仔もこの体育祭内で初めてのダメージとはいえ、疲れがたまってきている事は確かだ。
(……次は、轟君、か)
幼い頃の、あの男の子。
零仔にはまだ朧気で思い出せない部分はいくつかある。
それをこじ開ける事は、過去を全てこじ開ける事になるからだ。それを身体が拒むほどには、過去の記憶は忌々しいものでしかなかった。
でも、轟は、乗り越えた。
この個性によって与えられた忌々しい過去。
完全に個性を制御するには、此の過去とも向かい合わなければならない。
USJの時、確かに轟と零仔は、『同じ場所』にいた。
光を最初から望まず、ずっと深い所で遠くを睨みつけているだけ。
でも、もう轟は、ここにはいない。
彼は光へと出て行って、この暗い場所から解放されたのだ。完全には解放されなくても、もう彼が向いているのは、薄暗い場所なんかじゃない。
零仔独りだ。
ずっとそうだったはずなのに、酷く、心のどこかが虚しかった。
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