2




リカバリーガールの下で治療を受けた。
微妙に、微妙に腰の骨にひびが入っていたらしい。レシプロこええ。
リカバリーガールの所にちゃんと行っておいて正解だった。

そして治療を受けている間に、常闇と爆豪の試合は終わったらしい。
だから、今からは。

(私と、轟君の試合か)

準決勝。
ここまで来た。
当然勝ちに来た。其れに変わりはないし変わるつもりもない。


深く息を吸う。
恐怖はなかった。幼い頃の彼を思い出したというのも、あるかもしれない。
あの時、お互いに怪我だらけで身を寄せ合って、お互いに守り合っていた子供が、今から本気で争い合う。
皮肉のようだとも思ったし、運命かもしれないとも思った。
会場への一歩がこんなに重いと感じた事もない。それでも、一歩一歩踏みしめるように歩く。
通路が終わって、会場に出た零仔を、大きすぎる歓声が押しつぶそうとする。


フィールドに上がる。
その先に、轟もいた。
彼の目は、あの目ではもう、なかった。
でもその目は揺れていた。迷っているのか、それはそうだ。ずっと己の糧とした父への憎しみを穿たれて、足がつかない状態になっているのはわかる。

それでも、あの時よりはずっといい目をしている。

『準決勝!もうなんか…色々チートだな!!轟焦凍!! 対 A組の女王ここまで来た!!俺こっち応援したい!!栂野零仔!!』

ここまで個性で派手に勝ち上がってきた者同士の対戦、そして互いに温度を左右する個性同士だ。
個性なら零仔は轟の上位互換。
だがこれで勝負が決まるほど、この個性は無敵じゃない。

『STAAAAAAAAAAAART!!!!!!』

開始早々仕掛けてきたのは轟、まずは様子見…ではない、本気の氷結を放ってくる。
だが拘束系はほぼ無意味である事を彼は知っている。何か必ず策があるはずだ。
こちらに迫る氷結を地点毎に温度を上げ、溶かすのではなく砕いた。
フィールドに大量の氷塊が注ぎ落ち、その中に異質な影が一つ。

「上!!」

予想通り、先程の氷結はこちらを拘束するのではなく、轟が上からの奇襲を成すための足場。
あれほど大規模だったのは轟が上へ駆け上がる間だけでも零仔の意識を氷塊へ向けさせるためのデコイ。
腕をクロスさせ、氷結の追加効果付きの重いかかと落としを受け止める。
腕がビリビリと痺れるほどの重さだ。落下してきた分の重みも入っているからだろう。
そして、受け止めた側からビシビシと腕が凍りついていく。
なるほど氷漬けとは、こんなにも痛いのか。
だが。

「!」

轟が察知して飛び退く。
零仔の腕の氷が一気に蒸発した。
あまり使いたくはなかったが、コスチュームがない今、手はこれしかない。

「……、あの鎧がなくても温度を上げれんのかよ、」
「ええ、だから……油断してたら、火傷じゃ済まない」

手足の周りの氷が気化していく。
陽炎が立ち上るほどの高温を腕足に纏い、そしてそれとは反対に、この場の気温を下げていく。白い息さえも凍りつき、息を吸えば喉が凍るほどに。

『さっむ!!!!!なんだコリャ!!!冬かよ!!』
「さ、さみぃー!!」
「凍死しちまうだろうが!!」

そんな軽いブーイングも、耳には入ってこない。
氷点下近くまで気温を下げた。
轟の氷結の許容限界を早めるためだ。
彼は炎を使用しようとはしない。だがそこにあるのはあの時のような意地と憎しみではなく、迷いだった。
氷結攻撃の助けになってしまうほどの気温だが、それが諸刃の剣である事など轟にはわかるだろう。

「…、お前」
「迷ってるんでしょう、炎」
「…!」

氷では通用しない。
炎はそれそのものが破壊力を持つエネルギーの塊だ。温度の操作とて、容易ではない。
だが、それ以上に彼が背負っていた父との確執が強いものだというのは、わかる。

「…最初から気づいてたんだな。俺がずっと、親父に囚われてるって」
「……うん。あの目ね、私、見てて辛かった」

この会話は、あまりに小さく、消えそうな声だ。
観客も、クラスメイトも、誰にも聞こえない。

攻撃に転じる。灼熱の拳を叩き込んだ。
熱に氷は通じない、その灼熱を同じく熱で相殺される。炎は使わないけど、熱は使うようになった。
拳を交えながら、語らう。

「今は、迷ってるんだね」
「……どうすればいいのか、何をすればいいのか、わからない。少し考えてる」
「そう。でも今の目の方が、ずっといいよ」

熱の許容限界だ、双方距離をとった。
凍えるような気温は轟から熱を奪っていく。白い息が震えていた。

.