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色々な事があった体育祭と色々な事が起こった休日2日を終え、学校の日を迎えた。
今日は雨。いつものように早起きして、余裕をもって登校した。
雨の日は好きじゃない。
零仔の髪は猫っ毛で、雨の日や湿気が多い日は膨らんでしまう。
この日も例外なく髪がふわっふわになってしまっていた。
「はぁ……」
「おはよう」
突如背後から気配なく声をかけられ、心臓が悲鳴を上げた。
振り返ると案の定、質素な黒い傘の下の紅白半分に分かれた髪が特徴的な彼、轟がいた。
「…おはよう。びっくりした」
「悪ぃ。なんかいつもより髪が広がってねぇか?零仔」
「あーーーーーーーーーー」
突如叫び出す零仔に「うお、」と微妙に薄い反応の驚きを見せる。
零仔は黙って人差し指で何度か下を指した。轟はしゃがめのジェスチャーかと理解した。
小声で会話するには、普通の立ち方だと声が届かない程度には二人は身長差がある。
「お願いだから学校とか皆のいる場所では名字で呼んで。急にお互い名前呼びになったらみんな驚くでしょ」
「そんなもんか」
「そんなもん。それに、なんか私達仲が良くないって事になってたし、猶更」
葉隠の話を思い出す。
確かにあの時はお互いピリピリしていた。
お互いに地雷を踏み抜いていたようなものだし、いい印象なんて持ってなかっただろう。
こうして解決したとしても、流石にいきなり名前呼びにランクアップはいったい何があった、と聞かれかねない。
そうなると説明が面倒だ。
轟は説明すると納得したようで、「わかった」と頷いた。
「…なんか、思い出すな」
「何が」
「ガキの頃、たまに他の奴らには内緒なってやつしてたろ、俺達。それ思い出す」
「ああ、やってたやってた」
二人だけの内緒の事。
何か恥ずかしい失敗をしてしまった時とか、いやな事があった時、こうして二人だけで共有していた。
「今回も『二人だけの秘密』ってする?」
「ばあさんとじいさん知ってるだろ」
「あ、それもそうか…じゃあ『四人の秘密』?秘密感ないね」
「ねえな」
それでも、二人でこうして話していると、幼い頃の無邪気な気持ちが湧き上がってくるものだから不思議だ。
共有した時のドキドキや、それを秘めようと思い至った時の悪戯心のような其れ。
あの時のように、世界の狭さはもう感じない。だから一つの秘め事で自分達だけの世界になるとは思わない。これはただのお遊戯のようなものだ。
だが、それでも、あの頃がかけがえのないものだったから、それを忘れてしまった反動で、取り戻そうとしているのかもしれない。
教室に入った時にはまだ早い時間故に誰もいなかったが、すぐに登校してきた面々で溢れた。
体育祭のすぐ後だからか、各々登校時沢山声をかけられてきたらしい。
零仔は人通りの少ない裏道をいつも通ってくるから、声をかけられることはほとんどなかった。
大半が教室にそろい始めた頃、そういえばいつもはもう既にいる筈の飯田がいない事に気づく。
(そういえば、体育祭でも早退してたな。体調が悪いわけでもなさそうだったし…身内に、何かがあった?)
飯田の家はヒーロー一家だ。
その身内に何かがあったのだとして、体育祭に参加している飯田が帰らなければならない程の何か。
今朝のニュースを見ても、特に何も報道されてはいなかったが、余程の大事に限ってメディアは公表する事をしない。こういう時のメディアは頼りにできない。
だが嫌な予感がした。
こういう時の勘というのはよく当たるもので、これに助けられた記憶はそう多くはないがあって困った事もなかった。
(大事にならないといいけど…)
予鈴五分前にはさすがの飯田も登校した。
表情を観察しては見るが、いつもとそう変わらない。
では他はどうか、緑谷を観察する。いつもと変わらない飯田を他所に、緑谷の方はどこか心配そうに飯田を見ていた。
やはり何かあったのだろう、緑谷も飯田を気にしている。
今回も嫌な予感は的中するかもしれない。
しかめっ面をしている間にチャイムが鳴る。
散り散りになって各々と談笑していた生徒が相澤の登場するその一瞬で席に着く。
その様が毎度軍隊かなここはと思えてしまうほどに精度が高い。
そういえば、相澤の包帯が取れている。
「相澤先生包帯取れたのね、良かったわ」
「婆さんの処置が大袈裟なんだよ。んなことより今日の『ヒーロー情報学』、ちょっと特別だぞ」
蛙吹の言葉や他の生徒の心配とほぼ完全復帰への歓びを『そんなこと』で済ませるあたりが実にストイックな相澤らしい。
それよりも今日のヒーロー情報学は特別だという相澤の言葉に生徒達の表情が強張った。
なんせ彼の『特別』に碌な意味があった時が今まであったか?いや、ない。
小テストか?抜き打ち体術テストか?何が来る?
「『コードネーム』、ヒーロー名の考案だ」
「「「「「胸膨らむやつきたああああ!!!!!!!!」」」」
スタンディングオベーションまで起こった沸き立つ教室内は相澤の威圧で一瞬で静まり返る。軍隊かな。
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