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「……『アブソリュート』」
考案した零仔のヒーロー名。
ふむ、とミッドナイトの査定が入る。
「カッコイイじゃない!『絶対的な』『完全な』って意味の単語ね!丁度絶対零度…アブソリュート・ゼロなんてものもあるから、温度を操作する貴方の個性にぴったりのヒーローネームじゃない?」
「ありがとうございます」
何とか査定を潜り抜けた。
皆からも「カッコいいな『アブソリュート』!」「イケメンな名前…!」という好評を頂いた。
とりあえずホッと一安心。
試練は越えた。あとはなるようになれだ。
***
さて、指名先の提出まで2日しかない。
1000件以上もある指名先の中から第一志望から第三志望までリストアップしなければいけないのは中々に骨の折れる作業だ。
緑谷はいつものオタクモードに入り、最早芸かよとクラスから総ツッコミを喰らっている。
あのモードに入った緑谷はちょっと怖い。
それを尻目に相澤から受け取った個別の指名リストを眺める。錚々たる顔ぶれの事務所ばかりで軽く引いた。
ベストジーニスト、ギャングオルカ、バックドラフト、ウワバミ……有名どころばかりだ。早速ハードルが試されているというのか。
その中に、一際目を引く事務所の名前が、一つ。
(……エンデヴァーからの指名が来てる…?)
驚いた。
エンデヴァー本人が指名しているのか、事務所に所属する相棒(サイドキック)達からの依頼なのかは不明だが、それでも事務所からの指名が来ているのには変わりない。
零仔とエンデヴァーには実際の面識は殆どない。幼い頃公園で遊んでいた時に轟が彼の手によって無理やり帰らされた時に、あの恐ろしい眼にガンつけられた時くらいしか、面識の記憶はない。
だがこれは、彼らのプロとしての使命だ。
(…焦凍くんの父親としてじゃなくて…No.2ヒーローとしての実力、……気にならないわけじゃない)
だが何気にちょっと気になっているのはギャングオルカだ。しかしこれは単純に好みという問題なので動機としてはあまりに不純だろう。
「零仔ちゃん、どこに行こうか決めた?」
「梅雨ちゃんは?」
「私はまだ決まってないけど…水難に長けた所がいいわね。で、零仔ちゃんは?」
「あっ、そうじゃん栂野すごい指名来てたよね!どこにすんの?」
「ウチも気になるな」
めっちゃ集まって来た。
ここでエンデヴァーの所に行こうか悩んでいるというと、まだ近くに轟がいる可能性もあるので中々言うに言えない。
「………えっと、まだ決まってはないんだけど気になってるのはあって…ギャ、ギャングオルカ…」
「え゛っ!?ギャングオルカ!?指名来てんの!?」
「確か敵っぽい見た目のヒーローランキング第三位…」
そう、ギャングオルカは名前の通り、シャチの個性を持つヒーローだ。
スーツをかっちり纏っているがかなり大柄で、顔がシャチなのが特徴。かなり顔が怖いので、スーツを着ている分には完全にヤのつくそれだ。
だが。
「好きで…ギャングオルカ…か、かわいいから……」
「………………今栂野から耳を疑う言葉が聞こえた気がする」
「ギャングオルカが可愛いって正気…?」
「可愛いじゃない…シャチっぽいところが…ツルッとしてて丸っぽくて……目もクリッとしてて…」
「ギョロの間違いでは?」
あんまりすぎる。
零仔はどうもまるっとしているものに惹かれる性質があるようで、13号もそれに合致する。
後はファットガムとか。丸いものは可愛い。
だが一方でA組による零仔の美的センスへの疑念が生まれてしまった。解せん。
しかし小学校の頃から好きなヒーローなのだ。ギャングオルカは、いいぞ。
零仔のまさかの趣味にヒーロー話に敏感な緑谷が反応した。来たかヒーローオタク。
「栂野さんギャングオルカが好きなの?」
「う、うん。小学校の頃から一目見た時に好きになって…そこからは割と、チェックしてる」
「個性すごいよね!!シャチが出すクリック音で敵を麻痺させるのが必殺技らしいんだけどシャチっぽく連携を取りやすいのが旨みだよね集団戦でのアドバンテージを個性でとれるのはすごい事だしいつも彼が率いている部下なんだけどその人たちが」
「デクくん、栂野さん引いてる引いてる」
「あっゴメン」
「いや……うん…………間近で見ると迫力が違うね………」
芸と言われるのが分かる気がする。
最早鬼気迫る勢いなのだ。
「ご、ゴメン…つい癖で…ついヒーローの事になるとこうなっちゃうっていうか、周り見えなくなっちゃって」
「でも、…それくらい何かに夢中になれるって、すごい事だと思うわ」
「そう、かな…」
「うん。緑谷くんはそれほどヒーローが好きで、自分もヒーロー目指してここまで努力して来たんでしょう?十分才能だと思う」
「…あ、りがとう」
零仔は普段そこまで積極的に誰かと関わろうとはしない。
だからこそ冷たい印象を与えがちだが、思った事をはっきり言う性格だと体育祭前の普通科の生徒とのやり取りで皆理解したところだ。
だから緑谷への言葉も本心からなのだろう。
皆が理解している以上に、本心からの言葉だと思わせる何かが零仔にはあるのだ。
普段は謙遜するばかりの緑谷だが、零仔からの言葉は素直に受け取らざるを得なかった。
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