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職場体験当日。
駅にまず集合させられ、各々コスチュームを持たされる。
零仔のコスチュームは一度USJの時、コスチュームごと腕を破壊されてからずっと修理に出されていたのが返って来たところだ。

(飯田くん…)

其れよりも心配だったのは飯田の事だ。
あれから暫くして報道されたのは、保須で飯田の兄、インゲニウムがヒーロー殺し『ステイン』に襲撃された事だった。
過去17名のヒーローを殺害し、23名ものヒーローを再起不能に陥れた。
ヒーロー殺しによって殺されたという報道はされていない。つまりインゲニウムは生きているのだろうが、もうヒーロー活動は…

職場体験先へ向かおうとする飯田を緑谷と麗日が呼び止めていた。
―――どうしようもなくなったら言ってね。友達だろう、と、緑谷は言っていた。
「ああ、」と返した飯田の表情は、緑谷の声など届いてはいなかった。そして飯田の目は、零仔の嫌いな、

(はるか先を憎むような、目)

だが零仔にはどうする事も出来ない。
何もしてやれない。
憧れを奪われた気持ちは零仔にはわからない、彼の心境を察してやる事は出来ても理解してやることはできない。
願わくばどうか。彼が復讐に染まってしまわない事を祈った。



「………で、何でお前がこっち側なんだ、零仔」
「それはこっちの台詞よ焦凍くん」

何故同じ方面の電車のホームにいるのか。
導き出される答えは一つだが、あまりに考えにくい事なので、あえて聞く事にする。

「えっと…焦凍くん、もしかして行く職場って…」
「………親父んとこだ」
「………………ウッソでしょ…何があったの………」

轟の表情はそれはそれは嫌そうなものだった。顔にありありと書かれている。
だが、あの彼がわざわざそこを選んだのだ。
やはり吹っ切れたのだろう。

「…クズ親父だしクソ野郎だけど、腐ってもNo.2なんだ。そう言われて認められるだけの何かがある。…憎いのは変わらねえ、でもだからってはね退けんのは、前の俺と同じだ」
「……お母さんと話せたのもきっかけになった?」
「ああ。…なりたい自分になっていいって、言って貰えたから。…アイツから盗めるモンは盗もうって思った」

そういう彼はまだ嫌そうだが、表情そのものは晴れやかだった。
憎しみは拭い取れてはいないけど、憎しみというよりも全面的に『嫌い』というのが押し出されている。それはいい傾向なのかもしれない。
復讐に突き動かされるよりも反抗心剥き出しの方がずっといい。

「そういうお前はどこを選んだんだ」
「残念ながらあなたと同じ場所よ」
「…は?親父の所か!?」
「うん、指名来てたから」

そう、零仔もエンデヴァー事務所を選んだのだ。
轟の表情が面白い事になっている。
表情がよく出るようになったなあと他人事のように思った。

「ベストジーニストとかギャングオルカからも指名来てただろ。そこを選ばなかったにしてもなんでよりにもよって親父んとこを選んだんだ!?親父の性格、お前もよく知ってんだろ」
「知ってるわ。でも、私がそういう私情ありきで選んだと思う?」
「…っ」
「貴方の言うように『クソ親父』だったとしても、『ヒーロー』エンデヴァーはNo.2。プロとしての格はトップ、あとは貴方と同じ理由」
「……顔強張ってんぞ、怖えんだろ」
「当たり前じゃない…!!あんな後の事でそう早く吹っ切れるわけないでしょ、せっかくしゃんとしようとしてたのに指摘しないで」

幼い頃から轟から聞かされていた、父としてのエンデヴァーの恐ろしさ。
その事が零仔に染みついている。実際にその恐ろしさを知らないけれど、幼い彼が怯えて泣いていたから、本当に怖い人なんだろう。
事実小さい頃に一度目が合っただけで、その眼光に身が竦んでしまったのは今でも覚えている。
それでも、零仔は『ヒーロー』としてのエンデヴァーを知りたかった。そしてその何かを吸収できるならこれ以上のチャンスはない。
だから敢えてエンデヴァー事務所を選んだのだ。

「…貴方の隣で、エンデヴァーに会うんだから。ビビッてちゃいけないでしょう」
「零仔…」
「もう身を寄せ合って恐怖を共有し合うのは終わり。一緒に『PLUS ULTRA』よ、焦凍くん」
「…ああ、そうだな」

そうお互いの意思を確かめ合ったところで、電車が来た。
不安もあるが、得られるものは必ずある筈だ。それを確信して、電車に乗り込んだ。


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