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さて、職場体験も終わり各々が学校に戻って来た。
様々な事を得られたのは皆同じなようで、武術に目覚めた者も居れば敵退治に関わった者、密猟者との交戦、只管髪型を弄られた結果8:2分けが染みついてしまった者、運悪く女の本性を見てしまった者など色々いた。

零仔は登校後すぐにリカバリーガールの下へ行き軽い治癒を施されてから教室へ向かったので、教室に着いた時には既にHRが始まる直前だった。
相澤はまだ来ていないようだ。

「栂野ー!大変だったねヒーロー殺し!怪我大丈夫なの!?」
「え、ええ…さっきリカバリーガールのところで軽く治癒掛けてもらったから、今は何とか…でも、今日のヒーロー基礎学は見学しなさいって言われたの」
「その方がいいわよ、零仔ちゃん。完治してないんでしょ」
「それにしても、本当に無事でよかったな…!」

芦戸、蛙吹、切島と次々と声をかけてくる。
それに何とか応答をしているとチャイムが鳴る。
それと同時に相澤が到着したので皆自然と散っていった。

何時まで経っても人付き合いには慣れなかった。未だにクラスには馴染めていない。
明確に浮いているという感覚ではないが、常闇のように自分から群れようとしない気質というよりは、輪に入れない感じだと思う。
誰かに進んで話しかけた事はほとんどない。皆何とか話しかけてくれるが、こちらも上手い返しが思い浮かばず会話は途切れてしまう。
申し訳なさが際立って、最近はあまり皆の目につかないところに一人でいるようになった。

(わたし、ここにいて、いいのかな)

実力はあるのかもしれない。
でも、気持ちはヒーローじゃないのに。
必死に憧れを追う彼らに交ざって高みを狙う資格が果たしてあるのだろうか。


(あの頃から、何も変わってないなあ)




HRが終わり、各々コスチュームに着替えてヒーロー基礎学が始まった。

「ハイ私が来た。ってな感じでやっていくけどもね、ハイ。ヒーロー基礎学ね!久しぶりだ少年少女!元気か!?」
「ヌルッと入ったな」
「久々なのにな」
「パターンが尽きたのかしら」

この散々な言われようである。
「尽きてないぞ、無尽蔵だっつーの」と弁明しているがこの限られた場で無尽蔵なネタを披露するのは難しいんだろうか。そう言う事にしておいてあげよう。

職場体験直後という事で今回は遊びを含めた救助訓練レースらしい。
複雑に入り組んだ迷路のような細道が続く密集工業地帯「運動場γ」で、5人4組に分かれて1組ずつ訓練を行う。
オールマイトが救難信号を出したら街外から一斉にスタート。「建物の被害は最小限にな!」とオールマイトが爆豪を指さした。室内戦闘でのことか。

零仔は一応コスチュームには着替えたものの見学者だったのだが、オールマイトに呼ばれて救難者をやってほしいというので、オールマイトと一緒に行くことにした。
移動している間、オールマイトに話しかけられる。

「ヒーロー殺しの件は大変だっただろう。プロ達も大勢やられた中でよく頑張った、栂野少女」
「……今でも、良く生きてるなあって思います。…とても、強かった。まるで歯が立たなかった」

昨日の事のように思い出せる、あの事件。
ヒーロー殺しの執念と怒りを間近で見た。

「そうだ、少女。君はなぜ雄英に入ろうと思ったんだ?」
「えっ」

突拍子もない問いに思わず間抜けな声を出してしまった。
そしてそれはあまり突かれたくない場所だったから、表情を一瞬曇らせる。
それを見たオールマイトは静かに言った。

「君は体育祭からずっと浮かない顔をしているからね。今日は特に顕著だ。そういう時は「己の原点」を思い返すと良いから、聞いてみたのだが…」
「……私の、原点」

皆みたいに、立派な理由はない。
オールマイトのように、平和の象徴として役立ちたいという思いも。
それでも、問われたのなら答えるべきなのだろう。今の彼は、『教師』だから。

「…個性を、完全にコントロールする為です」
「個性を?…確か君の個性は温度の操作だったね。災害救助などでも非常に求められる強力な個性だ」
「…そう、言われます。でも、これは…人を簡単に、殺せる力です」

人の体温なんて5度程度上下すれば簡単に死ぬ。60度のお湯でも火傷をする。
0度まで下げれば凍死する。
人は温度の恩恵からは逃げられず、また脅威に屈するものだ。

「体育祭の時個性を使う際に見せていた僅かな迷いはそこからだな?」
「…ヒーロー殺しにも、指摘されました。…皆、すごい目標を持ってて、憧れを持ってて…なのに、私は……ただ、自分に怯えてる」

(栂野少女…その個性で誰かを傷つけてしまった事があると見た。…それほどまでに強力な個性だ、相手は軽傷ではすむまい…トラウマになってしまったというワケか)

個性による危険性とは誰もが隣り合わせで生きている。
ただそれを身近で体感する事は意外にもそう多くはない。
零仔はそれでも、身をもって経験した。その個性が災害救助で役に立つと知るよりも前に、己の個性が人を容易く傷つけてしまうものだと。
知るのが早すぎた。
運と間が悪かったと言えばそこまでだが、してしまったことに変わりはない。それがずっと彼女を蝕んでいる。

「…オールマイトでも、怖かったことはありますか。自分の力が誰かを殺しちゃうんじゃないかって」
「…あるさ。常に思う。だが、向かい合い続けなければならない。自分の力に向かい合えるのは自分だけだ」
「自分だけ…」
「だからな、栂野少女。君の力は確かに強力で、あっさりと人の命を奪うかもしれない。だが、それ以上の人を救えるだけの優しい力だ」

オールマイトは零仔の肩をポンと叩いた。

「その葛藤を清算すれば、君は素晴らしいヒーローになるだろう。USJの時もヒーロー殺しの時も迷いなく敵へ立ち向かい友を庇えた君だ。その個性は多くの人を救うだろう」

オールマイトは笑顔で言う。
トップヒーローからの言葉だ、それは素直に嬉しく同時に心強くもあった。
だけど。

(違うの、オールマイト)

ヒーロー殺しの願ったようなヒーローにも、A組の皆が憧れ手を伸ばすようなヒーローにも、きっとなれない。

(私は、もう、)

ずきん、と頭の奥で鈍い痛みが響いた。

この個性が多くの人の命を救うよりも、先に。


(私はもう、二人も殺してしまったの)



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