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演習が終わり女子更衣室でコスチュームから制服に着替える。
零仔は胸から腹にかけて裂けるような大きな傷が残っている為、こうした演習でコスチュームを着なければならない日はタンクトップを着用している。
コスチュームを脱いでタンクトップと制服のスカートだけになっていると、後ろから八百万が覗き込んできた。

「っ!?び、びっくりした、どうしたの」
「あっ、その…栂野さんはとてもお肌が綺麗でいらっしゃるから、つい不躾に見てしまって…申し訳ございません」
「そうそう、栂野さんすごいお肌綺麗だし細いよねってこの前お話してたんだよ!」
「本当にシミ一つないのすごいよねぇ。なんか秘訣とかある?」
「ウチも後学の為に知りたい…!」

一体どんな話をしているんだ彼女らは。
女の子というのは綺麗でかわいくいる為に余念がない。
それはヒーローを志す彼女たちも同じだ。彼女はヒーローの卵である前に一人の女の子なのだ。

「特に何もしてないけど…」
「綺麗な人はみんなそう言うんだ!!」

本当に何もしていないのだが、そう言えば芦戸が悔し気にベンチを叩いた。

「零仔ちゃん、シャンプーとか何使ってる?」
「普段はマリットだけど…」
「マリットでそのツヤが生まれるというのか…?」
「どこのメーカーですの!?フランスですか!?いやイタリアかも…」
「百ちゃん、スーパーで売ってる普通のシャンプーコンディショナーよ」
「まあ…!」

八百万はお嬢様であるためか、庶民のものには疎いようだ。
スーパーでそのようなものが!とフンフンしている八百万は可愛い。
そもそもA組の女の子たちは皆可愛いのだ。気にしなくても十分レベルは高い。
スタイルだってみんな悪くない。そこまで考えた所で、思わず八百万をガン見した。

「栂野さん、どうなさいましたの?」
「…あっ、ご、ごめん…身体ガン見しちゃって…」
「いえ、お気になさらず。私の身体が何か?」

こんな恥ずかしい事はとても聞ける気がしない。
だが、先程散々質問攻めにされたのだ。
こっちも聞いていいだろうかという軽い勇気になった。

「……その…………どうやったらそんなに、胸がおっきくなるのかな、……って………」
「えっ…?」

八百万の反応に早くも死にたくなった。
何を聞いているんだ自分は。
女子全員の視線が突き刺さる。いっそのことこの視線が物理的攻撃力を持っていれば良かったのに。

「栂野さんは充分素晴らしいプロポーションをしていらっしゃると思うのですけれど…」
「いや、その…胸があんまり、自信なくて……やっぱり一人の女子としては、八百万さんのスタイルは羨ましいというか…」
「メッチャ分かるわ………」

耳郎が同意する。
八百万のスタイルはまさに高校生離れしたダイナマイトボディだ。
発育の暴力といってもいい。
一方零仔は幼い頃から身体を鍛えていたので無駄な脂肪は殆どついていない。スレンダーと言えば聞こえはいいが、要は筋肉量が多いのだ。
普通の女の子たちのような柔らかな身体ではなく、腹に力を入れればガッチガチになる。
あまり魅力的な身体とは言えないのだ。誰に見せるものでもないのだが。

「でも零仔ちゃんだって、スタイルはいいと思うわ。下着のサイズいくつなの?」
「………Cの、65」
「ほっそ………………」

麗日が絶句したような呟きが痛い。
太らないのは有り難い事なのだが、このアンダーの細さが胸を小さく見せる一因でもあるのでもう少し太くなりたくもある。
自分の胸を見て溜息をつく零仔に、八百万がピンと来たような表情で近づいた。

「自分の身体に合った下着を着ける事がバストアップの第一歩ですわ!栂野さん、今度よろしければ一緒に下着を買いに行きませんこと!?」
「あ、私も行きたい!丁度買い替えたかったんだよ〜」
「ウチも行っていい?参考にしたいし」
「私も行っていいかしら。可愛いデザインのものがあったら欲しいもの、ケロ」
「何それ楽しそう!私もショッピングついてく〜!」

八百万の提案に葉隠、耳郎、蛙吹、芦戸と乗っかっていく。
女子の勢いというのは凄まじいといつも思う。
それに軽く引きつつもあるのだが。

(そういえば女友達と買い物なんて、行ったことなかったな…)

今まで友達がいなかった零仔にとって、その誘いはあまりに眩しいものだった。
不安はあるし、自分でいいのかという気持ちもある。でもそれ以上に、どこか憧れにも似たその誘いをはね退ける事は出来ないように思えて。

「…行っても、いいの?」
「もちろんですとも!寧ろ一緒に行きたいですわ!」
「栂野の事もっと知れるチャンスだし。特待生ですごく強いって事は良く知ってるけど、逆にそれ以外の事、ウチらよく知らないからさ」
「梅雨ちゃんばっか仲良くなっていくのもなんかズルいし!私らももっと栂野と仲良くなりたい!」
「ケロッ、私ももっと零仔ちゃんと仲良くなりたいし、零仔ちゃんの事知りたいわ」

馴染めていなかった自分にこんなにも暖かくしてくれる。
この雄英は本当に、学び舎だ。ずっと寒い所にいた自分を、3年かけてただの学生に戻してくれる。
こんな自分に優しくしてくれるクラスメイトがいる。
それがこんなにも、

「………嬉、しい」

頬を染めて恥ずかしそうに、小さな声で呟く。
聞こえるか聞こえないか程の微小なそれはだが皆の耳にちゃんと入ったようで。

「何〜?栂野めっちゃ可愛いじゃん〜」
「かわええ〜めっちゃよしよししたくなる〜」
「クールな女子かと思えばとんでもねえ伏兵じゃんか〜絶対モテるぞこれ」
「あ、あんまり揶揄わないで」
「事実である!このこの〜」

芦戸や麗日に撫で繰り回されてそれに葉隠や八百万、耳郎まで乗っかって大変混沌としている中。
なんだか隣の男子更衣室が騒がしい気がした。

「峰田くんやめたまえ!!ノゾキは立派な犯罪行為だ!」
「オイラのリトルミネタはもう立派なバンザイ行為なんだよォォ!!」

アイツ何やってんだ?
耳郎が静かに頷いて壁へと歩いていく。
あそこに穴があった。あそこから覗く気か性欲の権化め。

「八百万のヤオヨロッパイ!!芦戸の腰つき!!葉隠の浮かぶ下着!!麗日のうららかボディに蛙吹の意外おっぱい!!そして栂野の黄金律美乳ゥゥウウウウあああああああ目から爆音がぁあああ!!!」

峰田に耳郎のイヤホンジャックが炸裂した。
普段なら同情しただろうがこの時ばかりは自業自得だ。いや普段から割と自業自得か。
ざまあ峰田。

「ありがと響香ちゃん」
「何て卑劣…!すぐに塞いでしまいましょう!!」
「ウチだけ何も言われてなかったな」

耳郎の哀愁漂う声に何と声をかけていいのか。
だが、こうして声を掛けようと思うほどには、彼女たちと打ち解けられた気がした。

まだ色々と課題や悩みは尽きない。
このクラスにいていいのかどうかさえも。
だが。

(みんなと友達になれた事くらいは……許されるかな)

ただこの暖かい場所に浸っていたくて、零仔はふふ、と嬉しそうに笑った。


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