12




「ほんっっとうに告られた事一度もないの?」
「はい……」
「ラブレターは?」
「ない……」
「ナンパは!?」
「覚えて無い…」
「駄目ですね警部」

葉隠が首を横に振ったような気がする。
マックに連行された零仔は芦戸、葉隠と向かい合うように座らされ、てりやきバーガーとチーズバーガーを差し出し取調べ感満載の雰囲気で尋問を始めた。
零仔の左右には耳郎と八百万(多分何もわかってない)が居座り、逃げられる状態ではない。
ある意味敵より彼女らのが怖い。
後なんだこのテンション。

「じゃあさ、A組の男子の中でカッコいいとか男らしいとか思う奴いないの!?」
「えっ………き、切島くん、とか…?」
「それ多分別の意味での「漢らしい」よ零仔ちゃん」

蛙吹に論破されてしまった。
くそ。

「爆豪とかは?」
「ちょっと…乱暴すぎて…」
「だろうね。じゃあ上鳴は?顔いいじゃんアイツ一応」
「やめとけ。栂野が可哀そう」

耳郎の痛烈過ぎる言葉に上鳴に憐みを覚えた。
そんな中、隣で話を聞いていた八百万が一言。

「仲がいい御方というなら、轟さんじゃありませんこと?」
「は!?」
「え、そうなの!?」

八百万の爆弾が投下された。
一気に女子勢の食いつきが強くなった。餌を変えた瞬間の魚の如き食いつきである。

「栂野、轟と仲悪くなかった?体育祭とかガチの殴り合いしてたじゃん」
「でも期末のテスト勉強は轟ちゃんと他のメンバーで零仔ちゃんのお家でお勉強会したわよ」
「実技でも結構仲がよろしそうだったのですけれど…も、もしかして勘違いでしたか?」
「いや、仲が悪いわけじゃないんだけど…」

仲がいい、のだろうか。
確かに轟は、零仔にとってクラスの皆の中では少し違う位置にいる。
彼は友人だ。友人だが、例えば蛙吹に抱いているものとは少し違う。
別に皆に猫を被っているわけではないのだが、彼は素を曝け出せる数少ない相手だ。
そこまでできるという事は仲がいいという事なんだろうか。
幼い頃は仲が良かった自信がある。
でも、今は?

10年前から、お互いは色々と変わりすぎた。
だからだろうか。
あの時のようになれたら、それは願ってもない事だ。でも、それでいいのだろうか。

「上手い接し方がわからない、というか…」
「まあ、結構大変そうだよね〜。体育祭以来結構親しみやすくはなったけどさ〜」
「せやね〜まあ始まったばかりだし、そのうち慣れていくと思うよ!」
「そうそう」


話題もある程度広がったところでいい時間になり、そろそろ帰ろうかという話になった。
その場で解散となり、皆がいなくなる。

零仔は徐に先程のゲームセンターへと行き、やはり気になっていたギャングオルカのぬいぐるみのUFOキャッチャーに足を運んだ。

(…………一回だけ…)

一見落ちやすそうだが、こういうのは落ちないようになっているのだ。
だがそれでも諦めきれないというのは考え物で、一回やってこれは無理だと心を折った方がいい。
100円を入れようと財布を出した時。

「零仔?」

ゲームセンター特有の騒音の中に聞き慣れた呼び声がして思わず振り返る。
そこには何故か轟がいた。
轟の方も何故こんなところに零仔がいるのかという顔をしている。

「なんでこんなとこにいるんだ」
「ク、クラスの女子と買い物に…轟くんこそなんで」
「俺は靴買いに。…つうか、零仔、呼び方」
「え?」
「今は俺とお前しかいねえだろ。名前で呼べ」

そう言う事をさらりと言う。
他意はないはずだ。頭の中を切り替えなければ。

「…うん、焦凍くん」
「おう。で、何してんだ。これ欲しいのか」
「あっ」

轟がUFOキャッチャーを覗き込む。
ギャングオルカのぬいぐるみをじっと見て、「ちょっと貸せ」と割り込んだ。
まさか。

「ま、待って焦凍くん、まさかやるの」
「欲しいんだろ、ぬいぐるみ」
「っ確かに欲しいけど…でもこういうのって簡単に取れないように出来てるのよ」
「そうなのか。まあ、何とかなるだろ」

そう言いながら轟は躊躇いなく100円を入れ、迷いない手つきでバーを操作していく。
UFOキャッチャーの足がしっかりとぬいぐるみに引っかかる。
重くて持ち上がらないと思っていたそれは実にうまい具合にタグに引っ掛かり、同時に頭をしっかりと固定して持ち上がった。
ゆっくりと持ち上がったそれは抜群の安定感を持って落とし口へと向かい、足が開くとぼと、と出口へとぬいぐるみを落とした。
ぽかんとしている零仔を尻目に轟は何事もなかったかのように出口を漁り、戦利品のぬいぐるみを「ほら」と零仔に差し出した。

「…い、いいの?」
「欲しかったんだろ」
「………」

差し出されたそれを受け取る。
思っていたよりずっとふわふわでやわらかい。そのやわらかさを指先で堪能し、むぎゅっと抱きしめた。
その気持ちよさと、恥ずかしさのような嬉しさのような何とも言えない感情が込み上げて来て、頬がどうしようもなく緩んだ。

「…ありがと、大事にするわ」
「……!」

緩み切った表情で申し訳ないとは思ったが、礼を言いたかった。
何か名状しがたい感情が突如込み上げてきた轟は咄嗟に顔を背けた。

「…焦凍くん?どうしたの?」
「……いや、何でもねえ」
「そう?それならいいんだけど…うふふ、嬉しい」

ぬいぐるみを嬉しそうに抱きしめて、まるで子供のように燥ぐ零仔に、轟は心臓を押さえる。
心臓が馬鹿になったのかと思うくらいに早鐘を打ち、個性を使ってもないのにまた顔が熱くなるのを感じた。

(なんだこれ)

自分の身体の事なのに分からない。
心臓が五月蠅い。零仔に聞こえてしまうのではと思うくらいに。

(なんだよ、これ)


.