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相澤は本当に容赦なかった。
轟とぶつけた頭にはしっかりとたんこぶが出来ていて、リカバリーガールに治癒してもらった。
石頭め。

試験が終わった教室はあまりに静かだった。
恒例の反省会をしている為に誰も帰っていないのだが、賑やかし役の切島と上鳴と芦戸が揃って試験クリアならずお通夜モードになっているからだろう。

(賑やかし役いないとこんなに静かなんだなこのクラス…)

反省会もそろそろ終わり掛けているのでそろそろ帰ろうかと零仔は荷物を纏め始める。
今日の試験は午前のみで、その後は各自帰宅だ。
午後は久しぶりにのんびりしようかと思っていた矢先だ。

「あ、栂野さん!これからの予定はお空きですか?」
「え?まあ、空いてるけど…」

声をかけて来たのは八百万だった。

「良かった、これから以前約束していた皆さんとお買い物に行こうと思うのですが…」
「えっ、これから?」
「ええ、その…芦戸さんが試験クリアできなかったそうで、元気が無くて…せめて元気づけようと、これからショッピングに行こうと思いまして…」

成程、納得した。
確かに芦戸がずっとあの様子ではこのクラスも落ち着かないだろう。
教室の隅から聞こえてくるが、これから男子勢は試験クリアできなかった切島、上鳴、砂藤、そしてミッドナイトの個性にかかり試験中ずっと眠っていて合格かどうかグレーゾーンの瀬呂を元気づける為にカラオケに行くのだという。
確かに、最近はずっと勉強漬けでもあった。
気分転換もいいかもしれない。

「分かったわ、行きましょう」
「本当ですか!?では行きましょう!」

またプリプリしている。可愛い。
零仔も行くという事で女子勢は大いに盛り上がり、皆揃ってショッピングモールに行くことになった。


***


「ここがショッピングモール…!」
「平日の午後だから人ちょっと少ないね〜」

ショッピングモールが珍しいのか八百万はキョロキョロしており、女子勢はそれを微笑ましそうに見守っていた。

「何かありがとねヤオモモ、私の事元気づけよーとしてくれて!」
「い、いいえ!芦戸さんがお勉強を頑張っていたのは私が何よりも知っています!実技の結果はどうであれ、頑張ったのには変わりないのですから!」
「そうそう。終わったもんはしょーがない、今は試験のこと忘れて楽しもうよ」

八百万と耳郎の言葉にずっと落ち込んでいた様子の芦戸は笑顔を取り戻した。
ありきたりな言葉ではあるが、本当に女の子に暗い顔は似合わない。いつも明るく天真爛漫な芦戸なら猶更だ。
零仔もここ最近は暗い事を考える事が多かったから、今この時だけは何もかもを忘れたかった。


ファミレスで昼食を済ませた後、皆でゲームセンターに向かった。
特に八百万はこの場所とは縁がなかったらしく、キョロキョロ見回っては「あれはなんですか!?」「これは!?」と聞いて来る。
クソカワかよ。
全員が八百万の行動に微笑ましい気持ちになっている中、零仔はふとあるUFOキャッチャーに目を留めた。

(あれは…ギャングオルカのぬいぐるみ…!!)

ジャンボサイズのギャングオルカのぬいぐるみだ。
良い感じにデフォルメが利いていてとても可愛い。零仔のハートが鷲掴みされてしまった。
だが零仔はUFOキャッチャーがとても下手だ。可愛いが諦めるしかない。
可愛いが………

「…………」
「どうしたの零仔ちゃん」
「ふぉっ!!??」

突如背後から気配なく蛙吹に声を掛けられて変な声が出てしまった。
蛙吹はそういう所がある。
ぬいぐるみをガン見していたところに気づかれるのは何となく恥ずかしくて、ササっとぬいぐるみから目線を外した。

「な、なんでもないわ、ほら行きましょ」
「?そう、じゃあ百ちゃんたちに着いて行きましょ」

名残惜しいが仕方がない。
約束の下着屋さんに皆向かっているらしいので、着いていくことにした。


「栂野さんこれがお似合いなのではなくて!?」
「これとかどうかな!ピンク!」
「黒もいいんじゃない?セクシーで」

ここは地獄か。
いや、下着選びは楽しい。とても。
だが皆着くやいなや、どの下着が零仔に似合うか鏡の前で合わせはじめ、白熱し始めた。
どの下着も可愛いのだが。

「そ、そんなにかわいいの私には…」
「いいえとんでもございません!栂野さんはもっと自分に自信をお持ちになって!」
「良い素材持ってんだから活かしなよ!いつか彼氏が出来た時に悩殺できるようなヤツがいいよね!!」
「の…ッ!?」

葉隠は何を言っているんだ。
見せる前提で何故話をしている??
茹でだこのように顔を真っ赤にした零仔に一部の女子が顔をニヤニヤさせた(透明なせいで見えない奴もいるが絶対ニヤニヤしてる)。

「見、見せるものじゃなくない…?下着って…」
「おっとここで我らが栂野から純情発言」
「この世界には勝負下着という概念があってな?」
「戦う時に着る下着じゃないの…?」
「直訳過ぎる」

ソッチ方面の学のなさが露呈してきている。
何だか恥ずかしくなってきてやがて口を閉ざした。

「黙ってしまわれたぞ」
「いやあまさか栂野がここまで純情だとは思わなくて…」
「ごめんって」
「でもさ、そこは置いといて栂野は本当に絶対彼氏できるよ。モテそう。美人だしさ」

女子陣の「わかるー」という言葉に更にわからなくなった。
世界が違うと痛感した瞬間であった。
自分が美人だと思った事は全くない。自分の顔を気にした事など特になかった。

「栂野さんは小柄だし細いし髪だってこんなに綺麗だし顔は人形みたいだし、本当に美人さんやと思うけど」
「えっと……そ、そうなの?私全く気にした事なくて…」
「一回は告られたことあるでしょ!?」
「ない………」
「ウッソだろ……」

耳郎、麗日、芦戸、葉隠(に至っては分からないが)が嘘だろという愕然とした表情になった。
皆気にするものなのだろうか。
雄英に来るまでそういった事どころか友人さえいなかったのだから興味がなかったのは仕方がないとはいえ。

「…待て、ここではあまり話できないから一回マック行ってそこで話し合おう。恋バナ」
「こ、恋バナ!?」
「せや!!あんまりすぎる!!もうちょっとなんか…栂野さんに芽吹きが必要!!」
「何だかよくわかりませんが栂野さんに必要だというのならば私一肌脱ぎますわ!!」

大変なことになってしまった。
恋バナとやらは決定されてしまったらしい。
どうしよう。

「とりあえずウチらがセレクトした下着はお買い上げな」
「これ全部!?えっ待ってこれは際ど過ぎるんじゃ」
「似合うから!!店員さんこれ全部買います!」
「かしこまりました(青春ねえ…)」
「芦戸さん!?」

結局買う羽目になった。
この黒い下着とかセクシーすぎる。
いつ着るんだこれ。制服だと透けてしまう。

(私服の時しか着れないなこれ……)


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