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翌日。
女子陣は気分転換にショッピング、男子陣はカラオケに行ったらしいのだがやはり翌朝実技クリアならず勢は通夜モードだった。
「皆…土産話っひぐ、楽しみに…うう、してるっ…がら!」
「まっまだわかんないよどんでん返しがあるかもしれないよ…!」
「緑谷それ口にしたらなくなるパターンだ…」
瀬呂よ、それを世間ではフラグという。
泣く芦戸と通夜モードの切島、砂藤。
そしてそんな緑谷に目潰しを喰らわせる上鳴。むごい。
「試験で赤点取ったら林間合宿行けずに補習地獄!そして俺らは実技クリアならず!これでまだ分からんのなら貴様らの偏差値は猿以下だ!!」
「落ち着けよ長え。分かんねえのは俺もさ、峰田のお陰でクリアはしたけど寝てただけだ。とにかく採点基準が明かされてない以上は…」
「同情するならなんかもう色々くれ!!」
悲しみのあまり上鳴の語彙力が上がったり下がったりしている。
つくづく何をしても賑やかになるなと感心していると、登校して来た轟がやって来た。
「はよ。賑やかだな」
「おはよう。朝からお通夜よ」
「ああ……」
察したらしい。
上鳴に絡まれると大変だとわかっているのか直ぐに通夜組から目線を逸らした。
「その顔だとなんか考えがあんだろ」
「何それ」
「考え事してる時は大体そんな顔してる。緑谷程じゃねえけどお前も分かりやすい」
「緑谷君と比べられるくらいに分かりやすいのか…」
軽くショックだ。顔に出さないようにしよう。
そしてこの流れは、「考えを聞かせろ」というやつだ。
そういう目を向けられて黙っている事は出来ないので、大人しく白状する。
「…赤点が出たら学校で補習地獄って言ってたけど、あの相澤先生がそんな事するかしら。合宿ってヒーロー基礎学の延長みたいなものだろうし、きっと特訓でしょうから」
「つまり、俺達の全力を引き出させる為の口実ってことか?」
「かもしれない。今回の演習、ランダムに見えて各々の課題をぶつけて来た。今回クリアできなかった人達はその課題に阻まれたという事。そんな課題持ちをほっとくなんてそれこそ合理的じゃないわ」
「…あの人ならやりそうだな。否定できねえ」
「まあ全部が全部口実じゃなくて、未クリア組は各自合宿中に補習時間設けるくらいはしそうだけど。でも、これは予想だから…」
その時、予鈴が鳴った。
直ぐにでも相澤が来るだろう。
「悪い、後でな」
「うん」
轟が席に着くと同時に、相澤が「予鈴が鳴ったら席に着け」と扉を開け放った。
扉壊れそうだな。
相澤は小脇にプリントを大量に抱えていた。
全員が速やかに席に着いたところで教卓に立った相澤が話し出す。
「おはよう。今回の期末テストだが…残念ながら赤点が出た」
実技未クリア勢がまるで死刑宣告を待つ罪人のような表情だ。
上鳴に至っては悟りを開いているのか面白い表情になっている。
「したがって…林間合宿は全員行きます」
「「「「どんでん返しだあ!!!!!!!」」」」
その瞬間の零仔の脳内BGMは某エンダァァアアアアアとなった。
あとこの前も思ったがそういう時の相澤の顔は大体面白い。笑うの下手くそすぎるだろう。
「筆記の方はゼロ。実技で切島・上鳴・芦戸・砂藤、あと瀬呂が赤点だ」
残念ながら試験でミッドナイトにより眠らされてしまっていた瀬呂も赤点だ。
確かにクリアしたら合格とは言っていなかった。
「今回の試験、我々敵側は生徒に勝ち筋を残しつつどう課題と向き合うかを見るよう動いた。でなければ課題云々の前に詰む奴ばかりだったろうからな」
「本気で叩き潰すと仰っていたのは…」
「追い込む為さ」
そんなことまで言っていたのか。
とことんスパルタ形式にドン引きである。
だがこの流れは予想としては当たっていた。
「そもそも林間合宿は強化合宿だ。赤点取った奴こそここで力をつけて貰わなきゃならん。合理的虚偽ってやつさ」
「「「ゴーリテキキョギィイ!!!!」」」
(やっぱり……)
入学の日も相澤はこうして嘘をついた。ドン引きである。
「しかし!二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」
「わあ水差す飯田くん」
「確かにな、省みるよ。だが全部嘘ってわけじゃない」
歓喜に満ち溢れるA組に、相澤は続ける。
赤点は赤点なので、未クリア勢には別途で補習時間を設けており、ぶっちゃけ学校に残っての補習よりキツイ、と。
その宣告は居残り補習を覚悟していた彼らに予想以上の死刑宣告となったようで、再び彼らの表情がお通夜モードになったのだった。
哀れ。
***
「まあ何はともあれ、全員で行けて良かったね」
放課後のそれは尾白の言葉から始まった。
帰ろうと荷物を纏めていた矢先である。
「一週間の強化合宿か!」
「結構な大荷物になるね」
「暗視ゴーグル」
「水着とか持ってねーや、色々買わねえとなあ」
飯田、緑谷、峰田、上鳴が口々に言う。
峰田、その暗視ゴーグルは一体何に使うつもりだとは最早聞かん。
「あ、じゃあさ!」
閃いた!とばかりに手を叩いたのは葉隠である。
「明日休みだし、テスト明けだし…って事で!今度はA組みんなで買い物行こうよ!昨日女子勢で行ったばっかだけどさ!」
葉隠の提案にクラスが賛同者で盛り上がった。
確かに、クラス全員で買い物に行くのは初だ。
「おお良い!何気にそういうの初じゃね!?」
「おい爆豪お前も来い!」
「行ってたまるかかったりィ」
「轟くんも行かない?」
「休日は見舞いだ」
「ノリが悪いよ空気読めやKY男共ォ!!」
明日取り付けられた約束の話は、峰田の吼えで締めくくられた。
***
「…え?」
帰宅後、食事の席での話だ。
祖母が少し暗い表情で話を切り出した。
「それがね…私の昔の同級生が亡くなったのよ。それでお葬式に行くから、明日一日、おじいちゃんと一緒に家を空けるわ」
「一日…って、どれくらいで帰ってくるの?」
「東北に行くから、泊まりだな。月曜の昼頃に帰る」
祖父の見積もりに納得した。
確かに、色々同級生との積もる話もあるだろうし、帰りはそれくらいが妥当だろう。
「明日クラスの皆とお買い物に行くんでしょう?最近物騒だから、気を付けてね」
「うん、わかってるわ」
祖母の心配を身に刻む。
雄英に行きたいと言い出してから、ずっと祖母は零仔を心配してきた。
事実、雄英に通い始めてからは怪我が絶えない。
その度に祖母に酷く心配を掛けさせている事も分かっている。
祖父とて態度にも口にも出さないものの、心配をかけている事は明白だ。
(強くならなくちゃ。二人の為に)
林間合宿で、何かを得て帰ろう。
きっと実になる何かがある筈だ。
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