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翌日。
数名いないがクラスの皆と合流し、やって来たのは県内最多店舗数を誇るナウでヤングな最先端、木椰区ショッピングモールだ。
腕が六本の貴方(障子)にも、脹脛が激ゴツな貴方(飯田)にもあったとても世界の広さを感じる場所だ。
案の定緑谷のぶつぶつ攻撃が開始され、常闇に「幼子が怖がるぞ、よせ」と突っ込まれていた。
最中に体育祭の事を覚えていたパーリーピーポーが「体育祭ウェーーーーイ!!」と声をかけて来た。
上鳴みたいな奴らだな。
皆の話を聞いていると目的はばらけているようなので、時間を決めて自由行動となった。
(サンダルが欲しいわね…いやそれよりもカバンか…)
「栂野さん!良ければ一緒に回りませんこと?」
「え?私?」
「うん。ウチら一緒に回ろうかなって話してんだけどどう?良ければだけど」
「じゃあ、お願いするわ」
「ヨッシャ」
八百万と耳郎と一緒に行動する事になった。
耳郎は大きめのキャリーバッグが欲しいらしく、目的も一緒のようなので同じ店に入った。
零仔は目当てのカバンを直ぐに購入した。
後はタオルや虫よけスプレー、日焼け止めなどいろいろな小物を購入する。
粗方購入を終えた零仔だが、八百万と耳郎はまだ買うものがあるようだ。
「あ、水着。買わないと」
「そうですわ、水着!折角ですし買って行きましょう!栂野さんも折角ですし買いませんこと?」
「あ、私は……」
水着を買いたいのは同じだ。
だが、零仔の身体の中心に刻まれた大きな傷痕は、水着を着れば丸わかりになってしまう。
ハッキリ言えば、この傷が刻まれた身体は醜い。
この傷があるという理由で、零仔は水着を着た事が一度もなかった。
かなりクラスと打ち解けて来たとはいえ、あの事件以来祖父と祖母にも見せなかった傷を、クラスメイトに見せる勇気などある筈もなかった。
「…私は、大丈夫。二人で回ってきて」
「いいのですか?折角ですのに…」
「私、肌を見せるのちょっと、恥ずかしくて…」
「まあ、苦手ならしゃーないよ。じゃヤオモモと回ってくるから、時間になったら集合しよっか」
「うん」
嘘をつくのがこんなにも心苦しいと思うのは初めてだった。
それくらいには、このクラスに心を赦している。
(それでも、言えるはずないわ)
肌を綺麗だと言ってくれた。
でも、こんな身体見せられるはずもない。
きっと、息を呑むはずだ。彼女達はこの傷のある身体も受け入れてくれるのは分かっている。
それでも、零仔にそんな勇気がなかった。
過去を曝け出す勇気なんて。
きっと、無理だ。
***
八百万達と別れて暫く経った。
零仔は現在ショッピングモールの中でも人通りの少ない場所にいた。人の多い場所は苦手だった。
だがなんとなく広間の方が騒がしい気がして何かショーでもやっているのだろうかと気になっていると、耳郎からLINEの通知が来た。
『緑谷が敵連合に遭遇した。すぐに集まって』
「……え?」
敵連合?
なぜこんな所に?
この騒ぎはそれが原因か?
よく聞けば警察の誘導の声が聞こえる。
胸騒ぎがする。
この場から早く離れ、耳郎達と合流を―――
「ああ、やっと…見つけた」
その時、聞いた事のある声が背後からした。
その声を聞いた瞬間、腹の底を刃で撫ぜられるような底冷えのする恐怖を感じた。
この恐怖を知っている。
振り返るなと脳内が警告を発している。
だが、ここで逃げれば何をしでかすか分かったものではない。
恐る恐る、この胸に巣食う恐怖が表情に出ぬように気を引き締めて、意を決して振り返る。
黒いフードを被ってはいるが、そこから除く白い髪、ひび割れた唇、隈が色濃く刻まれた目。
その容貌を、覚えている。
「死柄木……弔…………」
「お前に会いに来た。……栂野零仔」
悪夢がそこにいる。
そう思わせるほどに、奴は純然たる邪悪だった。
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