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「あの、相澤先生」

放課後、零仔は直ぐに教室を出て廊下の相澤を追いかけた。
相澤はすぐに立ち止まり、涼やかな目を向ける。

「どうした」
「あの、推薦の試験で…合格者の中に、夜嵐イナサという少年がいませんでしたか」

そう、夜嵐がいないのだ。
彼ほどの実力者なら、受かっていてもおかしくはない。
でももしかしたら、筆記でダメだったのかも…と思考を巡らせていると、ああ、と相澤は心当たりのあるような反応をした。

「彼は一応合格しているよ。成績ならトップだった」
「…じゃあ、何故、いないんですか」
「辞退したからだ」

辞退?夜嵐が?
トップで合格したのに、辞退?
だって、一緒にベストを尽くして、合格しようって。

愕然とする零仔に相澤はさらに告げる。

「こっちが聞いても彼は何も答えなかった。彼は士傑に行ったと聞いた」

士傑高校。レベルは雄英と同格、西の士傑東の雄英と呼ばれる程の学校だ。
彼はそこに行ったのだと。

(夜嵐…)


***


「あれ?さっきの子どこ行ったの?」

まるで映画に出てくる宇宙人のような外見の少女、芦戸はまだそれなりに生徒の居座っている教室を見渡して大きな声で言った。

「さっきの子?」
「ほらぁ、最下位だった子」
「栂野さん、だっけ?」
「そうそうその子!」
「ついさっきさっさと帰って行っちゃったよ〜」
「え〜〜お話してみたかったのに〜」

相澤の話によると、特待生。
つまり学校側の推薦で入った優秀な生徒という事になる。

「でも、素の身体能力だったとしたらあの記録は普通に運動神経いいよね〜」
「個性分かんなかったけど、特待生って事はすごい個性なのかな」

もう既にいくつかグループが出来ているこの教室内で、ただ一人静かに居座っていた。
その眼は誰も寄せ付けないような薄い壁が張られているようで、まるで氷のよう。
誰とも目を合わせようとしない少女だったが、相澤に向かって真っ向から意見を述べるくらいには肝が据わっている。

一匹狼気質なのだろうか。

「そういやアイツ手袋してたけど、個性が関係してんのかな」
「気になるな〜、お話してみたい」
「でもアイツ、近寄りがたいんだよな。頑なに目を合わせようとしなかったし、話しかけようとしてもスッと避けて行っちまったんだよ」
「一人が好きなのかなあ」
「かもしれないね」

意見や憶測が飛び交う。
そんな中、

「でもっ、せっかくのクラスメイトなんだし!同じ志を持つ仲間なら、悪い人じゃないよ!」

麗日は明るく言った。

「そうだな」
「そうだね!明日話しかけてみよっか!」
「そうしよ〜!」

クラスが和やかに盛り上がる中。





「っくしゅ!……何だろう、風邪かな…」

自身が噂されているとは思いもしないまま、零仔は帰路についていた。


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