08.どうせやるなら

「そだ、なまえってLINEやってる?」
「うん、やってる!切島君交換しようよ、良ければ芦戸さんも」
「するするー!1Aのグループ作ろ!」

話しかけてしまえば懐に入るのはあっという間で、やはり轟が異端だっただけなのだとみょうじは思う。特に明るく快活な切島鋭児郎と芦戸三奈は話が弾んだ。流れで連絡先を交換していると、背後から入学初日とは思えないような言い合いが聞こえてきた。

「机に足をかけるな!雄英の先輩方や机の製造者に申し訳ないと思わないか!?」
「思わねーよ!テメェどこ中だ端役が!」

端役。随分と珍しい悪口を使うものだと思いながら目をやると、注意されていたのは入試の時印象に残ったあの少年だった。イメージ通り過ぎて言葉も出ない。

「なあ、なあって!」
「え?あっ、俺?」
「そう!君!ね、俺の事覚えてる?入試ン時助けてもらったんだけど、」
「...あ!」

肩を叩かれ横を見ると、嬉しそうに目を輝かせる男がこちらを見ていた。それは入試の際不覚にも姫抱きをしてギミックから救い出した少年で、名前は上鳴電気と言うらしい。

「あの時はマジで助かった!ありがとな!」
「全然いいよ、受かってよかったね!これからよろしく」
「よろしく!俺とも連絡先___」
「お友達ごっこがしたいなら他所へいけ」

聞き慣れた声に、みょうじは勢いよくそちらを向いた。芋虫のような格好をした保護者がサプリメントを飲みながらこちらを見ている。見るに堪えない姿に、みょうじは思わずうわあ、と声を出した。

「担任の相澤消太です よろしくね」
「(マジか)」

まさかの展開についていけないが、みょうじの心臓は間違いなく高鳴っていた。一人暮らしを始め会うことも減るだろうと思っていた相澤消太に、これから毎日会うことになるのだ。今まで見る機会が少なかったヒーローとしての姿も見れるかもしれない。緩みそうになる頬を引き締めながら相澤を見ていると、一瞬だけ目が合ったような気がした。



入学式という行事をすっ飛ばしみょうじ達は体操服に着替えグラウンドに集合するよう指示された。キラキラの学園生活を夢見ていた生徒達はぶつぶつ文句を言いながらも更衣室へ移動し、その間も飯田と爆豪は言い合いを続けていた。

「ぅお、なまえって意外と筋肉あるのな!」
「ん?うん、身長が低いからせめて体鍛えないと!」
「体さえ隠せばいける...」
「?」

既にグラウンドに立っていた相澤から命じられたのは、「個性把握テスト」だった。所謂身体能力テストのようなもので、雄英では個性を駆使して記録を出すらしい。自分が受け持つ生徒がどのくらい見込みアリなのかを最も合理的に見極める手段。なんとも消太さんらしいやり方だとみょうじは思う。
お試しとして指名されたのは先程から喚き散らしていた爆豪という男だった。物騒な掛け声と共にボールは遥か彼方へと飛んでいき、記録は700メートル越え。今までにない測定方法にクラスメイトは湧き上がった。

「(ただ真上に飛ばすだけじゃ記録は出ない。角度を調整して爆風に乗せたのか。てことはアイツの個性は爆発ってとこだな)」

爆豪の個性の使い方について黙々と分析していると、いつの間にかテストが始まっていた。出席番号順に整列を始めており、みょうじも慌ててそれに続く。先程まで楽しそうだと張り切っていた面子がやたらしおらしくなっているのが気になったが、どうせあの人が釘を刺したんだろうと考え無視することにした。

1種目目の50m走で特に目立っていたのは飯田だった。ふくらはぎに付いているエンジンから、恐らく根っからのスピードタイプ。初っ端から大当たりの種目で羨ましい限りである。

「(3秒04ねえ...越えれないことはないが後ろに被害が出んな)」

たとえ自分よりもはるか昔に個性を自覚し、ヒーローをめざしてきた人達であっても、ここで自分の記録を上回られるのは腹が立つ。言葉にはしないものの模範生徒みたいな感じでまず爆豪が指名されたのもムカつく。みょうじのプライドは、恐らく爆豪の記録よりも高かった。
奇数ということで最後に1人で測定するのは唯一の救いだった。近距離でのろのろと走られては、思わず吹っ飛ばしてしまいそうだからだ。
位置につき、足に力をかける。合図と同時に蹴りあげた衝撃を最大へと調整し地面を離れると、そのままゴールへと勢いよく身体が押し出された。50mという短距離なので足は1度も地面につくことなくゴールし、記録は2秒31。目標通りクラス1位をとることができた。
背後を見るとかかった砂を払うクラスメイト達がいて、やっぱりなとみょうじは苦笑いをうかべる。

「砂かかっちゃった?皆ごめん、事前に言っとけばよかったね」

まあ、わざとなんですけど。
意味の無い嫌がらせの意図に気づいたのは、ジト目で彼を見つめる相澤だけである。