07.はじめまして優等生

真新しい制服を見に纏い、変な寝癖がついていないかチェックする。鞄の中身は確認したし、恐らくこれで完璧のはずだ。あとは挨拶のイメージトレーニングだけ。みょうじはにっこりと鏡の前で笑顔を作った。

「はじめまして!俺、みょうじなまえっていいます。気軽に名前で呼んでくれると嬉しいな、これからよろしく!」

無難な挨拶。しかしそれにとびきりの笑顔をオプションとしてつければ、大多数の相手は好印象を抱くはず。完璧すぎる優等背ぶりに、みょうじは思わずあくどい笑みを浮かべてしまった。

「これで俺を元ヤンなんて言うやつはいねぇだろ..やっぱ天才だな」

みょうじなまえ、16歳。彼は今日から雄英高校に通うのである。




自宅から15分ほど歩いた先にある雄英は、パンフレットをそのまま現実にした綺麗な建物だった。無駄に大きな門を通って気付いたが、来るのが少し早すぎたかもしれない。新入生はおろか引率の教師ですら見当たらなかった。郵送された書類の中に混じっていた校舎の地図を頼りに、みょうじはなんとか配属された教室へと辿り着いた。

「(一々無駄にでけーなこの校舎は)」

自分の2倍はあるであろうドアを引いて教室に入ると、やはり誰も居なかった。黒板に貼られた座席表に目を通し、みょうじは自分の名前を見つけ眉を顰めた。通常名前順に配置されているはずが、みょうじだけ1番最後はみ出すような席になっているのだ。なんの嫌がらせだと舌を打ち渋々席に座ると、入れ替わるように教室のドアか開いた。

入ってきたのは顔の右半分に大きな火傷跡を纏う、大人しそうな少年だった。ちらりとみょうじに目をやるも直ぐに逸らした当たり、おそらく愛想は良くない方である。しかし優等生はここで話しかけるのを諦めたりはしない。みょうじは自分の斜め前の席に腰掛けた少年に声をかけた。

「おはよう!来るの早いんだね」
「...ああ」

にっこりと笑ってみせるも、少年の表情はピクリとも動かない。一応と言った様子で返事は返すが、あまり話したくなさそうな態度だった。

「俺の名前はみょうじなまえ。これからよろしく!名前、教えてくれる?」
「轟焦凍」
「轟君ね。俺何でか1人だけ席はみ出しててさあ、近くの人と仲良くなれるか不安だったんだ。気が早いかもしれないけど、授業とかわかんない事あったら聞いていい?」

相手が不快にならない程度に快活な態度を心がけたつもりだ。所謂"お願い"と言った形で小首を傾げ覗き込むと、轟は少し気まずそうに視線をさ迷わせた。

「悪ぃが他当たれ。俺は仲良しごっこをするつもりでここに来たんじゃない」
「仲良しごっこ?」
「クラスの奴らとも極力関わるつもりはない。もういいか」

言うだけ言って、轟はみょうじに背を向けてしまった。なんと声をかけたらいいか分からない、というよりも声をかける気になれず、みょうじは舌を打ちたい気持ちを懸命に抑えた。

「(社交辞令もできないガキが...ファーストコンタクトがこんな奴とか最悪だな)」

やはり話しかけるんじゃなかった、と少し後悔する。そうして時間が過ぎ、クラスメイトもちらほら登校し始めた。みょうじは轟に絡むことは一旦諦め、友達作りという名の好感度アップに励むのであった。