兵卒は見た
こんにちは!はじめましてですね。僕は家の為、三年前に蜀の兵士として働き始めた田舎者です。まだ訓練ばかりやってる兵卒ですが。特に覚えてもらう必要もないので、田舎者の兵士で結構ですよ。そんな、平凡で、同じことを繰り返す毎日を送っている僕ですが、面白い事だってもちろんあります。
最近の楽しみは魏将軍となまえ様の仲を観察すること!いや、意外と面白いんですよ!きっかけは、食事をしている時の魏将軍と一緒になまえ様が居るところを目撃したことなんですけどね。ちょっと聞いてください。
ある時、お食事中の魏将軍が居ました。やはりあの躰ですから、食べる量も相当ありまして、魏将軍の目の前にはたくさん料理が並んでいます。僕もあれだけ食べられる兵士になりたいなぁ、なんて思っていたら向かい側には美女の姿が!
凛としていて気品漂う佇まいに、美しい顔。黄将軍の自慢のひとり娘のなまえ様です!これはこれは!魏将軍には、男だろうが女だろうが、ちょっと怖い感じのお姿ですから、気安く話しかけるような人はそういません。どんな状況なんだ?と気になった僕はこっそり見てたんですよ。
「文長ちゃんは、すごく美味しそうにご飯を食べるのね」
「ング……」
大きな口で肉を頬張って、飲み込まないうちに米をかきこむ。確かに、頬を膨らませて食べる姿はこっちまで涎がでそうなくらい、美味しそうです。
それにしても面白いと思いませんか?魏将軍を「ちゃん」付けで呼ぶことのできる人はそうは居ないでしょう。僕なら言った瞬間に首がとんでます。なまえ様は怖いもの知らずといいますか、何といいますか。
「褒めてるのよ。可愛いわ」
「オ前……変……」
「変?」
「我……可愛イ……違ウ……オカシイ……」
「あ゙あ゙?」
「?!」
「可愛い」というなまえ様の意見には僕も驚きました。「可愛い」と称された魏将軍が戸惑うのもなんとなくわかります。しかし、「変」と言われた当事者のなまえ様は女性とは思えない程低い声で唸って、魏将軍を鬼の形相で睨んでいました。怖い、怖すぎる。美人ってあんな顔にもなれるんだ…。
「わたしの感覚が間違っているとでも?それとも貶したいの??」
「ウ……イヤ……」
「違うの?」
「我……可愛イ……言ワナイ……」
「あ゙あ゙!?それはわたしの意見じゃないわ!わたしは文長ちゃんは可愛いって、心の底から思って言ってるのよ。それはわたしのい・け・ん。お分かり??」
さらに否定する魏将軍に、なまえ様の美しい顔は般若のようになり、有無は言わせないというようにたたみかけます!怖い!心なしか魏将軍も顔を強張らせているようです。
「……ウ……ワカッタ……」
「『魏文長は可愛い』」
「……」
「認めたなら復唱してくれないかしら?」
とんでもないなまえ様の要求に、僕も「え?」と声を上げそうになりました。危ない、危ない。魏将軍は明らかに動揺して、言葉を詰まらせて、唸っています。そこまでしなくても、なんて僕は思うわけですが、なまえ様は逃がすつもりは無い様です。その涼し気な目を鋭くさせました。
「ヴ……魏……文長ハ……可愛イ……」
観念した魏将軍が首まで真っ赤にして、聞き耳を立てなえれば聞こえないような小さな声で言いました。すると、先ほどまで般若のようだったなまえ様が一変、まるで女神のように柔らかい笑みを浮かべました。愛おしそうに微笑むなまえ様を盗み見て、僕の心臓が早鐘を撃ちます。美女の笑みの威力は計り知れないですね…一瞬、盗み聞きしていることを忘れそうになりました。
世の男全員が虜にされるような笑み。それを間近で見た魏将軍の動きがほんの一瞬止まりました。直ぐに動き出して箸が料理を摘み上げましたが、先ほどよりも緩慢な動きで、豪快さがありません。誰の目にも明らかに魏将軍は恥ずかしがっていました。あんなこと言わされたら当然なのでしょうが、僕にはそれだけじゃないように思えました。
「ふふっ、やっぱりかわいい人ね」
今度はなまえ様の言葉を疑問には思いませんでした。戦場では鬼神と称される魏将軍も、恥ずかしがったりするのですから。今なら魏将軍が可愛いっていうの、僕にも少しわかる気がします。
それから、魏将軍を必要以上に怖がることないって思えるようになってきたんですよ。相変わらず訓練中は鬼の形相ですけどね。
それにしても面白いと思いませんか?最近お二人が一緒に居ることも多くなってきましたし、なまえ様はあの美貌ですから、魏将軍が惚れるのも時間の問題ですよ!もしかしたら、もう惚れてるかもしれませんけどね!
ああ!またお二人が一緒に!これは見届けないと!それではぼくはこれで失礼します!