召喚術はゲームの中で
授業が終わり、競うように教室を出る生徒たちを横目にのんびりと帰り支度をするなまえ。すると、隣に居た友人のアキが「そうだ」と声を漏らした。
「ね、この前『何か面白いゲーム無いかなー』って言ってたでしょ?」
「うん?どうしたの?」
「なまえにオススメがあるの!これこれ、やってみてー!」
そう言ってアキは服のブランドロゴのついた白い袋を取り出した。袋の口を少し開いて覗いて見れば、プ●ステ規格のゲームソフトがひとつ入っていた。
「へぇ、何日か借りてていい?」
「しばらくやらないから、返すのはいつでもいいよ」
「そっか、ありがと!帰ったら試してみるよ」
そんなやりとりをしたのがお昼間。帰宅後の夜、大学のキャンパスでアキから貸してもらったゲームソフトを取り出してみる。
「覇に生きるか、武に生きるか…なんか、カッコイイな」
プレ●テを起動させ、ディスクを挿入し、その間に説明書を読む。操作説明を見る限りアクションゲームの様だ。そこでわたしは、ふと違和感を感じた。アキは元々アクションゲームなんか殆どしない。するとしても赤いシャツと帽子にオーバーオールを着た髭面のオッサンが出張る、ファミリーゲームを五歳になる弟とするのが精々だ。
珍しい事もあるなと思ったが、あまり気にしないでゲームを進める。オープニングのグラフィックは綺麗の一言に尽きる。流れるように変わる画面にも、人間にはあり得ないアクションをしてくれるところにも、わくわくさせられる。
「わー、面白そう」
ドキドキしながら説明書を戻して、コントローラを握る。
まず最初に選んだのは説明書段階で気になっていた‘エディット’のモード。
新規作成を選んで、色々と弄ってみる。性別は勿論、身長・顔立ち・髪型・声・鎧が選べて、種類も豊富だ。取り敢えずひとり作成する事にした。
名前は‘ひと狩りいこうぜ’がキャッチフレーズのあのゲームでも使用している‘エディ子’を使用。外見は…少し捏造気味に、髪型は自分のものと一番近いものを選んだ。
次にモーションに取り掛かる。上記ゲームでは根っからの剣士で中でもハンマーがお気に入りだ。
「…がに股」
いくらパンツ姿といえど、女性キャラなのだ。大きく開かれた足は、流石に頂けない。ならばと大剣を選んでみたが、これも大概がに股。
「あとは片手か、双剣か…」
それが駄目なら最初に構えていた槍が良いかもしれない。そう思いながら武器を探す。
「いーじゃん、双剣…!」
シャープな立ち姿に惚れ、少々使いづらくても問題ないだろうと決定。
さて本編だ、と‘争覇モード’を選ぶ。よくわからないところは適当に、プレイヤーキャラはゲーム自体のキャラクタを知らないので先ほど作った‘エディ子’を選択。
「‘武将モード’と‘君主モード’か……取り敢えず武将モードでいっか!」
直感で武将モードを選んで、スタート。早速、適当に戦闘へ出ることにした。
モードやら進め方には目を通さなかったが、具体的なミッションは随時戦場にいるキャラクタが教えてくれるらしい。それに従いつつ、目の前にいる敵をバッサバッサとなぎ倒す。なかなか楽しい。目の前の敵をあらかた片づけ、近くの敵が密集している地域へ向かわせる。すると、キャラクタが喋りだした。
−−−オ前……待テ……。我……助ケロ……イイカ……?
なんだか上から目線だなぁ、なんて思いつつ周りの敵を一掃していく。戦場にいる味方と合流すると新たなミッションが追加されるらしい。なるほど。
ーーー助カッタ……嬉シイ……。コレ……ヤル……
そういわれて、金と財宝を獲得。ミッションをこなすことで報酬も増えるようだ。戦いを優位に進めるにはミッションを多くクリアする方が良いんだな、とゲームの流れを確認しつつ戦闘終了。
さて、次のターンはどうしようか、と思っていると‘イベント選択’の横に‘NEW’の文字が現れた。何事かと「イベント選択」を選択してみると最初から出ていた「王平に士官する」という選択肢意外に、「魏延と仲間になる」というのが増えていた。
誰だかはわからないが、仲間がいるに越したことは無いだろうと仲間になることにし、決定ボタンを押した。
−−−オ前……仲間……。我モ……行ク……
そう言って仲間になったのは先ほどの戦闘で上から目線で助けを求めてきた奴だった。戦闘中はあまり注目していなかったが、顔面のほとんどを覆う仮面に、爬虫類を連想する鎧。それに独特の喋り方をする。スゲー異色キャラも居たもんだ。本当に歴史ゲーなのかと思わずツッコミを入れながら魏延を仲間に加え、次の戦場に繰り出すことに。
いくらか戦闘を終え、馬超というイケメン武将に仕え、大喬というかわいい女の子も仲間に加わり、自身の操るキャラクターも強くなってきた。そんなとき、また新たに‘イベント選択’に‘NEW’の文字が出てきた。
また、仲間が増えるのだろうか、と思い、見てみると「魏延と婚姻を結ぶ」という選択肢が増えていた。
「は?なにこれ、結婚できんの?」
即座にパッケージの裏をよくよく確認してみると、セクシャルアイコンが確かについていた。歴史アクションゲーで恋愛シュミレーション要素とは…わたしが今までに出会ったことがないゲームだなと少々驚いた。
それにしても爬虫類系男子か…もうすこし考えてからエディ子ちゃんのお相手は決めたいな、と思いここはスルー。いままで一緒に頑張ってきたのは知ってるけど、ごめんね、と魏延に心の中で謝っておいた。
だんだんゲームの進め方がわかってきた私は、新たな仲間‘関平’を加え「いざ国取り!」と意気込む。自分のいる国の領土が、ターンごとに広がっていくのが楽しい。が、しかし…。
「…凝りないね、君。何回目?」
またまた「魏延と婚姻を結ぶ」という選択肢が出現。関平とかいう新しく仲間にした男の子と結ばせようと奮闘してみたが、魏延からの熱いアプローチしかこない。領土も自国で埋め尽くされ、いかにも終盤。せっかく初めからついて来てくれたし魏延でもいいかという気持ちで、カーソルを「魏延と婚姻を結ぶ」に合わせ、決定ボタンを押した。
「え?」
すると突然、テレビ画面が一瞬強烈に光った。唐突な出来事に何も抵抗できず、モロに光を目にした私は激しい頭痛とともに、目が開けられなくなった。まさに一時話題となった「ポリ●ン現象」である。「ゲームは目に良くない」という母の言葉を思い出したが、この光り方は例外である。こんな設定したプログラマー死んでしまえばいい。痛む目を抑えながら俯いた。
「いたいぃ…」
「大丈夫カ…」
「うるさい、アンタの所為でしょ」
頭上から降ってくる魏延の声に八つ当たりをする。プレイヤーがこんな風になってもゲームは容赦なく進むのか、と目と共にガンガン痛みだす頭。このゲームをお勧めしてきたアキに必ず仕返しをしてやる。痛みが和らぐのを待ち、もう目も開けられそうだと思った頃に手探りでコントローラーを探し始めた。
「エディ子……スマヌ……」
また頭上から魏延の声が降ってきた。それにすごい違和感を感じた。このゲーム、入力した名前呼べんの?いや、どんなゲームでもそれはありえない筈だ。だったらなぜ、と考えていると指先が硬質の何かに触れた。明らかにコントローラーの質と違う感触。痛みも忘れて顔を上げた。
「は?」
涙ぐんだ視界に写るのは、巨大な爬虫類…もとい、魏延が座り込んでいた。触っていたのは魏延の膝辺り。驚きのあまり手を引っ込めた。何を思ったのか、魏延はわたしに向かって手を伸ばした。
「エディ子……疲労…?我…心配…」
ぽかんとするわたしに、魏延は出そうとしていた手を引っ込めた。何する気だったんだ…!完全に腰が抜けてしまい、立ち上がることが出来ない。変な格好と喋り方だとか思ったけど、実物を近くで見るとすごい、怖い!
「え、と、とりあえずダイジョブ、です」
声が震えたが、言いたいことは伝わったらしく、魏延は小さく「ソウカ…」と返した。本当に頭おかしくなった方が楽だ。わあ、鎧の作りこまかーい!なんて現実逃避せずにはいられない。しかし、この状況に驚けて対処法考えようとしているわたしは残念ながら、かなり正常だと思うし、褒めて欲しい。
魏延の様子を見る限り、武器なども持っていないし、敵意も感じられない。わたしに危害を加えるつもりは無さそうだ。その事に少し落ち着きを取り戻した。
「あー、その、なんでここにいるんデスカ?」
恐る恐る尋ねてみた。すると魏延は部屋を見渡した。
「……ココ…ドコダ…?」
魏延が明らかに動揺していることは分かった。頭を抱えて、オロオロしている。動揺というよりかは、軽くパニック状態に陥っている。っていうか、今更気が付いたのか…。しっかりしておくれ。
「だ、大丈夫!敵地じゃないから!」
「ウ…」
先ほどから一転、心配する立場が逆転した。冷静になると魏延の表情というか、感情は結構わかりやすい。一旦は落ち着きを見せたが、わたしの部屋であることを伝えると、魏延はまた慌てだした。
なんとか宥め、魏延も少しは落ち着きは取り戻したものの、頭は未だに追いついていない。一度整理しよう。わたしがゲームをしていた。すると、突然画面が光って目の前には魏延。え、さっぱりわからない。
「ここへ来る前、何してたのか覚えてる?」
「我…エディ子ニ……呼バレタ……ダカラ……」
魏延の話によると、呼び出された部屋に入ろうとしたところ、気が付いたらここにいたらしい。もちろんだが、わたしは呼んだ覚えなどない。それとエディットにつけた名前でわたしを呼んでいるのだから、あのゲームが関わっていることは明らかだ。
そう思い、ゲームの電源を入れてみる。プレ●テは起動。しかし、ディスクを読み込んでくれない。おかしい、と思い、もう一度ディスクを入れなおしてみる。しかし、何の変化もない。壊れたのか、と焦りながら違うゲームディスクを挿入してみると今度はちゃんと起動した。
何度も、何度もディスクを出し入れしてみたが、このタイトルだけが入らない。無表情でその作業をするわたしは平気そうに見えるかもしれないけど、内心すごく焦ってるよ。背中なんて、夏でもないのに汗かいてるよ!
「あ、えっと、帰り方とかって…」
魏延はあたりを見渡した後、気まずそうにふるふると首を横に振った。だよね、来た方法がわからないなら、当然帰り方もわからないよね。
「エディ子モ…分カラヌカ?」
「そ、そう!わたしも分からないんだよ、ねー…困ったなー、あはは」
そういえば、魏延はわたしをエディ子と勘違いしているみたいだった。ある種、これは好都合。仲間である以上、危害を加えられることはない……筈だ。私は思わず嘘をついた。来れたんだから帰れるはずだ。こんなファンタジーな展開の時、大抵映画や小説では、出現位置に扉があるとか、時間が立てば自然に返れたりする。それにもし、ここに扉があるってパターンなら、私が追い出してしまえば魏延は一生帰れない。右も左もわからないであろう魏延を追い出せば即逮捕もあり得る。それは何だかかわいそうに思えた。
「とりあえず、一緒に此処に住もう?か?」
魏延は不思議そうにしながらも頷いていた。