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かっこつけボーイ



私のセイバーはとにかくイケメンだ。


「お手をどうぞ、マスター」


「ああうん」


少しの段差があれば場所問わず手を差し伸べてくる。キラキラオーラを散布させて。


「下がっていてマスター。この敵は僕が斬り伏せてみせよう」


「頼んだアーサー」


と思えば騎士王らしく毅然と敵に一直線だし。それでもキラキラオーラは失われない。


「良ければそれを持たせてくれないかな? マスター」


「ああはい」


なのに一転して重い荷物を率先して持とうとする紳士に戻るし。なんでキラキラオーラ常時纏わせてるの? 魅力スキル持ってたっけ君。と、このように何故だか知らないが、召喚して爾来アーサーは何かと私を女性として接し扱い、あまつさえ「それは最早姫扱いじゃない?」と思わせるようなこともする。尋ねてみても「特に変わった接し方をしているつもりはないんだけどな。気に障ったかな?」と至ってボケている。あれか? 円卓の騎士達は総じて天然ボケしているのか? いい加減自覚してほしい、己の顔の良さを。そしてキラキラオーラを仕舞ってくれ。


「何なんだあの人は」


「くだらない戯言を吐露しに来たのであれば即刻立ち去れ。俺はたった今も執筆という苦行に頭を抱えている。見て解らないのなら途方も無い阿呆だが、見て尚話を続けるのであればお前は間違いなく魔王だ。良かったな、憧憬して止まない騎士王と同格に並んだぞ」


私の心からの溜息を一刀両断どころか雲散霧消とさせたのはこの部屋の主であるアンデルセンだった。小さな背丈も海を連想させる青い蓬髪も子供の容姿には似つかわしくないほどの毒舌も慣れた、むしろ安心感さえ抱くというのに、召喚してそれなりに月日が経つアーサーには未だに慣れない。大物芸能人が家に居る気分だ。原稿用紙に齧り付くアンデルセンは、何も言い返さない私を見て追い立てるように深い溜息を吐いた。


「このまま居座る気か? マスターよ。人類最後のマスターがこんな偏屈者とはな。世も末だ」


「なんでアーサーってあんなにキラキラしてるの? なんであんなにイケメンなの? 怖い通り越してもはや引きそう」


「俺は既にお前に引いているから安心しろ。そして出て行け」


「だってさ、征服王とも太陽王とも違うじゃん? 金髪の賢王とも違うし。同じ金髪であそこまで差があると、逆に珍しいよね」


「顔の両端に付いている二つの突起物はなんだ? 機能していないのか?」


「ベディともガヴェインとも違うんだよね、アーサーって。ベディは何気に可愛げあるし、ガヴェインはなんて言うんだろう、こう、謎の納得感があるんだよ。でもアーサーだけは何かが違うんだよね。顔が良すぎるからなのかな? それとも私が慣れていないだけ?」


「そうか、それは結構。話が纏まったところで出て行け」


「ねえ聞いてる? アンデルセン」


「お前が俺の話を聞け」


正直言って別にアーサーが嫌いだとか、接しづらいわけではない。むしろ話しやすい方ではある。多分。キラキラオーラは目を瞑ってしまいたくなる時もあるけど、それでも英雄王や太陽王といった気難しい方達始め、一筋縄ではいかない英霊が多い中ではアーサーは非常に友好的と言える。最近ではレイシフトのチーム編成や素材集めの相談は勿論のこと、たまの談笑をするまでに至った。だがしかし、だ。

気の置けない友人である私でも未だ彼の紳士っぷりには慣れないでいる。それは私が騎士道精神などというものから酷くかけ離れた時代に産まれたからというものかもしれない。アーサーの時代の女性はもしかしたら当然のことなのかもしれないが、男と聞かれれば「ああ、あの好きな子にはイタズラする人達ね」みたいな認識を持つ私からすれば、アーサーのそれには凄く慣れないのだ。そこでひとつの嫌な理由が浮上した。


「それとも私が弱過ぎるから必要以上に庇護してるのかな?」


「数多の戦場を駆け抜けてきた英霊と、武器の『ぶ』の字すら馴染みない世界で蝶よ花よと育ってきたお前とでは力量の差異があることは何も可笑しくないだろう。それにあいつに『弱いから守る』などという考えがあるようには見えん」


まるでくだらないと一蹴したアンデルセン。それでも何故の靄は晴れない。確かに私は、アンデルセン含め英霊達とは真逆の穏和な時代を生きてきた。この人理修復という役目さえなければ今だって家の炬燵に足を突っ込んで優雅に読書をしているかもしれないのだ。人による人の死さえ見たことない私が戦場で立てて、無事に生還できるのは彼らのおかげでもある。だけど私だってもうひとりの戦士だ。

闘いの中に身を置くのだから戦士と言ったって遜色はないはず。そのために日々体だって鍛えてるし、慣れない戦法だって頭に叩き込んでいる。それゆえにいつまでも女性扱いはあまり好きでないのだ。なんだか「お前はまだまだ弱者だ」と言われているようで。そうか、私は慣れないのではなく好きでないのか。だけど今更接し方を変えて欲しいと言っても彼はおそらく首を傾げるだけで変えられないだろう。そりゃそうだ、彼自身自分の行いを意識していないのだから。注意しようがないじゃないか。そう思ったら肩が重く沈んだ。


「そういえばさ」


「なんだ」


「以前アーサーから貰い物したんだけどさ」


「そうか」


「これ貰った」


そう言って若干興味無さげなアンデルセンに、己の腰部にぶら下げていた物を見せた。彼は疎ましそうな顔を崩さなかったが、けれども乱暴に受け取るなんてことはなくて、大切に受け取ってくれた。


「短剣か」


「そう。アーサーがくれるって」


以前彼のちょっとした手伝いをしたことがあり、曰くその礼とのこと。日頃戦場で助けられている身である私がいくら大丈夫だと言っても、「貰って欲しい」の一点張りだった彼に根負けして渋々受け取った。アンデルセンが持っているそのひとつの短剣は、聞くところアーサー自身が打った物らしい。微量ながらも己の魔力を封じ込めているため、日頃と化した戦場でもそれが私の身を守ることに多少の助力になり得るのだという。

短剣と言うだけあって切れ味もよく、重くない。セイバークラスのような腕力がない私でも存分に振るうことが出来るため毎日携帯しているのだが、これってやっぱり私が弱いからもっと気を引き締めろってことだよね。「常日頃僕が守れるとも限らないから貰って欲しい」という言葉の裏はきっと「剣術も磨け」ってことだよね、絶対そうだ。そう言えば、理由は解らないがアンデルセンに酷く引かれた顔をされた。


「何なんだはこちらのセリフだ阿呆! 惚気るな!」


「ええ、どうしてそうなったのさ」


「天然ボケはお前だ、この鈍物マスターめ! ええい鬱陶しい、俺はまだ終わりなき小説の執筆に勤しんでいるというのに、この鈍物は己の無知に等しい知能を曝けに来ただけでなくあまつさえ惚気けるとは! もういい、出て行け! そしてその矮小な脳漿で四苦八苦するんだな!」


そしてとうとう痺れを切らしたアンデルセンの手によって部屋を締め出されてしまった私であった。マスターの扱い酷くないか?