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初めての共有



燕青を見ていてゆくりなしに思い付いた。


「ラーメンを食べに行こうか」


仕事もサービス宿題もない休日。家では、悠々自適に前々から読みたかった本を読んでいる私と、マイペースではあるが久しぶりと称して家の掃除やら洗濯やらと家事をする燕青の二人に分けられた。なんか、ここだけ見たらお母さんと子供みたいだ。しなくてもいいよと言っても「俺が好んでやってることだから気にすんな」と言って聞きやしない。ならばと放置していたらいつの間にか時間は二時間も越していた。お腹が空いたので何か作ろうと思い、起き上がった時唐突に燕青にそんなことを言った。


「なんだぁ? 藪から棒に」


「いやなんとなくそう思っただけ。燕青、お腹空いてる?」


「あー」


口をあんぐりと開け斜め右の空中を見つめて数分後、燕青は弾かれたように首を縦に何度も振る。


「空いた! マスター!」


「はいはい、奢って、でしょ。最初からそのつもりだから」


「さっすがぁマスター! 話が早くて助かるなぁー」


奢られる時は中学生さながらに双眸を輝かせるから、呆れ半分可愛さ半分にいつも負けて結局奢ってしまう。これも燕青の特殊スキルというものだろうか、恐るべしサーヴァント。まあでも燕青はついぞ残したことはなく、いつも綺麗に食べ切ってくれるため、奢るこちらとしては奢った冥利を感じるというもので、たとえ大食いでトータルが諭吉二枚が飛んでいくことになったとしても、全くと言っていいほど惜しいと思わない。所謂「いっぱい食べる君が好き」というやつだ。


「燕青と一緒に行きたいラーメン屋があるんだよね」


「へぇ、マスターのお墨付きとあっちゃあ、ますます腹が空くもんだねぇ」


「多分燕青も気に入るんじゃないかな。早く行こう、並ぶのは嫌だし」


「おおっと、その店人気なのかい?」


「うん。よく行くけど空いたところを見たことはないかな」


「他にどんなメニューがあるんだい? その店は」


「餃子とか、あっ、あとは炒飯とかあった気がする」


「おっ、餃子かぁいいねぇ〜、餃子も頼むとするか」


「ダメだよ」


燕青は「えー」と頬を膨らませる。ダメなものはダメだよ。君ね、自分の食べる量を考えたことある? この前の一キログラムもするステーキを十何枚も平らげたでしょ。総計十キログラムを越したからね? 私どころか定員もびっくりしてたよ。いっぱい食べるのはいいことだけど、おかげで諭吉が一回で六枚も消えたよ。まあ、奢ると言ったのは私だし、文句言わないけどさ、今日はラーメンだけね。ラーメンなら何杯もおかわりしていいから。それに燕青とは他の物も食べたいし。


「他の物?」


ぱちりと目を瞬かせる燕青。私は頷いてみせる。


「ラーメン屋は中華街の中にあるんだ。だから食べ歩きしたいと思っているんだよね」


「食べ歩き!」


やはり食い付いてきた。食事も音楽も享楽も、ありとあらゆる現世の楽しみをあまねく好む彼は、もちろん私との食べ歩きも好きだ。前々から私も彼とはしたかったし、実は中華街でラーメンの以外の物を食すこと自体私も初めてである。なので心境としては初めてのラーメン屋と食べ歩きに胸を逸らせる燕青のそれと全く一緒だ。


「決まったんなら行くぞマスター!」


「ちょっ、コート忘れてるっ! ああもうっ」

脱兎の如く家を飛び出した燕青を追って私も家を出た。