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友情ごっこ



上手に塗れたネイルが剥げるのは、見てて気分がいいものじゃない。不器用な私が丁寧に丁寧に、それこそサソリから細い爪楊枝状の棒を借りてまで塗ったのだ。それがたった一戦で、岩肌が顔を出すほどの荒野みたくボロボロになってしまうなんて。


「塗り直しかぁ……。めんどくさ」


黒のネイルから生爪が顔を覗かせる自分の爪を見て、深深と溜息が出た。マニキュアのあの筆だけじゃ上手く塗れないから尚めんどくさい。サソリからあれを借りてもう一度同じことするくらいなら、いっそのことこれを機に全部剥がしてしまおうか。既に廃寺となった本殿の中でごろごろしていたら、外からサソリとデイダラが入ってきた。確か二人はペインに次の任務を聞きに行くと言っていたはず。心地よくない床から身を起こした。


「おかえり。なにか言い渡された?」


「ああ、小国の長の護衛だ」


「またみみっちい任務だぜ、うん」


デイダラは態度からして嫌々そうだ。かく言う私も同じ心境だ。ここ最近自分の力を遺憾無く発揮出来る任務にありつけていない。だが暁の売名には小規模の依頼でも引き受けなければならない。しょうがないと思ってもやっぱ気乗りはしないな。サソリはどう思ってるんだろう。ヒルコに入ってるから表情は解らないし、声だって淡々としてるから、いっそう解らない。


「お前また剥げてんじゃねえか、うん」


「以前敵と対峙した時に剥げた」


「そう言えばかなり暴れていたな」


「あんなの暴れのうちに入らないって。むしろ暴れ足りないくらいなんだから」


「で? どうすんだよそれ。今から塗り直すのか?うん」


「んー」


くいっと顎で指される。どうしようかな。手元にマニキュアあるから塗れないことはないが、でも今から任務だしな。小国でも長の護衛ともなれば敵との遭遇率は高いだろう。出逢えば百発百中戦闘になる。塗ってもまた剥げるだけ、か。それに乾くまで待つのもめんどくさい。


「いいや、戦闘時どうせ剥がれるし。めんどくさいからこれを機に全部剥がす」


よいせ、と立ち上がった。老女みたいと言った奴はあとで表な。さて行くかー、と気合を入れたら何故かデイダラに「座れ」と両肩を沈められた。どうしたのと聞く間も与えられず片手を取られ、どこからか出した黒いマニキュアを開ける。


「オイラが塗ってやるぜ、うん。サソリの旦那は右手な」


「いやいや、塗ってもらわなくても」


「さっさと手を出せ」


「いつの間にヒルコから出たし」


どういう流れか左手をデイダラに、右手をサソリに塗ってもらうはめになってしまった。二人とも案外器用なもんで、一分にも満たず他の爪を黒に染め上げていく。しかもはみ出さずに。サソリは傀儡使いだしそうでもないけど、芸術は爆発だとか言いながら大雑把に暴れ倒すデイダラが、こんなにも繊細だとは思わなくてかなり圧巻している。


「出来たぞ」


「おおぉ、綺麗」


両手を掲げて見てみる。指と指の間から漏れる陽の光は爪の黒を綺麗に映し出した。淀みのない平坦な黒。私が塗ると倍以上の時間がかかる上に必ず失敗するというのに。手を眺める私にデイダラは自信げに胸を張る。


「当たり前だろ、オイラは天才だからな。うん」


「デイダラが器用なことに今年一番驚いてる」


「オイラがそんなに不器用に見えるって言いてえのか?うん?」


「日頃の戦闘スタイルを見てれば、ねぇ?」


「殺す!」


「おいお前ら、行くぞ」


取っ組み合いに発展しそうなところをサソリに窘められて終わる。そうだ、ネイルが剥げるたび二人にこれから塗ってもらうことにしようっと。