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お互いのタイミングが合わず、久しぶりに顔を合わせた恋人に健三は苦々しい表情で告げる。違法薬物にしては安価に、そして学生の間で広まっていることに気をつけてほしいと思い切り出した会話だった。
揃いの部屋着に身を包み、ちょこんと座る少女は「レッドラム」の言葉に僅かに肩を震わせる。普段はさまざまなことに無頓着な男だが、恋人のこととなると違う。健三は今日一日覇気の無い恋人の、その理由の一端を掴んだ気がした。
「…誰にやられた」
いつもより数段低い声に少女は心臓が痛くなるのを感じた。言ってしまうべきか、健三が入院して連絡が取れない間に己の身に起こったことを。心配させたくない、嫌われたくない、自分勝手なのはわかっていても溢れ出る感情に蓋をすることなどできるわけもなく鼻の奥が痛くなり自然と涙が溢れ始める。
「すぐに、言わなくてごめんなさい、」
「怒らねぇから言えって」
できる限り優しい声が出るように気をつけて、向かい合うように座り直してから健三は恋人の顔を覗き込んだ。目線が合うとはらはらと止まることを知らない涙が粒となって、二人の膝を濡らす。
嗚咽の合間に紡がれる言葉を懸命に拾い集めるとこうだ。健三の入院中に、以前喧嘩で負かした相手が健三を誘き出すためにあろうことか恋人を攫い、連絡がつかないとわかると少しでも痛手を追わせたいと例の違法薬物を飲ませたということだった。
「つまりあれか、俺に喧嘩売りてぇってことだな」
「ごめんなさい、」
「おめぇじゃなくてよォ…」
セットしていない頭を荒っぽく掻いて、恋人を気負わせまいと笑って見せる。俯いたままの少女は鼻をすすってからもう一度謝罪の言葉を口にした。
「体はなんともねぇんだよな?」
こくりと頷いた少女の頭を無骨な手が無造作に撫でると、ほんの僅かだが落ち着いた様子で「ありがとう」と微笑んだ。
「じゃ、俺便所」
「ふふ、いってらっしゃい」
よっこいせと健三は立ち上がると空気をなごませるように片眉を上げて笑う。へへ、と腫れた赤い目で笑う恋人に「漏れそうだから便所行くわ」と冗談を重ねれば、困ったように安心した笑みを浮かべて短く返事をした。
部屋を出てから扉を閉めたことを確認して、健三は手慣れた動作で電話をかける。旧知の仲の男に彼女との時間を割くのは癪だが仕方ないとコール音に耳を傾けた。
「なぁ、調べてもらいてぇことあんだけど」
気だるそうな男の声に簡潔に詳細を付け加えれば、了承の返事が帰ってくる。
数日後、少女に傷を負わせた男たちが山積みになって見つかるのはまた別のお話。
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