嘘でも愛を伝えていた話
そこにジゼルと、長い黒髪の女がいた。
女はジゼルの上にまたがり、妖艶な笑みを浮かべながら、その顔を覗き込んでいる。
「ねえ、ジゼル。どうして避けるの?」
大きなたれ目が、じっとジゼルを見つめる。
艶やかな唇が、今にも触れそうなほど近づいて──
「……おいおい、なに勝手に乗っかってんだよ」
ジゼルは苦笑しながら、片手で女の肩を押し返す。
しかし、女は怯むどころか、さらに身を寄せてくる。
「いいじゃない、昔みたいに楽しみましょ?」
女の声は甘く、誘惑そのものだった。
ゆるりと指がジゼルの顎をなぞり、唇を塞ごうとする──
──しかし。
「悪いな、もうそういう気分じゃねぇんだよ」
ジゼルはすっと顔を逸らした。
「……え?」
女が僅かに目を見開く。
「昔は、楽しかったぜ? お前、情熱的だったし、すげぇ優しかったし」
ジゼルは軽く笑う。
「でもな、今はもう……そういうのはいい」
「どうして?」
女の表情が陰る。
「ねえ、ジゼル。あたしのこと、もう要らないの?」
「そういうことになるな」
ジゼルは淡々と答えた。
女はしばらく黙っていたが、やがてふっと寂しそうに笑う。
「……おまえ、変わったわねぇ」
「そうか?」
「うん。昔は、こんな風に冷たく突き放したりしなかった」
「まあな」
ジゼルは肩をすくめる。
「でも、もう戻る気はねぇよ」
女は少しだけ目を伏せたが、すぐに立ち上がり、ゆっくりとドアへ向かった。
「ふぅん……そ。じゃあ、仕方ないわね」
「おう、元気でな」
「ジゼルこそ、ね」
女は最後に名残惜しげにジゼルを見つめたが、そのまま静かに部屋を後にした。
ジゼルはそれを見送ると、ふーと息をついた。
こうも元カノに連続してこられると気が滅入る。
しっかし、よっぽど俺の情報漏れてんなコリャ。
情報ってのは商品だ。加えてそれそのものだけでなく流通したこと自体にも価値が生じる。
おれが黒の暴牛のお抱えになってることが知られている。転じてみればそれはその情報を欲しがる奴がいたってことの証明にもなる。
まぁ、大体察しはついてるけど。
ここにきて、過去が俺を追い詰めるってね。ずらかる支度だけでもしとこうかなぁ。