忘れてしまった白銀の話
ジゼルは、何度目かも分からない夜を過ごした。
男とも、女とも。
その時々の相手は違えど、することは変わらない。
交わされるのは甘い言葉、もしくは刹那的な欲望。
指が肌をなぞり、唇が触れ、声が漏れる。
誰かの熱が己の中に入り込んでは、また消えていく。
それは、生きるために必要なことだった。
情報を引き出すため、信用を得るため、時にはただ場の流れに任せて。
ジゼルにとって、それは特別なことではなかった。
(なのに、なんでだろうな)
今夜も知らない男と身体を重ね、適当に満たされたふりをしながら、ふと、思った。
──ノゼルの感触を、もう思い出せない。
唇の柔らかさは?
指の温度は?
どんなふうに触れてきた?
何もかも、ぼやけてしまった。
忘れたかった。
記憶から消し去りたかった。
だから、こうして何度も、何度も。
自分の身体に新しい記憶を刻み込んできたのに。
なのに。
(……なんで、哀しいんだ)
思い出せなくなったことが、こんなにも胸を締めつけるなんて。
「……クソが」
ジゼルは天井を仰ぎ、虚空に向かって吐き捨てる。
隣で眠る男の肩が、微かに上下していた。
知らない奴の、知らない肌。
何度繰り返しても、決して満たされない感触。
(あいつは……どうだった?)
思い出せない。
忘れたかったのに、忘れてしまったことが、こんなにも苦しい。
夜の闇は静かで、遠くで犬の鳴き声が響いた。
ジゼルは目を閉じたまま、そっと、自分の唇に指を押し当てた。